【短編】メンソール8ミリ

梓すみれ

君の時間

あの苦い、あなたの匂い。


「たばこやめなよ、体に悪いよ」


今更もうやめられないといいながら、二本目を吸い始める君。

やめてほしいけど、やめてほしくない。


その横顔を見つめる時間が好きだから。


「ねえ、一口頂戴」


かわいらしくもない、本当はアイスとかもっとかわいらしいものに言いたかった。


「体に悪いからダメ」

「いいじゃん、一口」

「似合わないから、ダメ」


私の頭をくしゃくしゃなでながら笑った。


似合わないのは、本当にたばこなのだろうか。


「早死にするよ」

「いいよ」

「よくないよ」

「俺、別に長生きしたいとか思わないし」


私より先に死なないでよなんて、言ったって届かない。

私は君と、一分でも一秒でも長く一緒にいたいよ。


また、私の頭をなでて、次のたばこに火をつけた。


君は、デートでもよくタバコを吸った。私はただ、隣で待っているだけだった。

たくさん頭をなでてくれた、手もつないだ。

喫煙室の息苦しさは嫌いだったけどあの時間が好きだった。




――君は急にいなくなった、私をおいて。


今ね、私は悪い子になった。

君がかたくなに吸わせてくれなかったメンソール8ミリ。

片手で簡単につけてたライターもかたくて、両手でつける練習をした。

8ミリは重くて吸えるまでに時間がかかっちゃった、苦くて苦くてむせ返った。


火をつけても、もう頭をなでて笑ってくれる人はいないよ、手も冷たいよ。


ねえお願い、私あなたの副流煙で死にたい。


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【短編】メンソール8ミリ 梓すみれ @azusa-sumire

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