隣の丘さん

@imann

隣の丘さん

ピピピとスマホからなるアラームで目が覚めた。しかしまだ意識は覚醒していない。部屋にあるものは大体見て取れるが、一つだけあからさまに違和感があった。


  「明人起きて~」


違和感の正体は俺の妹だった。妹は目覚ましよりもうるさい声を部屋中に響かせる。折角快適に起きれそうだったのにやめてほしいものだ。


  「起きてるなら返事して~」


  「起きてるってば」


しつこく言ってくるので、半ばキレ気味に返事をしてしまった。


  「ご飯出来てるから早く来てね」


  「分かった....その....」


  「何?」


  「さっきはキレ気味に返事してごめん」


快適な起床を邪魔されたとはいえ、絶対にアラームの音だけでは起きれるはずもなく、学校に遅刻してしまいそうだったので、起こしてくれた妹には感謝したい。


  「別にそんなこと気にしてないわよ。それよりもご飯冷めちゃうから、下行こ」


  「そうだな」


ベットからゆっくりと起き上がり、体が硬直しているので少しだけ上にのびてから、朝食のあるリビングへと向かった。




  「行ってきます」


  「行ってらっしゃい明人」


妹は虚弱体質なので学校に行けない日があり、昨日は深夜まで勉強していたと供述しており、今日の朝一気に疲労感に見舞われたらしい。その妹を心配しながらも学校に行かなくては行かないという焦燥に駆り立たられ、玄関を出た。


  「あっ、明人君やっほ~」


玄関の鍵を閉めようとポケットの中にある鍵を出そうとした瞬間に左隣りから聞きなれた声が聞こえた。


  「おはようございます、丘さん」


  「はい、おはようございます」


この声の持ち主の丘さんは、年齢が30歳を超えているがとんでもない美貌の持ち主で、近所の人からはモデルをやっているのではないかと噂されるぐらいに綺麗だ。もちろんこんなにも綺麗なので当たり前のように結婚している。俺は丘さんのことを直視出来ずに、少しだけ目線を下げて挨拶をしていた。


  「あら、おばさんに目合わせてくれないの?」


  「いえ、そんな訳ではないんですが....」


そのことを問い詰められ声まで震えてしまう。


  「ふふ、可愛いから許してあげます。それじゃ、学校頑張ってねぇ~」


  「丘さんこそ無理なさらず」


そうポニーテールをなびかせ、手を振りながらアパートの階段を駆け下りる丘さん。


  「はぁ~朝から心臓が張り裂けそうだった」


丘さんの美貌は目の保養にもなるが、時には、人の心臓を切り裂く凶器にもなることを丘さんには自覚してもらいたい。


  「と、もうこんな時間か」


右腕についている腕時計は8時25分を指しており、学校が始まる15分前となっていた。折角妹に起こしてもらったのに、遅刻するなんて申し訳が立たないので、丘さんの後に続いて俺も階段を下った。


  

  「はぁ、はぁ、はぁ」


息を切らしながら教室へと続く階段を昇る。


  「これは朝妹に起こされなかっら遅刻だったな」


と心の中で呟き、教室の扉を開け自分の席へと座る。


  「明人遅いよ~」


座ると同時に、隣にいる麗華が不満げ交じりにそう言ってきた。


  「今日は随分と調子が良さそうじゃないか。何かいいことでもあったのか?」


不満げながらも何か言いたそうな雰囲気を醸し出していた麗華。それを察知し聞いてはみたものの、こいつがこういう雰囲気の時はロクなことが起こった試しがない。


  「ふっふっこれを見てみなさいな!」


先程まで隠していた両手を勢いよく前へ持ってきた。するとそこには”オカルト入門編”と書かれた本があるではないか。


  「これ一体何に使うんだ?」


素直にそう疑問を持ち問いかける。


  「これを使えば世の中の闇をも暴く超越者になれる気がする」


などと自信満々に言うもんだから、恥ずかしさをあまり感じはしなかった。しかし世の中の闇を暴くのなら、入門ではなく応用にしておくべきではないかと思った。


  「へぇー良かったな。まぁ精々頑張ってくれ」


  「ストップストップ!!!」


興味なさげに棒読みで返しをしたら、F1のような勢いで麗華から”待った”が入った。


  「ストップってどういう意味だよ」


  「そのままの意味だよ」

  

