ニュー・ゲーム・パラダイス ~ゲーマーズソウル覚醒~
灯色ひろ
プロローグ 世界で一番熱い夏
『世界で一番強いゲーマーになる!』
俺がそんな宣言をしたのは小学5年生の頃だった。
誰もが連日ゲームセンターへと通い詰め、地位も名誉も大金も得られるプロゲーマーが世界中で憧れの職業となっている大ゲーマー時代。
しかし、俺の生まれたド田舎にはあろうことがゲームセンターがなかった。だから小5の夏休みに初めてトウキョウシティのイケブクロに連れていってもらったときは本当に興奮したのを覚えている。人生で一番熱い夏だった。
何よりも俺は、四つ上の兄――『キョウ』との闘いが大好きだった!
『シュン。今のは3フレーム遅い』
『そんなのわかるわけねぇじゃん! なんでキョウはあそこでカウンター合わせられるんだよ! ぜってームリだろあんなの! 偶然じゃないならインチキだ!』
『未来を視ろ。それくらい出来ないと俺には一生勝てない』
――9999戦9999敗。
あの夏休み。兄との対戦で一勝も出来なかった俺の頭をキョウがポンポンと叩いた感触が今も残っている。
キョウは誰にも負けなかった。プロゲーマーの聖地の一つであるイケブクロでもキョウに勝てるヤツは一人たりとも現れなかった。俺はキョウが最強だと確信していた。素っ気なく口数の少ない兄は、しかしゲームの中で饒舌に語るヤツだった。
あのとき俺は泣きながら言った。
『ううううっ! ぜったい、ぜぇっっったい勝ってやる! いつか“
『いつかじゃなくて今こい。ただし小遣いがなくなっても知らない』
『うわあああああ~~~! やってやるッ! 一本も勝てずに帰れるかっ! 俺は最強のプロゲーマーになるんだ! そんで全国大会の決勝でキョウをぶっ倒す! もう一戦だッ!!』
『なら先に行って待っててやる。追いかけてこい、シュン』
『わかった! ぜったい! 約束だからな!』
キョウは小さく笑って、10000回目の勝負を受けてくれた。
今でも毎日のように思い出す、あの、最後の一戦。
物心ついた頃からキョウの背中を追いかけるようにゲームを始めて、その魅力に取り憑かれて、気付けばプロを目指すようになり、特訓としてキョウと山ほど勝負をしてきた。何千、何万、数え切れないほど戦い続けてきたが、俺は結局あの夏の最後の一戦――そのたったの一度しかキョウに勝つことは出来なかった。負け続けてきた俺が最後に掴んだあの一勝は、人生で最も嬉しい瞬間だった。本当に最高の夏だった。
それから数年後。
キョウはプロゲーマーになり、そしてあっという間にプロゲーマーランク1位に――名実ともに世界最強の男になった。それは俺の誇りで自慢だった。
そしてキョウは、ある日突然いなくなった。
俺や両親に何も告げないまま、プロとして稼いだとんでもない額の金だけを家に残して。
まるで自分より強い相手を捜しにいった主人公のように、この世界から消えた。
やがて中学3年生に――プロテストが受けられる15才になった俺は、すぐにテストを受けた。
キョウを捜すため。
また一緒にゲームをするため。
あの日の約束を果たすため!
けど――
『2049年12月24日 選考結果のご通知
マナカ・シュン様
このたびは『WPGA(World Professional Gamers Association) 』が主催するプロゲーマーテストにご参加いただきましてありがとうございました。
審査の結果、まことに残念ながら今回は実力不十分として『不合格』とさせていただきます。
プロゲーマーテストは生涯に“二度まで”挑戦していただくことが可能です。
より腕を磨き、〝遊戯者の魂〟をさらに熱く燃やして、次なる挑戦をお待ちしております。
なお、次回のテストの日程は――――』
そこまで読んで乱暴に手を振ると、手首から浮かび上がっていたメールのホログラム映像がフッと消え去る。テストの詳しい採点結果など見ることもなく、俺はベッドに寝転んで天井を仰いだ。
「……待ってるって、どこで待ってんだよ……!」
背中を追いかけていた兄はいなくなり、自分の才能のなさに辟易していた俺は、あれほど人生の中心にあったゲームへの熱をすっかり失ってしまった。
所詮ゲームなんて遊びだ。これからは平凡に生きていけばいい。
そうやって自分の慰める俺の魂が、胸の奥でくすぶっているような気がした。
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