第7話 女性には裏がある?

「Sランクって冗談ですよね? そんなランクあるとも聞いた事ないですし」

「嘘じゃねぇよ、安心しろ、俺らと一緒に受けて貰うから」

「一緒に?」

「あぁ、そうだ、俺達に同行してもらう」



 どういうことだ。

 そもそも来たばかりの俺がいきなりSランクなんて……。



「詳しい話は私が説明するわね」

 空気を見かねたアイシャがフォローに入る。



「まずSランクについて説明するわね。ショウヤさんに伝えたように冒険者のランクはA~Eランクまであります。しかし、時に危険度の高い依頼を冒険者ギルドが直接受ける事があります。その依頼の内容は、本来国が動かなくてはならないのですが、今は魔族国家との戦争が続いてますので、こちらに依頼が内密に入るの」



 なるほど、国が戦争で忙しいから、対処しきれない問題をギルドで解決しているって事か。



「その危険度の高さから、ランク付けをSとして、こちらで厳選したAランク冒険者にこうやって直接依頼しているのよ」



 依頼が危険だって事は分かったが、なんで俺なんだ。

 俺なんてまだ魔力も使えないぺーぺーなのに。



「まぁこの依頼は危険だから、俺達の他に仲間を探していたんだが、皆忙しそうだったからな、そんな時にお前が来たわけだ」

 タクヤが俺を指差し、ニヤつきながら語る。



「何で俺なんだ?」

「まぁ別に深い理由は無いんだが、この前に暴れた姿を見た時、お前なら連れてっても死なないだろうと思ったからな、俺が推薦したんだ」


「そんな、俺なんて戦力になるかどうか……」

「大丈夫さ、道中で俺が教えてやっからよ」



 冗談じゃねぇ。

 来て早々と死にたくねぇんだよ。



 するとタクヤの向かいに座っていた老人が口を開く。

 見たことない顔だ。



「フォッフォッ、お前さんなら大丈夫だろうて、モンスターワームも一人で倒したと聞いとるよ、昨日の暴れっぷりも見とったからのう」



 爺さんも俺を押してくる。

 なんだこの爺さんは?



「あっ、ご説明がまだでしたね、こちらギルドマスターのヴァングさんです。このギルドで一番偉い人なんですよ」



 えっ!

 この爺さんがギルドマスターかよ!



「アイシャさん! そういう事は早めに言ってください」

 危うく失言してしまう所だったぜ。



「申し訳ありません、ショウヤさん。しかし、このお話はショウヤさんにとって美味しいお話なんですよ!」



「オイシイ? 何でですか?」


 心なしか、微笑んでいるはずのアイシャさんの目が、全く笑っていないように見えた。



「だってショウヤさん言ってたじゃないですか、Eランクの草むしりなんてやってられないって」

「はぁ………」


「そういう小さな仕事をしないでランクを上げるには、こういう裏道的なルートでしか上がれないと思うんですよ」



 アイシャさんはさらに近寄ってきて、耳元で冷たい息を叩きつけながら囁いてきた。



「私もこの後仕事が山積みなんですよ、こんな良い話もうありませんよ。ていうか早くやるって言いなさいよ、分かった?」



 怖っ!?

 マジ怖っ!?

 ヤバい、ヤバい、ヤバい!

 もう頭が回んない!


 なにこれ本当に同一人物ですか?

 この町の女神と思っていたのに、裏の顔怖っ!?



「どうしたショウヤ? 顔色が悪いぞ?」


「何でもないっすよタクヤさん! ありがたくその話受けさせて貰うっすよ……アハハハ……」



 俺は目の前の女性の圧力に屈した。



「さすがショウヤさんですね! 出発は三日後になります、しっかり準備してきてくださいね!」



 そう言うと、アイシャさんは元気にその部屋を後にして、受付へ戻っていった。


 はぁ、Sランクか、不安だなぁ……。

 ん? ところで依頼内容ってなんだろう?


「すみません、依頼内容って何なんですか?」

「それはな、暴竜の討伐だ」

「暴竜? それってドラゴンって事ですか?」

「あぁ勿論だ」

「あのやっぱ無しってできないですか?」

「男なら一度言ったことは貫けよ」

「ですよね……」

「とにかく、三日後の早朝に町の入り口で待ってるからな」




 今回の依頼は、北西の村にドラゴンが出現し、村人を襲っているので、必要ならば討伐するまでが依頼らしい。


 ただし、未だ死人は出ていないとの事だ。

 しかし、農作物などが荒らされて大変困っているので、依頼があったそうだ。



「大変な事になったね、ショウヤ」

 ギルドを後にして、エルマは俺を気にかけてくれた。



「ありがとうエルマ~! エルマは優しい女性だね~」

「何よその言い方は……」


「あの~……」



 急にエルマ以外の女性の声が割り込んできた。

 明らかに俺に話しかけてるよな。


 後ろを振り返ると、背が小さいが、豊満な身体の女性がそこに立っていた。



「あっ! やっぱりあの時の方ですね!」

「えっーと、どちらさんですか?」

「ショウヤ! いつの間にこんな娘と……」

「いや、違う、本当に知らないんだって! エルマ」



 マジで知らん。

 誰だこのロリ巨乳は!