  「分からないよ」


あほみたいな会話をしているせいで、無駄にクラスの皆からの注目を集めている。


  「と、とにかく私一人じゃ寂しいから明人も道連れってこと」


  「おいおい、そこに俺の意思はあるのか」


  「もちろん、ない」


清々しいほどの笑顔でそう答える麗華、やはりこいつがあの雰囲気で話しかけてきた時には百発百中でロクな事が起きないな。


キーンコーンカーンコーン


6時間目を終えるチャイムの音が鳴り響く、今日は金曜日ということもあり、皆はテンション高めにしているが....


  「さぁ、いよいよ放課後ですよ明人。覚悟はいいですか」

 

  「どうせ嫌って言ってもするだけなんだろ」


  「その通りです」


最初はあまり乗り気ではなかったが、俺も男の端くれ、少しばかしだが興味が湧いてきた。








オカルトの事について習うこと30分


  「いやぁ、それにしても楽しいですね~」


本を勢いよく閉じ、何かをやり切った感を出す麗華。一方で思っていたのと違うことをさせられた明人。


  「はぁ~この本、ほとんどが陰謀論的なやつじゃねぇか」


  「むむ、陰謀論とは失礼な。これはちゃんとした監修の元で作られているんですよ」


  「ていう割に飛ばし飛ばしで見てたじゃねぇか」


  「うっ....でも催眠の所だけはしっかりと読みましたから」


確かに、”催眠”という項目の所だけは、やけにページ数が多くびっしりと書かれていたが、如何せん内容が催眠のやり方と効果しか書いていなかったから実際に効くかどうかは分からない。


窓から差す光は徐々にオレンジ掛かり、時計の針は5時を指していた。


  「やべっ、もう帰らないと」

  

  「えぇ!まだ読みたかったのに」


残念そうに目を向けてくる麗華


  「妹が体調不良なんだ、また明日にでもしてくれ」


  「そっか、ごめん無理やり放課後に残らせちゃって」


  「ゆうて残ったのなんて30分だけだったし、それにオカルト、意外に面白かったしな」


  「そうなの....」


  「あぁ、次は応用編だな」


そう言いながら、麗華だけを教室に残し、学校を後にする。



走ること10分。息を切らしながらもこのスピードで帰れば上場だ、早く家に入って妹の様子を見ようと家の鍵を開けようとしている所に、ぐったり歩いている女性の姿が見えた。


  「丘さん!!!」


今にも倒れそうになる丘さんを庇うようにして肩を貸す。


  「あ...ありがとね明人君....」


  「何があったんですか?」


普段の様子とは一回りも二回りも違う丘さんを見て、聞かずにはいられなかった。


  「まぁ、ちょっと会社で色々あってね...別にそんな大したことじゃないんだけどね」


乱れた髪を必死にかきあげ言ってくる。


  「そんな辛そうにしてても説得力ないですよ、取り敢えず僕の部屋に来てください。話聞きますから」


  「待って....」


玄関の鍵を開けようと鍵穴に鍵を入れようとした瞬間に丘さんが俺の服を掴み抵抗してくる。


  「その....私の部屋でもいいかな?」


  「べ、べ別に良いですけど」


何故俺の部屋じゃだめなのか、と問いただそうとしたが、その誘い方があまりにも魅力すぎたので、少し動揺してしまって勢いで返事をしてしまった。


  「よいしょっと....」


俺の肩を借りて必死に立ち上がり、呼吸を整えながらやっとの思いで鍵を開けた。


  「えっ...」


俺の立っている位置から丘さん夫婦の内装を一望出来た。アパートなので部屋の作りは俺達のとほとんど変わらないが、リビングに繋がる廊下は物で散乱しており、見ての通り足の踏み場もなく、リビングに行くだけで相当な体力を消耗するだろう。おまけに洗濯物が玄関のすぐ近くにあり、大胆にも下着が吊るしてあった。


