余命幾ばくかの傭兵
いろじすた
プロローグ
第1話 「死に場所を求めている少年 ①」
20XX年12月31日 ~終わりの日~
大気圏の外側から全長200メートルのV字形の巨大構造物、
地球の地図を変えてしまうほどのそれらは、人類に多大な被害を与える事になるのだが、無慈悲にも、それだけでは終わらなかった。
楔には、地球外生命体が多数住み着いており、それらは楔を中心に生活圏を広げ、次第に地上に住まう全ての生物は、フィアー(地球外生命体は、その恐ろしさ故にfearと名付けられた)によりその生態圏を奪われる事になった。
フィア―の常識を超えた強靭さに地球上に存在するあらゆる兵器は意味をなさず、終わりの日から一年もたたず人類のおおよそ七割が楔、そして、フィア―の犠牲となった。
恐怖に抗う事ができず自ら命を絶った者も少なくないという。
全てに絶望した人類は、このまま世界が終わるとばかり思っていた。
ーーだが、そんな人類に光明が差す。
フィアーに抗えることの出来る特殊能力、
――それから99年の年月が流れ、現在、
『
右耳のピアスを介して、銀のように澄んだ声が届く。
『くっちゃくっちや、ぐふ、えーとっね、あちらさんの戦力はね、
相変わらず不快な咀嚼音をたてる
『親愛なる
「そんなの気にしないで、皆殺しでもいいんじゃねーの? ここは戦場なんだからさ」
「黙れ、グレン。団長の言葉を切るんじゃない」
己の身体くらいありそうな金棒を軽々スイングしている小柄な少年、いや、見た目が幼いだけで実際は二十半ばのれっきとした成人であるグレンに対して、まるで古代史に出てくるぬりかべのような巨漢の男が厳しい視線を向ける。
「わーってるって、そんな怒んなよ壁のだんな。団長もすまねぇ、話の腰を折ってしまって」
『ふふ。まぁ、正直なところ、グレン同様にアタシも皆殺しで良いと思うのだけれど、クライアントからは肉壁をできるだけ生かしてくれとのリクエストだから仕方ないのよ』
「なーにが、仕方ないよ」
今度はスラッとした黒いパンサースーツを身に纒い、豹の仮面を被った、図太いがナヨナヨとした声が、団長の声を遮る。
「どうせ、生かした分だけ報酬上乗せとかの条件でもつけたんでしょ? そうじゃなかったら、サエちゃんがそんなめんどくさいリクエスト受けるわけないじゃない」
壁の旦那と呼ばれた、チュンギュは先ほどのグレンの様に話の腰を折っているパンサースーツの男?に対しては何も突っ込まない。それは、このパンサースーツの男?がこの団のナンバー2である、副団長故だろう。
『ふふふ、よーくわかってるじゃないの。こっちとら団員を危険に晒すわけなんだから、危険手当を要求するのは至極当然じゃないかしら?』
「まぁ、それはそうだけど」
『というわけで、団員各位。肉壁の生存率に応じた特別手当が出ることになってるからがんばろう! 因みに、目標生存率は90%、それ以下は認めないからね?』
「まったく……団長は相変わらずなんだから」
「でも、ボーナスあるんだったら、やるっきゃないの! これで装備を一新できるの! 頑張るの!」
やれやれと苦笑いを浮かべる、狩人スタイルの女に続いて、ゴスロリ姿の長身の女は鼻息を荒くする。
『というわけで、敵に脅威たる要素はないけど、肉壁をさける必要があるの。まずはミリーが調合した睡眠薬をこの市街地全体にまく。次に、肉壁に薬の効果がでた事を確認後攻撃を仕掛ける。その際にチュンギュは団の最前列で壁を展開。敵の遠距離攻撃を打ち漏らすことなく防ぐこと』
「「イエス、マム!」」
『続いて、チュンギュの背後から敵の魔法士とポンコツの数を減らす役目を、マリアとアリエル』
「「イエス、マム!」」
『その後は、ダニエル、グレン、カイトでソルジャー共を一掃する間に孝爺が敵の指令の息の根を止めれば、ミッションコンプリートよ』
「「イエス、マム!」」
『ダニエル、返事はどうしたのかしら?』
「…………ダニエルじゃないし……ミランダだし……」
『もう、めんどくさいわね! ミランダ!』
「もちろんイエスよ、マム」
『よろしい、他に何かあるかしら?』
「団長」
『なにかしら、カイト』
「団長はでないのか?」
『あら? これくらいの仕事でこのアタシが必要なの?』
「……いや、聞いてみただけだよ」
『ふふふ、よろしい。それでは各位、楽しい、楽しい仕事の時間よ』
「「「「「応!」」」」」
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