第33話「真偽眼」
「ねぇ、俺と約束してもらえないかな」
「何を、ですか?」
「もう、こんなモノに頼らないって約束してくれるなら、貴女の息子さんの病気を治す手助けをしてあげる」
「息子が助かるにであれば、これはもう必要ありません。元々、息子の病気があってラッキーホルダーに縋ったのですから……」
「じゃあ、それを俺にくれるかな?」
俺は右手を差し伸べる。
女の人は、イルカの模様をしたラッキーホルダーをギュッと握りしめ俺に渡すかどうかを迷っていた。
「大丈夫、絶対後悔はさせないから」
女の人は、恐る恐るラッキーホルダーを俺に手渡してくれた。
「ありがとう。お礼にこれを――」
かばんから取り出すふりをして、収納箱から虹色の液体が入った瓶を取り出す。
「鷹刃君、そ、それって、まさか」
「エリクサーだよ」
「えええええええ!?」
エリクサー。
主に楔での宝箱やフィアーのレアドロップで手に入れる事が出来るどんな病気でも怪我でも瞬時治す魔法薬だ。
「本物なんですか?」
「うん、まぁ信じるかどうかはあなた次第だけど」
「こんな神々しい物が偽物だなんて思えません。本当こ、こんな高価な物を?」
「いいんだ。俺が持っているより、必要とする人に使ってもらえれば」
「鷹刃君……」
「本当に、いいんですか!?」
「うん、その代わり約束は守ってね」
「はい! 約束します! もう、ラッキーホルダーには頼りません! 常世の楽園も脱会します!」
「信じるよ」
「あ、あの、貴方様のお名前をお聞かせていただけないでしょうか?」
「え? いや、別にいいよ「鷹刃海人です」って井波さん?」
「ごめんなさい、つい。鷹刃君の事、知ってもらいたくて」
「まぁ、いいけどさ」
「鷹刃海人様、本当に、本当にありがとうございます!」
「いえいえ。それより早く、息子さんの所に」
「はい!」
女の人は、何度も頭を下げてその場から走る様に立ち去った。
「鷹刃君って、凄いですね。売ったら豪邸が立つと言われるエリクサーをそんなにポンと渡すなんて気前がいいところの騒ぎではないですよ」
「今の俺には必要ないものだからね」
正直、俺が病気やけがをするとは思えない。
お金にも困ってないし、他にもエリクサーの備蓄はある。
無くなれば楔に潜ればいい。
エリクサー1つで俺の事を覚えてくれるのなら、安い物だ。
「でも、大丈夫ですかね? あんな高価な物、もし途中でたちの悪い人達に絡まれてもしたら……」
「問題ないよ。ちゃんとボディガードをつけてるから」
「ボディーガード?」
「うん。俺の分身を付けてるんだ」
「はは、分身って……そんな事まで」
井波さんは驚きを通り越して呆れている様子だ。
「そんな事より早く入ろうよ」
「はい。あッ、鷹刃君が気配遮断を使ったら私は鷹刃君の事が分かるのでしょうか? その、どこにいるとか」
「ん? 気配遮断は既に使ってるよ?」
「へ?」
「じゃなかったら、エントランス前でここの関係者に堂々と手を出したりはしないよ」
「だけど、私、鷹刃君の事わかりますよ? それに、さっきの女の人も」
「二人には俺が認識できるように仕向けたんだ」
「そんな事までできるんですね……鷹刃君」
「そんなに難しい事ではないよ」
当分は起きないであろう倒れている男を人気のない場所に移動させ「じゃあ、今度こそ入ろうか」と苦笑いを浮かべる井波さんを先頭にエントランスを潜った。
◇
受付で井波さんの叔父の秘書である黒田を呼び出す事数分――。
細身で狐の様な目をした優男が現れた。
この人が黒田なのか。
「こんばんは、黒田さん」
「いらっしゃいませ、お嬢」
男は井波さんの挨拶に頭を垂れて返す。
どうやらこの男が黒田で間違いないようだ。
「妹の様子はどうですか?」
「…………」
黒田は何か思いつめた顔をしている。
そんな黒田に、一歩近づく井波さん。
「黒田さん?」
「あッ、申し訳ございません。夏菜お嬢の様子でしたね。先週お越し頂いた時と何もお変わりはございません」
「……そうですか」
「そんな顔をなさらずに、さぁ、こんな場所に留まっていたら時間の無駄です」
「そうですね。では、向かいましょう」
井波さんと黒田が歩き出す。
俺は、井波さんのすぐ後ろについてく。
不自然にならない様に俺の方に視線を向けさせないためだ。
「叔父は、今日はいらっしゃるのですか?」
「いえ、アダム様は会合があり本島に行かれました。数日はお戻りにならないかと」
「そうですか……」
人気のない廊下を進んで行くと厳重な警備がされているエレベーターホールに辿り着き、井波さんと黒田がエレベーターに乗る。黒田が階のボタンを押す。目的地は4階の様だ。
事前に井波さんと打ち合わせをしていた。
俺が持つアーク【
「夏菜が入院している病院を黒田さんはご存知なんですよね」
「はい、存じております」
黒田の心臓の部分が青く発光染まっているように見える。
青は、真実、赤は、虚偽を意味するのでこの場合は真実だという事になる。
「夏菜は、本当に生きているんですか? いつも、寝ている夏菜しかみれてないので……」
「はい、ご存命であられます」
青――良かった。
本当は生きていないのではと心配していたんだ。
4階に到着したのでエレベーターから降り、また人気のない廊下を歩いていく。
質問は続く。
「その病院は、本島にあるんですよね?」
「そうです」
赤――本島にはいない事になる。
となると……このヤマトアイランドか海外という事になる。
さぁ、次の質問で核心をつくのだ。
「そんな事を言って本当は、ヤマトアイランドのどこかにいるんじゃないですか? 例えばこの建物の中とか」
「……何を仰いますか、あり得ません。さぁ、もうつきますのでご質問はそれまでにして下さい」
「そうですね。すみません」
無機質な鉄製の扉の前で足を止めた黒田の真っ赤に染まった心臓を見て、
俺の口角は自然と吊り上がった。
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