  「見られるのは恥ずかしいけど、こっちばかり明人君の家にお邪魔してばっかで悪いから」


慣れた足取りで棘の道を進む丘さん。


  「別にそんなこと気にしなくても...」


丘さんの後に続けて俺も行こうとしたが、足に棘が絡みつき、中々前へと勧めない。


  「気にせず踏んでくれればいいよ~」


あっという間にリビングへ到着した丘さんが俺に叫ぶ。


  「それなら、このゴミ山を片付ければもっと歩きやすくなるんじゃないんですかーー」


こちらも丘さんに負けじと叫ぶ。


  「はぁ.....はぁ.....」


  「明人君疲れすぎだってばぁ」


やっとの思いでリビングへとたどり着いたが、アスレチックでもやったのかと言わんばかりの呼吸の乱れ具合だ。


  「なんで....片付けないんですか...?」


丘さんはともかく、これじゃあ旦那さんが可哀想すぎる。


  「うーん、私としてはもう慣れた景色なんだけど、旦那が一向に面倒くさいって言って片付けないのよねぇ」


旦那が元凶かよ!


  「まぁ、取り敢えず座って座って」


そう言うと、無理やり別室に案内させられ、ソファーに座らされた。


  「はいこれ」


  「良いんですか、貰っても?」


  「いいのいいの、夫がバカだから、食べきれない量まで買ってきたから」


はぁ~と溜息をつきながら。丘さんは俺にプリンを手渡してきた。


  「こっちの部屋はあの廊下と違って綺麗なんですね」


さっきのあのおぞましい廊下とは違い、ここの部屋は、物が散らかっておらずちゃんと収納されている。


  「ここは私の部屋だし~旦那の部屋はあっちにあってね、あっちは私でも見るに堪えないというか...」


あの大雑把な丘さんがここまで言うのだから相当なのだろう。


  「で、話を戻しますけど、今日何があったんです?」


元気にふるまっているように見えたが、やはりいつも通りの覇気はなく、今の丘さんはどこか哀しげだった。


  「そうだね....本当は明人君を心配させたくはなかったんだけど、嫌って言っても聞いてくるでしょ」


  「そうですね。そんな状態の丘さんはあまり見たくないですから」


  「そういう所、昔から変わってないんだから....」


夕日が差す窓を見ながら、独り言のように呟いていた。


  「ごめんね、何か一人で言って」


  「気にしませんよそのぐらい」


むしろ、普段とのギャップがある分、さっきの態度は中々に響いた。


  「でね本題に移るけど、別にそんな大した話ではないんだけどね。その....上司からの圧と言いますか、パワハラと言いますか...そんな感じの事を受けて精神的に病んでいたの」


  「パワハラだって...そんなの...」


許される訳がない、と言いそうになったが、俺はあくまで第三者。事情も知らないのに介入できる余地がない。


  「いつも同じような事はされて慣れてるはずなんだけどね~何で今日はこんなにも、辛いんだろうね」


部屋の空気が重くなる。それは精神的な意味でもあり、物理的にも


  「丘さん、無理してたんですか」


  「夫にはいつも愚痴とか聞いてもらったりして何とか精神を保ってきたけど、今日ので完全にいかれちゃったなぁ ははは」


苦笑しながらプリンを頬張る。


  「はははじゃないですよ、これは警察とか、もっとこう労働環境を改善してくれるような施設に頼むとか」


  「やったよ」


  「え?」


  「全部やった。でも一つたりとも改善なんてされなかった。むしろ悪化したぐらい、そのおかげで新人の子達も上司の餌となり、退職していった」


今までに聞いたことのない冷たい声で淡々と話す丘さん。丘さんの目はもう希望など見えてはいなかった。


  「.......」

 

  「......」


しばらくの間沈黙が続く、俺はその中で一つ思い出す事があった。


 

 





  「おい催眠ってなんだよ」


  「明人、催眠を知らないの?」


  「知らないじゃなくてだなぁ、なんで催眠がオカルトというカテゴリーに属してるのかってのを聞きたいんだ」


  「最近のオカルトは催眠が主流ですよ、ほらここに、”あなたの健康を保つ催眠”とか”好きなように支配できる催眠”とか最近になって催眠で得られる効果の種類も増えてきてるんだよ」


  「どうだかねぇ~」


  「あー今絶対に心の中で馬鹿にしたよね」


  「馬鹿にしたってか、さすがに胡散臭すぎやしねぇか」


  「実際にやってみないと分からないよ」


  「それもそうだな」





あの催眠のページには”気分が明るくなる”催眠があったはずだ、外側が変わらないのなら、せめて内側から...



