モテ期

 「固定っていうのは、どんな感じなんだ?」

 「留まるよう命令されている感じじゃのう。」

 「まんだーらの絵には、何か意味があるのか?」

 「マントラゴラが、そういう意味だから、そのようになっているようじゃ。」

 「仏像も同じ?」

 「そうだな。」

 「じゃ、やっぱりメールみたいな感じでいいんかな…プロトコルが書き込まれた信号が飛ばされて、同じ意味のものに届く…」


 ’第六感ー気付きの能力’


 ーん?

 今度は何だ?


 「分かりました。」

 今まで、黙りを決めていた空っ海が口を開く。

 「お師匠さまを留まるよう命令していたのは、私の親でした。」

 顔色が分かるわけではないが、憔悴している様子だ。

 「さっきの話から考えると、中日如来が空っ海に心を預けて、空っ海が、無意識に操られたんだよな…」

 「中日如来の梵っ字は、空っ海と協力して作ったのじゃ。」

 「梵っ字自体に、空っ海の霊魂が混ざる、融合しているってことか…?」

 「そうじゃの…そうじゃった。儂は、今の今まで知らなんだ…」

 そうなのか。

 分からんものなのか…

 「親に命令というのは、虐待を利用されていたのか?」

 それなら、意識出来ない、多重人格になるのも頷ける。

 「そうですね。虐待とは思ってはいませんでしたが、なよなよしている自分を常に情けなく死んでしまえばいいとさえ、何時も思っていました。ですが、マナトさん。貴方に会って、自分を肯定することが出来た。情けない自分のままでもいいのだと。それで、話も相まって、親から開放される…まだ全てではありませんが、一歩前進することが出来たのです。」

 心なしか、中日如来もだが、空っ海の輝きが増したように見える。 

 だが、心細げで、たまに消えている。

 「そんな、1000年以上も前のことに何時までも縛られなくてもよかろうに…これを授けよう。」

 空っ海に、天使のコスプレをさせてみる。

 「今は、肉体は無いけど、自分の人生は誰でも自分が主人公だ。ほら、羽根を付けてやろう。もっと、好きに生きろよ。」

 無駄に、羽根を両側に3枚づつ付けてやる。

 羽根の数に意味があるのかは知らんが、何枚付けても、肉体の重さには耐えられそうもないが。

 まあ、霊魂だしいいだろう。

 ついでに、天使の輪っかも付けてやる。

 漫画でよくある、あの天使が着てるカーテンみたいのも着せる。

 漫画では凄いスリットが入って、太ももとか見えたりしてるんだけど、あれってパンツどうなってんだろ?

 「マナトさん…」

 空っ海が、ブルブル震えている。

 流石に怒らせただろうか。

 せめて、天使の輪っかくらいは取っておくか。

 ヤバいのは、スリットの方だろうか…

 

 「私は、貴方のものになりたい…!」

 

 天使が胸に飛び込んで来た。

 いや、天使のコスプレをした、空っ海だ。

 何を言ってるんだか、分からない。

 何が起きてるのか分からない。

 頭がどうにかなりそうだ。

 歴史上の偉人に俺は何をしているんだ。

 霊魂だから、透けてるし。

 いや、それもそうだが。

 こんなのどうしたらいいのかわからない。

 こんなの初めて。

 モテたことなんてないんだ。

 いや、これはそもそもモテていることになるんだろうか。

 キスをしたのだって、もう何年前になるのやら…

 ああ、そうだ!

 居るじゃないか!

 あの、mytubeにキスシーンばっかり、幾つも上がっている、マスターが!

 こちとら、ただのオタクなんだ。

 偉人の天使のコスプレの霊魂とか、ハードルが高過ぎて、お姫様に抱き付かれた、動けないルパーンみたいになってるんだ。

 助けてくれ!

 世界一のモテ男!


 期待をこめて横浜銀河を振り向くと、サッと顔を伏せられる。

 しかし、その頬はうっすら赤く染まっている。


 「俺だって、貴方のものになりたい…!」


 何故だあ!


   

 

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