 おっと、いかんいかん、どこを見てるんだ。

 俺はジェントルマンなんだ、落ち着け、落ち着け。



「お嬢さん、何か俺に用ですか?」

 すると、その娘は俺の手を取り、自分の胸に持っていった。


「えっ!?」

「やっと会えました! ずっとあなたを探していたんですよ!」



 すんません!

 それより柔らかい感触で、頭パンクしてて、何も考えれません!


 俺を探している?

 俺は面識ないんだがな。



「ちょっと離れなさいよ!」

 エルマが俺と娘の両方の手首を持ち、遠ざけた。



「すみません、私としたことが取り乱して」

「はぁ」

「私はユミと言います、先日強姦から助けてくれてありがとうございます」



 な~るほど!

 あの時襲われてた娘か。

 確かに暗くて、はっきりと顔は見えなかったからな。



「どうしてもお礼を言いたくて、あなたの名前は何と言うんですか?」


「俺はショウヤ、あんな状況なら助けるのが普通だよ、怪我がなくて良かったよ」



 ここは紳士に対応だ。

 助けたから見返りがあるなんて思っちゃいけない。



「ショウヤ様! 本当にこの度はありがとうございました」



 様?

 何か様付けられちゃったんだけど。

 これは俺に惚れたのか、まさかそうなのか。



「いいよ、いいよ、今後は気を付けるんだよ」

 いかんいかん、ここは紳士に対応だ。


 いくら俺が二十二歳で童貞で彼女ができた事がないにしても、この程度で舞い上がってしまったら、痛い目を見るぞ。



 するとユミは俺の手を再び掴み、俺の目を真っ直ぐ見つめる。


「ショウヤ様、お願いです! 私をどうかパーティーに入れてくれないでしょうか? 荷物持ちでも、盾にでもなりますので!」



 ちょっと待て、待て。 

 話が飛びすぎだよ。

 俺のパーティーに入りたいだと!


 こちとらまだパーティー誰とも組んでないし、明後日からはSランクの依頼だしでたいへんなんだよ。



 これは昔ネットで見たことあるような。

 出会って間もない女性から誘いが来る場合は百パーセント詐欺だと。


 パパ活やら、美人局やら。

 男を利用するだけ利用して捨てる行為!



「えっーと、パーティーは間に合ってるから他を当たってください!」


それを聞いたユミはフリーズし、瞳だけがウルウルしている。


「ぐすっ、ぐすっ、そうですよね、ショウヤ様にはもう素敵な伴侶がいて、私の入る隙間なんてありませんよね……」



 あれ、間違えたかな。

 いや、この涙も嘘かもしれない。

 ていうか伴侶ってなんだよ、誰の事だ?



「伴侶って誰の事だい?」

「その横にいる女性が伴侶なんでしょ」

「えっ!」



 このえっ! は俺ではない。

 エルマである。 

 俺もだが、流石のエルマもこの発言には驚いたのだろう。

 顔がどんどん赤くなっていく。



「誰が伴侶よ! 誰が!」

「えっーと、違うんですか、ショウヤ様?」

「そうだね、エルマはこの町に連れて来てもらって、案内をいましてもらってるんだ」



 すると、ユミの涙が止まり、哀愁の表情から一転、笑みを浮かべる。


「それでは私がショウヤ様について行っても問題はないですよね」

「いや、しかしだね」

「一人よりは二人の方が楽ですよ」

「そうなんだけどね……」

「じゃあ決まりですね、ショウヤ様、今日から宜しくお願いします」



 駄目だ、年下に論破された。

 てか、女には俺、本当に無力だな。

 妹以外ろくに関わって無かったからな。



「分かったよ、宜しくなユミ」

「宜しくお願いします、ショウヤ様!」



 まぁとりあえず仲間ができたという事で良しとしますか。



「めでたくパーティー結成した所で悪いんだけど、ショウヤ、その娘も連れていく気?」


「何処に?」

「ドラゴン退治よ」

「あっ! どうしよう!」





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