  「あの丘さん」


静寂した雰囲気を俺の一言で断ち切る。


  「どうしたの?」


先程のような声ではなく、いつもの優しい声で返事をしてくれた。


  「催眠って知ってますか」


  「あのテレビでやってる胡散臭いやつ」


  「はい、その催眠です」


  「それがどうかしたの?」


  「その催眠で、少しでも丘さんの精神を良くできないかと思ってですね.....」


自分で説明していて赤面する。それもそうだ、もしそれで催眠が成功でもしてしまったら、世の中の均衡が崩れてしまう。


  「明人君そんなことできるの!」


丘さんはつぶらな瞳で俺を見据え、興味津々にこちらに近寄ってくる。


  「できるというか、まだ実際にはやったことないですけど、一様友達から教わったというか...」


あれは本当に習った内に入るのだろうかと内心思った。


  「へぇ~すごいじゃん。やっぱり私の見込んだ男その名も明人」


  「やめてくださいよ、こっちが恥ずかしくなります」


  「へへごめんね~」


っと笑いながらはぐらかす。


  「でも、実際にはやったことないんでしょ」


  「はい、今日教わったばかりなもので」


  「なら、私で試してみてよ」


  「いいんですか!」


やると言ったのは俺だけど、こうもぐいぐい来られると、出来なかった時の事を考えてしまう。


  「うん、明人君は催眠が本当に出来るのかが分かるし、私も精神が回復する可能性があるって考えたら、win winじゃん」


手でグーサインを作りながら少し楽しそうに言ってきた。


  「実際にやったことがないので、効果がちゃんと出るかは分かりませんよ」


  「大丈夫大丈夫、上手くいかなかったら別の方法を試せばいいだけだし」


  「別の方法って...」


俺が出来ることと言ったら、催眠をかけて少しでも気を楽にすることぐらいしか。


  「まぁ、取り敢えずやってみようよ」


そう言いながら、丘さんは床からベットへと飛び乗った。その動作につられ、俺も慌てて催眠についての注意を話さなければならないと思った。


  「催眠と言っても暗示に近しいものでして、かかりやすい人とかかりにくい人に分けられるんですよね。丘さんがどっちになるかは分かりませんが、そこの所だけ注意してくださいね」


  「は~~い」


なんでこの人は今から催眠にかけられるというのに、こんなにも能天気なのだろう。


  「じゃあまずは、この紐の先にあるコインを見てください」


催眠といっても、よくある典型的なやり方で、紐につるしたコインを対象に見させて、相手にどうなってほしいのかを伝えながらコインをゆっくりと揺らす、それで催眠が完了するらしいのだが、相変わらず理屈が分からない。


  「そしてあなたは段々と心が晴れやかになっていき、悩みなどが一切吹き飛ぶでしょう~」


丘さんの目の前でゆっくりとコインを揺らす。それをただひたすらに真剣に見ている丘さん。それから20秒ほどコインを揺らし...


