悟りの境地

 「ワシは悪くない!」

 「うおお!びっくりした!おっさん誰?!」

 さっき迄、しおらしく泣いていた美少女が消え、おっさんにすり替わっていた。

 おっさんは、ご老公!とでも言われそうな見た目をしていて、和風っぽい服装をしている。

 本当に何処から湧いて出た?

 美少女は何処へ?


 「ワシはミナトだ…」

 「ミナト?え、あー、さっき言ってた1億年前に創られたっていう?と言うか、美少女は?」

 「美少女なんて、そんな…」

 「うわ!」

 おっさんがあっという間に、恥ずかしそうに照れる美少女にすり替わった。

 もしや。

 「同一人物か!」

 「転生した今の肉体が美少女…そうね美少女ね、うふふ…」

 「オーマイガッ」

 おっさんと美少女の間を揺れ動きながら、悦に浸っている。

 何がそんなに嬉しいんだ?


 「ふざけんな、おっさん!」

 「何だと。お前に俺の気持ちが分かるか!自分が甘えたいからってこんなおっさんにしやがって!しかも、自分の代わりに造物主になって欲しいと宣いおった!お陰で、おじいさんなのに、造物主より劣るなんて情けないとせっつかれ、造物主より優れていなければと…」

 ミナトは、ブルブル震えたかと思うと、剣を抜き放った。

 「ワシは悪くない!お前を殺して俺が造物主に成り変わるのだ!」

 ミナトは剣を振りかぶった。

 「死ねえええー!」


 「結界!」

 ーキィィン!

 ミナトの剣は直前で弾き飛ばされた。


 「クソおっ!」

 ミナトは悔しげに顔を歪めると、飛んで逃げ出した。


 「待てや、こらぁ!」

 俺も後を追って飛び上がる。

 どうなってるんだか分からないが、飛べているようだ。

 さっき適当に言った結界も、攻撃を防いでいたようだ。

 念じた通りになるってことか?


 「捕らえろ!」

 ロープみたいなものがミナトの身体に巻き付き、マナトは自分の方へ引き寄せた。

 

 「があああっ!」

 手足を縛られ、動けないミナトがマナトの腕に噛み付いて来た。


 指を滑らせ念じ、剣を出現させる。

 マナトは、ミナトの首を掴みあげると、縦横無尽に切り裂いた。

 ボロボロになったミナトが、尚も暴れ、血を吐く様に喚く。

 

 「ワシは完璧なんだ!人類に高い文明を与えて、巨大な建造物を創らせたのだ!ワシの偉大さを世界に知らしめた!」


 マナトは、ミナトの首を掴んだまま、地面に押し付けた。


 「生命はお前の玩具じゃないし、この世界はお前の玩具箱じゃない。」

 「ー!!」 

 その途端、ミナトが穏やかな笑みを見せて、すうっと消えた。


 「隙あり!」

 と、思ったらミナトに、後ろから切りつけられる。

 無えわ!隙なんか!

 ちょっとだけ痛かったけど!

 「何なんだよ?!」

 「…もういい。気が済んだ。」

 「何がしたいんだよ、お前は?!」

 「少し一人で考えたい…」

 「俺はこのまま放置かよ?!」

 「もうすぐ目が覚める。そうすれば、何かが変わる筈だ。」

 「何かって…」

 「…ずっと罪悪感で押しつぶされそうになりながら生きて来たんだ。お前に…貴方にずっと言えずにいた。きっと理解してはくれないだろうと。今生の貴方なら言ってもいい気がした。俺は貴方に叩き伏せて欲しかったのだと思う。」

 「そうだったのか…」

 「超古代文明を勝手に創ったこと、どう思う?」

 「あ?あー。よく分からんけど、失敗は成功の母とも言うし。一度失敗を経験したなら、もっといい世界になった筈だとか欲を持たなくていい。寧ろ、良かったんじゃないか。」

 「…ありがとう。」

 キラキラと美少女にすり替わる。

 「私、ずっと貴方にコンプレックスがあって、言えなくて辛かった。だから、若くて綺麗な外国人に転生したの。そうしないと自分のプライドを克服出来なかった。やっと言えて良かった。」

 にっこり微笑む美少女。


 「さようなら。」

 美少女の姿が薄れていく。


 え?

 これで終わり?

 嘘でしょ?


 「ちょっ…」


 

 ーパチリ

 目が覚めた。


 「疲れた…」

 何故か汗だくだ。

 全然寝た気がしない。

 今日休みで良かった。

 「風呂入ってもっかい寝よう。」


 着替えを持って風呂場に向かう。

 ーガチャリ


 「もう、風呂かの?今日は早いのう。」

 「…」

 ーバタン

 速攻で扉を閉める。


 俺の家の風呂に仏像モドキが居た。

 



 



 


 

 

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