今回は悪役令嬢、辞めさせていただきます。

秋春 じゅん

第一部 第1話 悲劇の悪役令嬢。



「………どうしても、逃げられなくなったら、僕の所にお嫁においで。」



 この世の全てに絶望し、理不尽さの怒りにただ、ただ泣きじゃくる私をその人は優しく抱きしめてくれた。


 そして、私の髪を一房掬うと、優しく微笑み溢れる色気をダダ漏れながら、美貌の貴公子はその一房に口付けた。



「……魔力とか、地位とか、そんな事関係なく、今の君の全てが愛しくて堪らないよ。ドロドロに甘やかして髪の先からつま先まで愛してあげるから。」




 私は頭がガンガンと鳴り止まない痛みの中で、ぼぅっと彼の瞳から逃れられなくなっていた。

 だから、彼の側に居る事しか、考えられなくなった。



「…………もう、限界なの。今、連れて行って。私を攫ってお願い。」









 *****




 ……イイねイイね。これぞ王道。

 救いのイケメンはマジ神かと思うような好みど真ん中の推しキャラ。

 悪役令嬢なんて、虐めっ子キャラ。実際は空気の読めない王子様の所詮は慰み者だよね。婚約者だったら、もっと大事にしてやれよ!嫉妬で狂ってしまうのワカルよ。うんうん。酷いやつだよね。バカ王子。悲劇のヒロインなんて、可愛いだけのオツムの足りないツマンナイ娘。なんであんなのが良いのかって思ってたんだよね。王子って、見た目だけで選んでてバカじゃんとか思ってたんだ。





 ん?



 何だっけ?


 バカ王子?


 何かの映画だっけ?ゲーム?



 ゲーム?それって何?




 うっすらと紫の光が窓から差し込む。

 ここは私の自室。



 私の名前は……ミアベル。


 そう、ミアベル・クリスタル


 ミアベル・クリスタル侯爵令嬢。


 あれ?それってじゃなかった?


 悪役令嬢?


 それって、何だっけ?

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