  「はい、終わりました。気分はどうですか?」


  「うーん、特には変わってない感じかな、別に心がスッキリした感じもしないし」


  「やっぱり、だめだったか」


丘さんに申し訳ないと思い、視線を下に下げる。


  「心が晴れやかになるって抽象的過ぎるからダメなんじゃないかな」


これは力量の差とかではなく、ただ単にかける暗示が何にでも意味がとれてしまうから、効果が薄くなったのかもしれない。


  「ていってもどうやって言えば伝わるんだろう」


精神というものそのものが曖昧なものとて捉えられているので、やっぱり表現としては抽象的にならざる負えない。


  「じゃあ、あなたはだんだんHになるってのはどうかな」


  「は!?」


唐突に何の前触れもなく、丘さんは突然そんなことを言ってきた。


  「Hになるってなんで」


  「いやぁ、その方が一番分かりやすいと思うし、興味あるでしょ」


胸元の辺りをちらつかせてきながら言った。


  「興味はありますけど...それは....」


駄目だ、と言おうとした口が塞がる。ここでもし断れば、実際に催眠が成功するなんて確証が得られなくなってしまう。


  「どうする、そのお題でしちゃう」


丘さんは、ますます魅力的な体をこちらに見せつけてくる。少し揺れるポニーテールでさえも愛おしく思うほどに、この女性に魅了されてしまった。


  「もし効き目があったとしても、すぐに解きますからね」


  「は~~い」


またもや、この女性に押し負けてしまった。

 

  「では、あなたはどんどんHな気持ちにな~る」


自分で言って恥ずかしすぎる。赤面した俺の顔を丘さんは覗き込むような形で見てきた。


  「赤くなってる可愛いね」


  「し、静かにコインだけを見ててください!」


  「は~い」


俺の注意のおかげでようやく揺れるコインに目を落とした。往復するコインはまるで振り子時計のように一定のリズムを刻みながら揺れている。その動きは催眠にはめる動きというより、睡魔を誘ってくるものに近かった。それからさっきの時間と同等ぐらいの時にコインを動かすのをやめ、催眠にかかっているかを確認する。


  「かかってそうですか~」


あまり期待はしていなかったので、気の抜けた声で丘さんの状態を確認してしまった。


  「はぁー.....はぁー.......はぁー.....」


余裕そうに、”やっぱり効果なんて無かった”と返事が返ってくるのかと思いきや、息が乱れ、全身からあり得ない量の汗が噴き出していながら、苦しそうに呼吸していた。


  「大丈夫ですか!」


すぐに催眠用の道具を床に起き、丘さんの体に触る。


  「はは、催眠術ほんとに効いちゃったみたい」


俺の体全身を指でなぞりながら、吐息交じりに言う。


  「効いたって....」


しかし俺には分からない。こんな適当な催眠が、ましてや俺なんかが成功させてしまうことが。でも、実際に成功している。催眠は嘘ではなく、本当にあるのだと。そう思うのに値する証拠がそこに。


  「もう我慢出来ないかも」


すると丘さんはいきなり上の服を脱ぎ初めにかかった。


  「ち、ちょっと何してるんですか!」


  「何って、体が火照ってるから脱いだだけじゃん」


その丘さんの顔はいつもの余裕そうな顔ではなく、何かを求めている、欲していることに必死な顔をしていた。そのせいか口調も少し荒くなっている。丘さんは俺に気にすることなく、どんどんと服を脱いでいき、最終的には下着姿までになっていた。


  「少しは隠してくださいよ!」


見たら後が怖いと思い、顔を思いっきり手で覆い隠すが、これも男として生まれた罪、覆い隠した手の隙間から少しだけ丘さんの下着姿を覗いてしまっていた。


  「はぁ~これで少しは涼しくなったかな」


大胆にベットの上に寝そべり、体を反らしているのが隙間から見て取れる。


  「もう、そんな手で覆い隠してないで...」


  「あっ....」


覆い隠していた手が丘さんの手によって振りほどかれる。隠すものがなくなったその顔は、あるがままに丘さんの姿を直視していた。


  「やっぱり、興味あるじゃん」


  「は......はい」


丘さんのその姿を直視している以上もう言い逃れは出来ない。


  「もっと見たいかな」


  「いえ、それは....」


いいです、と言いそうになるが自らの本能に逆らえない。気づけば自分の意志と体は乖離しており、コクン、と頷いていた。


  「素直な所あるじゃん」


そう言いながら、遂に下着まで脱いで裸になり、ベットの上へと座った。その姿があまりにも美しすぎてつい見惚れてしまった。丘さんも少し恥ずかしそうに自分のポニーテールを触っている。


