第111話 二人の処罰



 ピアちゃんの魅了の力の件に関して、仮説も含めて、わたしとルナマリア様とドワーフィスター様の三人でエル様にご報告~。


 エル様はすぐさま「ピア・アボットを監視している騎士は、絶対にココと面識のある者にするよう、騎士団長に通達してほしい。ココと面識のない騎士を監視にした場合、魅了して逃亡する恐れがあるから」とフォルトさんに指示を出していた。

 確かに、エル様のおっしゃる通りである。迂闊だったわ……。


 フォルトさんが執務室から退室するのを見届けると、エル様は膝の上で両手の指を組んで話し出した。


「ドワーフィスター、ピア・アボットもきみの作る予定の魔術師団の人材に必要ですか?」

「もちろん必要ですっ、ラファエル殿下!」


 ドワーフィスター様はそのお言葉を待っていました、とばかりに紅い瞳を輝かせる。


 それを見てエル様も頷いた。


「では、ピア・アボットに魔術師団での永久奉仕を下しましょう。ただ問題は、彼女の魅了の力が我々にとって諸刃の剣になりかねないということです。先程言った通り、ココと面識のない人間を魅了して逃亡する可能性があります。かといってすべての民とココを面会させるわけにもいきませんし」


 普通の罪人なら、国の為にタダ働きしろと命じるだけでいい。

 けれどピアちゃんは洗脳系の能力持ちということで、また少し事情が変わってくる。ただ永久奉仕を命じただけでは速攻で逃げられてしまうのだ。

 かといって、わたしが抑止力として民に顔見せしてもキリがない。王宮で働いている人間だけでもかなりの人数がいるし、出入りの業者やその付き人、他国からの使者など、その日その日で王宮にいる人間の顔ぶれは違うのだ。

 魔術師団にピアちゃんを加えるなら、せめて王宮内だけでも自由に動けなければ仕事にならないけれど、見知らぬ人間を片っ端から魅了されて逃亡されても困る。牢屋に閉じ込めていたら仕事も限定されてしまうし。


「なにか、アボット様の魅了の力を制限する方法があればいいのですけれど……」


 ルナマリア様の言葉に、ドワーフィスター様も頷く。


「そうだな。彼女がこちらの命令でしか能力が使えなくなるような、そんな魔道具でも作れればいいんだが」


 ドワーフィスター様はわりと非人道的な魔道具の作成について考えているっぽい。


 でも、そうね……。

 ピアちゃんがこちらの命令にきちんと従ってくれる方法と言えば……やっぱりあのコブリン関連なんでしょうねぇ。


「エル様」

「なんだい、ココ?」


 わたしが声をかけるとすぐにこちらに視線を向けて甘く目を細めてくださるエル様に、わたしの心がほわぁ~んとなる。


「もしかしたらアボット様が我々に絶対服従してくださる可能性があるのですけれど……」

「本当かい、ココ」

「そのためにはゴブリンクス皇子殿下を餌にしなければなりません。あの方の処遇をアボット様の自由にさせて差し上げることは出来ませんか?」

「ゴブリンクス皇子の身柄をピア・アボットに引き渡すということかい? だが彼女は彼の臣下だ。もし彼女に引き渡せば、ゴブリンクス皇子と共に逃亡という可能性があるよ」

「たぶん大丈夫だと思うんです」


 普通の忠誠心ならそうだろう。臣下として皇子を逃がそうとするだろう。

 でもピアちゃんはぶっちゃけヤンデレくさいんだよね。ゴブリンとその監禁場所を用意するといえば、こっちに絶対服従しそうなんだよなぁ。


「アボット様が自ら進んでこちらの指示に従いたくなるような提案を、わたしがしてみせます。信じてください、エル様」


 ヤンデレピアちゃんの屈折した愛情を信じて!


「……わかったよ、ココ。きみを信じるよ」


 エル様は心を決めたように頷いた。


「それに私からも、ピア・アボットの魅了の力を使いたい相手がいるからね。彼女が進んでこちらに従うのなら、私としては有り難い」




 日を改めてまた前回と同じメンバーで、ピアちゃんのもとへ訪れる。

 今日のピアちゃんは椅子に腰かけ、足を組んでこちらに対峙した。


「それで? あたしの魅了の力の有効活用方法でも上の連中と話し合って決めてきたわけ?」


 有用な能力を持つ罪人の使い道など、死ぬまで能力の搾取だ。ピアちゃんもそこは分かっていたのだろう。

 ドワーフィスター様が前に出て、ピアちゃんに発足予定の魔術師団について話し出した。ピアちゃんは呆れた顔でこちらを見ている。


「そんなまっとうな仕事を罪人に与えるなんて、どこまでお人好しなの、この国は? そんなんだからポルタニアに舐められるのよ。言っとくけど、あたし、この牢から出されたらゴブ様を連れて逃げ出すわよ?」

「逃げられませんわよ、アボット様」


 わたしが口を挟めば、ピアちゃんはじろりとこちらを見た。


「なぁに? まさかブロッサム様があたしの抑止力として四六時中傍に居るわけじゃないでしょ? 出来るわけないじゃんねぇ、そんなこと」


 学園に通っているし、妃教育もあるし、ピアちゃんが言っていることは確かに無理である。


 だがしかし、こちらにはゴブリンの身柄があるのだ!


「ゴブリンクス第二皇子殿下は、このままいけば王位継承権剥奪の上、平民落ちでしょう。ポルタニア皇国は皇子殿下をこのままシャリオット王国に捨てるつもりのようです」

「え……」

「つまりゴブリンクス皇子殿下の身柄はシャリオット王国が好きに裁いて良いということになりますわ」


 国から見捨てられたゴブリンを煮るも良し、焼くも良しである。


「アボット様がシャリオット王国のためにその能力を使ってくださるなら、我がラファエル第一王子殿下がゴブリンクス皇子殿下の身柄とその監禁場所を用意してくださるつもりが「その話、乗ったぁぁぁああ!!!」」


 瞳を爛々とギラつかせたピアちゃんが、前のめりにゴブリンに食らいついてきた。やっぱりね!


 こうしてわたしたちはピアちゃんを絶対服従させることに成功したのである。チョロすぎるわ。

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