まんだーら

 「詳しく話を聞こうか。」

 「切り替えが早いですね。そういう所も素敵です。」

 爽やかさを保ちつつも、熱い視線を向けられる。

 何故じゃ…

 好意を持たれるような場面があったろうか?

 先程の出来事を思い起こす。

 …マイナス要因しか見当たらない。


 だが、しかし。

 「じゃ遊びをしていて、中日如来に違和感を感じたんだが、どうしてだか分かるか?」

 「相手になりきると、感覚の共有が出来るのじゃ。マナトが中日如来になったから、より儂の問題が分かり易くなったのやもしれんのう。」

 「なるほど…能力を使ってみるぞ。」


 ’第六感ー気付きの能力’


 「…どうだ?」

 「違和感の原因はまんだーらのようじゃ。まんだーらに固定されて動けんように感じるのう。」

 「まんだーらに固定されてる?…確か宇木先生が、けいしんは、まんだーらの中国的改変を行ったと言っていたが、どういうことだ?」

 「元々あった、まんだーらより、強力なものを作ったのじゃ。具体的に言うと、元々あった梵っ字に手を加えて、強力な梵っ字を作ったのじゃ。通常の梵っ字の力を打ち消す事が出来るのじゃ。中日如来の梵っ字は中日如来しか使えん。」

 「へえ…よく分からんが、かなりすごいことなんじゃないか?」


 「多分なのですが…」

 神妙な面持ちで、話を聞いていた横浜銀河が、口を開いた。

 「俺はその力を使って、芸能界の価値観を変えようとしていたのだと思います。何か気分の悪い事があって、良くなればいいと強く願ったら、少し変わった事があったように思います。話を聞いて、その梵っ字を使っていたのだと気付きました。」

 「見た目も中身もイケメンとか…まあいい。別々に存在していても、能力は使えるのか…どうして、中日如来と、横浜銀河は別々に存在しているんだ?」

 「…恥ずかしながら、人を救うことにうんざりした、中日如来の一部が、横浜銀河として、別の人生を生きたいと思うようになったのです。」

 「それでも、人を救いたいって気持ちは変わらなかったんだな。」

 「貴方にそう言ってもらえたなら、頑張った甲斐があったのかな。」

 そう言って、流し目をくれる。

 テレビで見たことある!

 凄い破壊力だ!

 きっと、少し微笑んで見詰めただけで、どんな気位の高い女だって、素敵!抱いて!ってメロメロになるに違いないのだ。

 なんて、羨ましい。

 男として、負けた気がする。 

 悔しい。 

 ギャフンと言わせてやりたい。


 「俺の第六感が告げている。横浜銀河と中日如来が融合すれば、事態は進展する。」

 「そうじゃのう。儂もそんな気がするのじゃ。」

 「…それは、ちょっと…」

 横浜銀河は言い淀む。

 何かね。

 何か問題でもあるのかね。

 

 「自分があんなに馬鹿っぽいのだと思うと、ちょっと…」

 「すかしておるのじゃ!」

 「けしからんのじゃ。横浜銀河とやら。偏見はいかんのじゃ。」

 「…分かりましたから、中日如来になって、スピーカーで責めるのは止めて下さい。じゃあ、融合しますけど、絶対笑わないで下さいね?」

 「笑ったりするものか。」


 

 「ぷぷーっ」

 「笑わないって言った癖に!」

 胸がすっとした。 

 想像以上だった。

 目の前には、何だかこう、行楽地によくある、イラストが描かれた板に顔の所だけ穴が空いてて、そこから顔を出すヤツ、あれの仏像の顔だけ横浜銀河になってる。

 「集中するのじゃ!」

 グラグラしながら、錫杖をシャンシャンやっている。

 「可動明王と融合は出来ないのか?」

 「横浜銀河はすかしておるから、儂は気に食わないのだ。だから、融合出来ん。」

 可動明王は腕組みをして、ご立腹だ。

 苦虫をかみ潰したような顔をして、横浜銀河を睨んでいる。

 「イケメンざまぁ!」

 「貴方にイケメンだって言われると怒るに怒れないっ…」

 目を伏せ、悔しそうにシャンシャンやっている。

 

 「何か来るのじゃ。」

 そうやってしばらく、シャンシャンやっていると、横浜銀河と融合した、中日如来が言った。

 どうなってるんだか分からんが、喋る時はちょっと離れている。

 「また、中日如来の分体か?」

 「分からんのじゃ。じゃが、とても親しい感じがするのじゃ。」

 

 可動明王も心なしか柔らかい表情をしている。

 何が現れるのか興味津々で待っていると、人影が射した。 

 古めかしい着物姿だ。


 「お久しぶりです。お師匠様。」





 


 

 


 


  

 

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