エルメアーナの日本刀推しの原点  パワードスーツ ガイファント外伝 〜初めて見た日本刀を見た異世界の鍛冶屋は、自分の目を疑う〜

逢明日いずな

天才鍛冶屋と日本刀の出会いときっかけ


 エルメアーナは、自分の家である鍛冶屋を営む父親のカインクムから、不本意な形で独立する事になった。


 カインクムの鍛冶屋は、大ツ・バール帝国の帝都に店を構えており、エルメアーナは、カインクムの一人娘だが、10歳の頃から学校に行くのをやめて家の鍛治仕事行っていた。


 その父が、一緒に暮らしていた、隣の孤児院から引き取ったフィルランカを嫁にすることになり、エルメアーナは家を出て、南の王国の王都に移り住み鍛冶屋を営むことになった。


 それは、南の王国を中心に大陸全土に支店を持つ豪商であるジュエルイアンの庇護下において、エルメアーナが鍛治を覚えた父親でもあるカインクムから離れて鍛冶屋を開いている。


 その店は、ジュエルイアンのパートナーであり、筆頭秘書官であるエルフのヒュェルリーンによって全て用意してもらえた。


 少女時代に見てしまった、親しかった女教師の情事と、そして、親友であるフィルランカがカインクムに対して既成事実を作ってしまった事を考えてしまうと、どうしても男性を拒絶してしまうため、ヒュェルリーンがジュエルイアンの考えを伝えるようにしていた。


 エルメアーナは、その性癖のため、新人から中堅冒険者の多い南の王国での鍛冶屋でありながら、男性客を拒絶するため店は閑古鳥が泣いていた。


 鍛冶屋の主な仕事である剣を使う冒険者は、男性が多かった事もあり、エルメアーナは、男性客を相手にする必要があったが、エルメアーナは、自身の性癖のおかげで、男性客を追い返してしまい、周囲の冒険者は、エルメアーナの店に近寄らなくなってしまっていた。




 そんな中、エルメアーナは、暇を持て余すように店番をしていた。


(あー、あのギルド高等学校の学生は、細身の剣を腰に下げていたなぁ。 男のくせに、あんな細い曲剣をつけていたんだ。 あれだと、数回使ったら折れてしまうだろう)


 店のカウンターに顎を乗せて、暇を持て余しつつ、先日、追い返してしまった男子学生の事を考えていた。


(そう言えば、その後に来た魔法職っぽい女子は、あの男子学生の剣を持っていたけど、……。 あの話し方は何だ。 全く、意味が通じなかったから、追い返しちゃったけど、せめて、あの時、あの細身の剣を見ておくんだったな)


 エルメアーナは、相手の態度が気に食わなかったため、追い返してしまった少女の事を思い出していた。


 その少女が持っていた、その剣を見なかった事を、今では、少し後悔していた。


 エルメアーナの鍛治の腕は、10歳の時から本格的に行い、13年の月日が流れていた。


 その、お陰もあって、エルメアーナの鍛治技術は、超一流と言っても過言ではなかった。


 ジュエルイアンは、エルメアーナの鍛治の腕を見込んで、南の王国の王都のギルド高等学校付近で、鍛冶屋の工房兼店舗を持たせ、ジューネスティーンとエルメアーナの2人を接触させやすくしていた。


 しかし、ジュエルイアンの本意は2人には伝えてなかった。




 エルメアーナは、ジューネスティーンの剣を見ておけばよかったと思っていると、店の前に、追い返した2人と、もう1人、エルフの女子が来ていることに気がついたようだ。


(あれは、この前、追い返した男だ。 身長は高いけど、なんて、ヒョロヒョロなんだ。 まあ、若いから仕方がないのか。 その隣は、……。 ああ、その後に来た変な喋り方の魔法職の女か。 ……。 あつら、仲が良さそうだな)


 エルメアーナは、羨ましそうに店の外に居る3人を見ていると、エルフの女子が、背の高い男子から何か話を聞いていた。


 すると、その男子は、腰から細身の剣を鞘ごと抜いてエルフの女子に渡し、エルフの女子は、その剣を鞘ごと抱えるようにして、2人から離れて店のドアを開けた。


「いらっしゃい」


 外での様子を見ていたエルメアーナは、やる気の無さそうな声で、そのエルフがドアを開けると同時に声をかけた。


(エルフ、だな)


 エルメアーナは、入ってきたエルフの少女を値踏みするように見ていた。


(見た目は、10代半ばって事は、40代って事か、私の2倍は生きている可能性が有るから、言葉使いは気をつけないとな)


 エルメアーナは、お客が入ってくると、居ない時のダラけた様子ではなく接客用の態度になっていた。


 そんなエルメアーナを、そのエルフは、少し不安そうな目で見ていた。


「あのー、剣の手入れをお願いしたいのですけど、見てもらえますか?」


「ん? それは、お前の剣なのか?」


 エルフの問いに、エルメアーナは、店の前で、以前に来た男子から受け取っていた事を知っているのだが、エルメアーナは、そのエルフには知らないフリをして聞いた。


「あ、いえ、これは、私のではなく、ジュネスの剣です」


 エルフの女子は、店の外の方に視線を向けるのだが、すぐに、視線をエルメアーナに戻した。


(ああ、あのヒョロヒョロの男の持ち物ね。 それは、さっきの様子で分かっていたさ。 ふーん、あの男、ジュネスというのか。 しかし、何でこんなに細身なんだ。 しかも、鞘は、少し反っているから、斬る剣だろう、これだと、直ぐに折れてしまって使い物にならないと思うけど、なんでなんだ? ……。 手入れ? 手入れと言ったな。 この剣、使った事があるって事か?)


 エルメアーナは、興味を持った視線を、その剣に向けた。


 それは、エルメアーナの考える斬るための剣は、その細さだと一度斬ったら、折れてしまうか、曲がってしまうかじゃないかと思えたのだ。


 斬るための剣は、斬った瞬間、刃に力がかかるので、その時の衝撃に耐えなければならない。


 その時の衝撃によって、折れない事と曲がらない事が重要となる事から、斬るための曲剣は、厚みも幅も厚くなってしまう。


 それが、エルフの女子が持ってきた、ジューネスティーンの剣は、鞘の外から見ても、一般的な曲剣とは、明らかに細く薄いと分かる。


(斬る剣は、刀身に衝撃を受けるから折れやすい。 それを補うために、太く厚みを持たせるのに、……。 鞘の大きさからは、そんな感じも無い)


 エルメアーナは、その細身の、まるでレイビアのような曲剣に興味は有るが、完全に信用はできないという表情をした。


 しかし、手入れをお願いしに来たということは一度使っていて、この剣が折れる事も曲がる事もなく、また、使う事が可能であり、そのため、使おうと手入れをお願いしてきた。


 エルメアーナは、鍛冶屋として、その理由が知りたいと思った様子になり、少し機嫌を良さそうにした。


「ああ、仕事を受けるかどうかは、その剣を見てからだな。 ちょっと見せてみろ」


 エルフの女子は、抱えていた剣をカウンターの上に置くと、数歩、後ろに下がり、その剣の間合いから離れた。


 たとえ、鍛冶屋に見せるといっても、剣は武器なので、万一の事を考えると、無意識のうちに間合いを開けてしまったのだ。

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