理不尽と不条理あふれるこの世界から逃げ出します

餅頭

第1章 とりあえず逃げます

第1話 せめて説明をくれ

「今からあなたは狼の群れに追われます。捕まったら死にます。頑張って逃げてください」


「は?」


「それではよーい、どん」


「「「「グルァァァアアア!!!!」」」


「ちょっ、待っ!? えええええええ!!!??」



 俺の名前は佐藤タケルとか呑気に自己紹介してる場合じゃねぇなんだこの状況やばい死ぬ逃げろ逃げろ逃げげげげげげげ。



「ぎゃあああああああ!!!!」


「おー。良い逃げっぷりですね。さすが私の見込んだモルモ……勇者です」


「誰!? いやもう誰でも良い! とにかく説明プリーズ!! プリィィイイイズ!!!」



 見渡す限りの草原。全力疾走する自分。迫る狼の群れ。並走というかなんか浮かんだ状態で付いてくるアルビノっぽい謎の銀髪女。その口から放たれる不穏な単語モルモ。


 正直意味不明にもほどがある状況だが、そんなんいちいちツッコんでたら後ろの狼に物理的にツッコまれて死ぬ。

 故に俺は現状で最も重要な情報を得るために横にいる銀髪女に話し掛ける。というか叫び掛ける。



「そうですね。話せば長くなりますが、これは遥か昔異界の神々によって課された──」


「俺は!! どうすれば!! 助かりますか!?」


「逃げてください」


「どうやって!?」


「走って」


「走って狼から逃げられるかぁぁあああ!!!」


「ごもっとも」



 うんうん。と隣でうなずく銀髪女。

 いやうんうんではない。俺が欲しいのは納得ではなくて助かる方法だ。

 ただでさえ混乱と酸素不足で頭の回らない俺はガチギレしながら叫び散らす。



「説!!! 明!!! しろやぁぁあああ!!!!」


「なんですかあなたはさっきから叫んでばかりでうるさいですね殴りますよ」


「あああああああああああ!!!!!」



 人間はとことんまで追い込まれると発狂するらしい。俺は今それを学んだ。そしてその学びは今何の役にも立たない。

 そうこうしているうちに狼の声と足音がどんどん近付いてくる。



「「「グルルルルッッ………!!」」」


「ハッ、ひゃっ、はひっ! ひぃぃいい!!」



 やばい。マジでやばい。どれくらいヤバいかっていうとマジで超スゲーヤバい。


 背後から迫る濃密な死の気配に、過大なストレスによって明滅する視界。

 一歩でも速く前へ。そんな意思とは裏腹に、手足が重く、鈍くなっていく。


 死ぬのか、俺は。

 こんな訳の分からん状況で。

 狼に噛まれて。蹴られて。喰われて。



「スピード落ちてますよー。がんばれー」


「ひゅっ……かひゅっ……はっ………」



 隣に視線を向ける。女が居る。銀色。笑ってる。何だお前。誰だお前。いやマジで誰だお前。


 違う。そんなこと考えてる場合じゃない。走れ。走らなきゃ。動けよ足。動け。動けって。


 前、前に。速く前に。前? 前ってどっちだ。わからん。後ろではない。後ろは死だ。狼だ。前。前。前………


 苦しい。熱い。水。痛い。噛まれてる。いや、気のせいか。わからない。嫌だ。死にたくない。死ぬ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌────















「あー、なんか無理そうなんでもういいです。お疲れ様でした。さっさと狼の餌になっちゃってください」


「────は???????????」



 キレた。



 俺はキレた。



 それはもう。



 これ以上ないくらいにブチギレ散らかした。




「ンッッッッキャァァアアアアアアッッッ!!!!!」


「ぐえっ」



 こめかみの血管がブチブチと弾ける勢いそのままに俺は銀髪女の腰へと組みつき野猿の如き奇声を上げながらジャーマンスープレックスを決めてやった。

 銀髪女の後頭部が大地と濃厚な口付けを交わし、潰れたカエルのような声を漏らす。



「ホァッ!!! ホァッ!!!! ホゥァアアアアッッ!!!」


「キャインッ!!?」



 そのまま銀髪女を放置し素早く体勢を反転。

 間近に迫る狼の群れに向かって、吠え猿の如き怒声を発しながら飛びかかる。

 そして流れるように先頭の狼の鼻っ面に蹴りを一発。着地と共に拳大の石を拾い、倒れ伏した狼の脳天へと振りかぶる。



「ガウッ!!!」


「ギッ……!!」



 しかし仲間の狼の突進によってその攻撃は中断される。

 衝撃を受けた身体はくの字に曲がり、転がるようにして地面に倒れ込む。そして好機とばかりに四方八方から狼達が殺到した。



「ギャギャギャギャッッッ!!! ギギィィィイイイイ!!!」


「「「ガルルルルァァアアアアッッッ!!!」」」



 殴る。噛まれる。踏まれる。殴る。噛まれる。蹴られる。引っ張られる。千切れる。蹴る。噛まれる。噛まれる。噛まれる────。


 上も下も分からないほどの混戦の中、握りしめた石を打ち据え、手を、足を振り回し、死力を尽くして暴れ回る。

 その目に理性の色は無く、人語を解す知性すら失われた佐藤タケルという名の獰猛な猿は、あらん限りの咆哮を放ちながら、襲い掛かる死に果敢に抵抗した。


 血飛沫が舞い、肉が飛び、臓物が潰れる。

 敵のもの己のものか、それすらも分からないものに塗れて、なお足掻く。

 何のために?

 生きるために。

 ただ、目の前の敵を殺すことだけを考え、痛みも恐怖も置き去りにして、ただ、もがく。


 永遠に続くかのように思えたそれは、しかし永遠ではなく。

 永き戦いは、やがて終わりを迎える。


 大地に倒れ伏す敗者と、立ち上がる勝者。

 敵と味方の入り混じる混沌したその戦いは、しかし最後だけは、はっきりとその結末を示した。


 そう。


 俺は。


 この理不尽と絶望の戦いに挑んだ、佐藤タケルという勇敢な戦士は────





















「「「アォォォオオオオオオンッッッ!!!!」」」


「いや無理」



 普通に負けた。



─────────────────────

投稿テストです。

特にプロットとかも無いので飽きるまでのんびり続けます。

なお佐藤タケル君は一切のんびりできません。かわいそう。

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