第6話 「新たな居場所 ③」

 鷹刃家の一員となった翌日。


 双子の姉、スミが作ってくれた朝食を堪能し、一息つく。

 スミだがその言動や態度とは裏腹にかなり家庭的で家事全般は殆どスミ一人でこなしているという。

 この家の長女という事でほとんど家にいない団長母親の代わりを担っているのだろう。

 そんな幼い義妹に尊敬の念を抱いている俺がいる。


「ごめんね、一緒に行ってあげたいけど……」

「いえ、気にしないで下さい」

「私達も部活と習い事があって……大丈夫?」

「大丈夫だよ。一人でいけるから」


 明日から俺が通う予定のヤマト第三高校の制服を取りに行くため、制服専門店へと行く必要があったのだが、義父さんは仕事があり、義妹達は部活動と習い事があるために俺に付き添う事が出来ないらしい。


 そんなに申し訳なさそうにしなくても良いのにと苦笑いを浮かべる俺がいる。

 

 さて、制服専門店は、俺が通うヤマト第三高校の所在地、この家がある第三区画の隣の区画の第四区画にあるらしい。

 

 このヤマトアイランドは、この国のザ・ウェッジである【アマテラスの躯幹】を囲うかの様にして八つの区画に分かれている。


 第一区画は、企業が軒を連なっている経済特区だ。国内外の多数の企業が競争し合っている。

 第二区画は、商業施設などが犇めいており、この世の中で買えないものがない程の品ぞろえを誇っている。

 第三、第五区画は、居住エリア。第四区画は、行政機関や教育機関、研究所などがあるエリアだ。

 第六区画は、【アマテラスの躯幹】に潜りフィアーの角石や素材、また、楔特有の秘宝などで生計をたてている調達屋プロキュラーズ専門エリアとなっている。

 そして、第七区画。ここは、スタジアムやコンサート会場、カジノなどの様々な娯楽を堪能できる場所だ。治安が一番悪いところでもある。裏でマフィアや犯罪シンジケートなどが牛耳っているとの噂があるくらいだ。


 最後に第八区画は、開発前の空き地となっており、そこに何が出来るかは一般人には知らされていない。


 俺がこれから行く第四区画だが、そこには幼稚園から中学校までの一貫校が一つあり、基本中学校までの生徒の特性により高校からは第一から第三高校の三つの高校に別れる。


 生徒の特性とは、第一高校は、アークマスター育成。

 第二高校は、研究者のスペシャリスト育成。

 第三高校は、通称サンコーは、それ以外の生徒達が集められており、周辺から落ちこぼれと揶揄される事もあるらしい。


 俺の実力であれば第一高校、通称イチコーにも難なく入る事が出来ただろうがサンコーに入る事にした。理由としては、変に目立ってしまって色々な所から目をつけられる事を危惧した団長の判断だ。


 まぁ、どうせ、あと数年の命だ。

 どの学校に行っても変わらないだろう。


「では、いってきます」


 時刻は、午前十一時。

 誰も居ない家の玄関を登録してもらった指紋認証で施錠し、魔動列車の駅であるサードステーションに向けて歩き出した。



 サードステーションに到着した俺は、魔動列車に乗り込み、一つ先の駅であるフォースステーションで降りる。乗車時間は五分程度だった。


 制服専門店は、フォースステーションから少し歩いた先にあった。

 自分の名前を告げ制服を受け取る。

 試着をしてみたところ、事前にサイズを細かく伝えてあったためかぴったりだった。


 制服もただじゃない。


 普通、これからの成長を考えて少し大きめの物を買うのが定石なのかもしれないが、いつ死ぬか分からない俺だから今後の成長を考える事はしない。


 それに、小さくなったらまた買えばいいんだ。

 研究所から団に救い出してもらってからつい最近まで傭兵として働いた俺だ。

 そして、俺の歳で買えるものは限られているため、同年代では想像もつかない程の貯金がたまっている。


 ダークチョコレート色のブレーザーにグレーのチェック柄のパンツが二本。そして、Yシャツが長袖と半袖で五枚ずつ。

 結構な量だ。

 代金は、事前に団長が納めていたらしく、それらを受けとるだけで俺は制服専門店を後にした。


 両手に持った紙袋を【運び屋】のアークマスターからコピーした収納箱に入れる。


 フォースステーションに戻る前に通学路を確認するため一度サンコーまで歩いてみた。大体フォースステーションから歩いて十分ほど。

 家から学校までドアドアで約三十分。

 程よい距離だと言えるだろう。


 通学路を確認した俺は、フォースステーションに戻る道中、乾いたのどを潤わせるために自動販売機を探す。


「おっ、あった」


 道中にあった公園で自動販売機を見つけた。

 そこで、炭酸水を購入し、近くのベンチに腰を下ろした。

 プシュッという音と共にペットボトルの蓋を開け、勢いよく炭酸水を喉に流し込む。


「ふぅ~。それにしてもいい天気だ」


 雲一つない青が広がる空。

 今しがた炭酸水により潤った喉と同じように、俺の気持ちを清々しいものにしてくれる。


「平和だな……まさか、俺がこんな平和な環境に身を置くとは……数週間前だったら想像もつかなかったな……」


 ずっと、戦場で生きていくと思っていた。

 そして、残り少ないこの命も戦場で終えると思っていた。


「俺は、やっていけるのだろうか……」


 研究所と戦場しか知らない。

 普通の人間とは明らかに違う生き方をしてきた俺が、戦いしか知らない俺が、普通の人生を歩めるのだろうか……不安でいっぱいだ。

 

 これなら戦場に身を落としていた方がマシだと思えるほどに。


 良く分からない事を考えてもしょうがないと思い、それを打ち消すかの様にもう一度炭酸水を喉に流し込む。

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