  「私だけ裸ってのもなんだし、明人君も脱いでくれない」


  「お、俺もですか!」


丘さんの体を眺めていたら、そんな提案をされた。


  「私だけ裸っておかしくない、こういうのは雰囲気が大事だからさ」


  「雰囲気って....」


相も変わらず訳の分からない事を言い出す、これも催眠の影響なのだろうか。


  「四の五の言わずに、ほら脱いで脱いで」


  「うわぁぁぁぁ」


丘さんは何の躊躇いもなく俺の服を脱がせてきた。


  「はい、これで平等だね」


先程まで、丘さんだけが裸であったが今やこちらも裸。下手な事を言うと何をされるか分からないので大人しく座る。


  「うう恥ずかしい」


  「そう照れるな照れるな、これで準備は整ったんだからさ」


  「準備?」


  「そう、こういう事」


そう言い放った瞬間、俺の視界に見えていた丘さんの体はなくなり、黒い光景しか見えなくなっていた。気づけば体は宙に舞っており、約0.5秒間もの間丘さんが俺の体を引っ張ってベットの上に押し倒したのだ。


  「あっ....」


  「もう逃げられないよ」


がっちりと両腕を拘束される自分。何が何だか分からず、ただ目の前にいる丘さん茫然と見る事しかできない。


  「私ね、明人君に催眠をかけられてからだめみたいなの、どうか私を許して」


すると丘さんは、俺の体を指でなぞりながら、耳元に息を吹きかけてきた。いくら催眠だからと言ってこんなことをされたら理性が保ちそうにない。


  「はぁ、はぁ、はぁ、」


俺はただやられるがままになり、必死で呼吸をするだけの機械となっていた。


  「んっ//...」


丘さんはそんな俺には目もくれず、こちらも必死に俺の体を弄ぶ。あぁ、俺はこの女性にいつも弄ばれてばかりだ、そう考えると何故か心の奥底にある男としての尊厳が失われていく気がした。それは嫌だと...


  「うっ...ああ」


  「ちょ....」


拘束する二本の腕を振りほどき、女を下へ、上には俺が馬乗りになり、今度は俺が女を押し倒す形になった。


  「今まで散々弄ってきたんですから、今日ぐらいは俺に....」


  「明人君のそんな表情初めて見たかも」


女は依然として冷静を保っているが、額や胸に脂汗が浮き出ている、それが催眠による影響なのかは知らないが。


  「俺もう...我慢できませんからね」

 

  「うん、いいよ。明人君が望むのなら...」


静寂した部屋の中、俺と女は二人で体を合わせ抱き合う。気づけば女の結っていた髪は解け、ベットの上で乱れていた。


  「明人君の体あったかい」


女は、俺の背中に腕を回し、そう囁いてきた。


  「あなたも十分にあったかいじゃないですか」


  「そうかな...」


少し照れていた女は目線のやり場に困ったのか、必死に見せないように努力して俺から離れたが、俺からはその照れた顔が丸見えだった。


  「じゃあ....」


  「うん、いいよ....」


女はベットのシーツを勢いよく掴み俺の顔を見据える。俺も女を捕食する対象のように見返し、二人で布団の中に潜り込んだ。


そこから後の記憶ははっきりしていない、自分には刺激過ぎて、脳が上手く情報を処理できなくショートしてしまったのだろう。気が付くとそこにはぐったりしている丘さんの様子があった。



  「丘さん本当にすみません!」


俺はまず謝らなけらばいけないと思い、すぐさま冷静さを取り戻し、謝罪した。


  「いいっていいって、私が頼んだことなんだし」


一方、催眠が勝手に解けたのか、丘さんは、シーツで上半身を隠しながら気にしていなさそうな素振りで言ってきた。


  「しかも気分もちょっと良くなったし、催眠ってほんと凄い」


  「それなら良かったで....」


  「あ~あ、疲れちゃったのかな。ありがとね、こんな私のために」


意識が途切れそうになる中で、丘さんの声だけは鮮明に聞こえた。


  「また困ったら、お願いね」


その言葉を最後に完全に意識が途切れた。


  










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