第9話 妖精の石

 ユキさん、師匠、シラサギさん、そして私は、リビングのテーブルに向かい合って座っていた。目の前には、ユキさんが淹れてくれたコーヒーがあった。シラサギさんは、カップを持つことができなかったが、器用にクチバシをカップの中に突っ込んでは、コーヒーをすくい上げるように飲んでいた。服が乾いたので、私はいつもの格好に戻っていた。


「このペンダントの本当の持ち主は、星見さんという人です」

最初に私が、ペンダントについて話をした。元々の持ち主は、星見という自称魔法使いで、彼は十三年前にこのペンダントを残していなくなってしまったこと。いなくなった時、住んでいた天文台は粉々に壊れていて、何かしら、事件性が感じられたこと。星見さんが、よく天気予報をしていたということ。

「妖精の石については、全く知りませんでした」最後に、そう付け加えた。

「妖精の石というのは」

ユキさんが話し始めた。

「妖精の石というのは、元々は悪魔を封じ込めるために、作られたと言われています。でも、それだけじゃなくて、使い方によっては、もっと色々なことができると伝えられています」

「危なくないの?」シラサギさんが聞いた。

「魔法の書に書かないと使えないので、ただ持っている分には危なくないのですが」

「コノハのように攻撃を受ける場合があると考えているのですね」師匠が言った。

「はい」

「いったい誰なんですか、コノハを攻撃したのは。コノハは魔法の光を見たと言っていますが」師匠は暗い顔をしていた。


「実は、十二年程前から、あの山の中腹に何かがいるんです」

あの山というのは、私が勝手にとんがり山と名付けた山のことだった。何かがいる、というユキさんの表現から、何か恐ろしげな雰囲気を私達は感じた。となりではシラサギさんが、ちょっとだけ、震えたようだった。

「でも、何がいるのかはわかりません。近づけないんです。魔法で空間を遮断してるみたいで」

魔法で。私は、星見さんを思い出していた。初めて出会った時、星見さんは言った。自分の天文台には人に見つからないように、魔法がかけてあると。

「私、占ってみたことがあるんです。あそこに何がいるのか」

「で、何かわかったのですか?」師匠の問いにユキさんが答えた。

「悪魔。あれは、天候を操る悪魔が住む山だと」

 十二年前。空間の遮断。天候に関する魔法。これはまさに星見さんの事を連想させるキーワードだった。私は考えていた。とんがり山には、星見さんがいるのではないだろうか。

 もし星見さんなら。

 私はどうしても星見さんに会いたかった。でも、そのことは誰にも言わなかった。

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