第108話 新たな仲間(ラファエル視点)
ーーー彼が王家の影裏部隊のリーダー、ルシファー・ヴァレンティーヌなのか。
忠誠を誓ったルシファーを前に、私はじっくりと彼を観察した。
黒いローブから顔を出したルシファーは、ヴァレンティーヌ公爵家の者に遺伝しやすい藍色の髪と同色の瞳をしていた。そこは母上や、もう一人の影であるシャドーとも血縁関係であることを感じさせる。
しかしその容姿は私と同じように酷く醜くかった。
蛙のように大きな瞳、細く高すぎる鼻梁、『紳士の唇はぶ厚ければぶ厚いほど魅力的である』という美の基準に掠りもしないほど薄い唇。
三十代だというルシファーは、まるで私の将来の姿を想像させる姿をしていた。
「……ラファエル第一王子殿下、どうかなさいましたか?」
「いえ」
私は言葉を切り、考えながらもう一度口を開く。
「私のことを敬愛すると言っていましたが、具体的には私のどこをそんなに気に入ってくれたのだろうと思いまして……」
前回の人生で、私は醜い男達を集めて反乱を起こしたが、そのメンバーの中にルシファーの姿はなかった。彼はたぶん王家側に居たのだろう。
ならば何故、今回のルシファーは陛下や母上を裏切ってまで私の側についたのか。
前回と今回の彼の行動の違いを探りたくて、私はそう尋ねた。
「それはもちろん、ラファエル第一王子殿下こそがシャリオット王国の王に相応しいからです」
ルシファーは大きすぎる瞳をキラキラと輝かせながら力説した。
「まだお若いラファエル第一王子殿下が、王太子教育の合間を縫って地方まで足を運び、その土地土地で様々な問題を解決なされる手腕は実に鮮やかでございました。国王陛下から執務を増やされてもきちんと取り組み、空き時間が出来れば剣術の鍛練を行い、定期的に婚約者候補のご令嬢達とお茶をする時間も作る。ラファエル第一王子殿下はなにもかもが私の理想とする王族のお姿なのです……!」
ルシファーから発せられる熱の籠った言葉に、私は思わずたじろいでしまう。
初対面でそんなふうに私のことをべた褒めしてくれた相手は未だかつて居なかったので、どう受けとればいいのか分からなかった。
「ルシファー、あなたの気持ちはよくわかりますわっ!」
隣に座っていたココが、突然声を上げた。
ココはルシファーに負けないほど、その若葉色の瞳を輝かせ、愛らしく頬を上気させている。
「エル様って本当に奇跡みたいに素晴らしい御方で、もう髪の毛先から爪先まで完璧な上に、中身まで誠実で思慮深くて優しくて最高で……! ルシファーもエル担で嬉しいですわっ! 私は同担拒否とかしませんし、男性の方にもファンがついているなんてさすがはエル様という感じですわ! エル担としてこれから一緒に盛り上げていきましょうね!」
よくわからない単語が混じっているが、たぶん「エル様の王政を一緒に盛り上げていきましょうね」的なことをココは怒濤のように言った。
ルシファーは最初呆気に取られたようにココを見上げていたが、ココの言葉を聞き終わったあとは「ココレット・ブロッサム侯爵令嬢のラファエル第一王子殿下に対する熱き忠誠心をお聞きし、感服いたしました。微力ながら私もラファエル第一王子殿下をお支え出来るよう日々精進して参ります」と答える。
その後も二人は楽しそうに私のことを話し、「わかるぞ、兄君は素晴らしい方なんだ!」とオークハルトまで会話に参戦しだした。
三人のその様子を見ると妙に照れ臭く、心がこそばゆい。
けれどルシファーの話を聞いて、今回彼が私側についた理由に納得することができた。
ルシファーが語った私の行動のすべてが、前回の私との違いである。
前回の私は教会視察などと銘打って地方の領地へ出掛けることなどなかった。他人の目が恐ろしくて、離宮から離れることなど殆どなかったのだ。
前回の陛下は私にあまり期待をしていなかったのか、王太子の執務もそれほど多くはなかったし。剣術も王族の義務以上は学ばなかった。なにより婚約者候補との関係は壊滅的だった。
そんな情けない王太子であった前回の私を、ルシファーが尊敬するはずがない。尊敬できない私の側につくことなどなかったのだ。
今回の私がここまで変わったから、ルシファーの忠誠を得ることが出来たのだろう。
そしてこれからの私の未来も、また変わるだろう。
私を愛してくれるココや、信頼して付いてきてくれる臣下達、そして私が守るべき民のために、未来を切り開いていきたい。
そしてその未来に、我が母上の席は必要ない。
私ははっきりとそう思った。
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