3.骨になった豚

ピギーはウォーレンのラボラトリーに着くと彼は手薬煉引いて待っていた。


挨拶もそこそこにウォーレンは白衣の袖を腕捲くりしながらピギーをベッドに誘導した。


「やあ、ピギー、よく来てくれたね。早速このバスローブに着替えてベッドに横になってもらえないかい。24時間は観察させてもらいたいと思っているんだけれども大丈夫かい?薬の効力は猿とオランウータンでは18時間くらいで切れて正常に戻っているんだけれど…」


「オッケー、ドク。明後日までオフだから大丈夫だぜ」


ピギーは血圧と酸素量の測定装置を付けられ体温はサーモグラフィでチェックされた。


「これは一応アナキラフィシーが起こらない為の予防措置で飲んでくれないかい」


ウォーレンはアセトアミノフェンの錠剤を3錠ピギーの掌に出して紙コップに入った水を渡した。


言われるがままに錠剤を飲むピギー。


異常が無いのを確認するとウォーレンはピギーの右腕のローブの袖を捲り駆血帯を巻き注射針の打ちやすい血管を探った。


良さげな血管が見つかるとアルコール綿で4、5回上下に擦って消毒するとウォーレンは針を刺した。


100ccのスカルボーンが投与されていく。


血管の内壁が氷水が通り抜けていくような冷ややかな感じがしたと思ったら5分後には身体の芯からじわじわと温かくなってくるような感覚に襲われた。


そして、暫くすると皮膚がひりつくような感じになった。


砂浜で日焼けした翌日のように。


サーモグラフィイで検知された体表温度も36度6分から2度上昇していた。


そして、ピギーは心地良い睡魔に襲われ意識が遠のいていった。


ウォーレンが引き続き観察していると16分後にピギーの毛髪や眼球が消えていき皮膚から筋肉組織や静脈や動脈の血管が浮き出てきたかのように透けて見え始め、その8分後にじわじわと筋肉組織と血管の下から骨が透けて見え3分後には筋肉と血管が見えなくなって骨のみしか見えなくなった。


そして、体温も36度4分に戻っていた。


「せ、成功だ」


右の拳を強く握ってガッツポーズするウォーレン。


2時間後。


ピギーは睡眠薬を服用した時の朝の不快な目覚めのように目が覚めた。


「やあ、ピギー、お目覚めかい」


ウォーレンがにこやかな笑顔を見せてはいるものの細心の注意を払いながら声を掛けた。


「ドク、俺、何かすっげームカムカする」


「それは、体調が滅茶苦茶悪いって事なのかい?」


ウォーレンが不安そうに聞き返す。


「いや、何か二日酔いと睡眠薬の作用が残ってて同時に襲われたみたいな感じだぜ。マリファナ、俺の上着から取ってくれねえか」


ウォーレンが研究者としてだけではなく友人として忠告する。


「それは、ちょっと控えてくれないかい。今、コーヒーを淹れるよ。それよりも自分の姿を見てみたくないかい」


ウォーレンが手鏡をピギーに渡した。


それを持って自分の顔を見るピギー。


「ヒョエー、マジかよ、ドク」


その手鏡にはピギーのどでかい頭蓋骨が映っていた。


「すっげーな、ドク。これが俺の頭蓋骨かよ。何か俺、興奮してきちゃったよ」


皮膚や肉、血管や内臓が透明になっただけで消えた訳では無いのでピギーは骸骨がだぶだぶなバスローブを身に着けているような様になっていた。


ウォーレンがコーヒーを手渡し自分もコーヒーを啜りながらピギーに言った。


「バスローブを開けて首とお腹が見える状態でコーヒーを飲んでみてご覧」


言われた通りにバスローブの前部を開けてコーヒーを飲んでみた。


食道を伝い胃袋にコーヒーが溜まっていくのが見える。


「ウォー、何だこりゃ。すっげーな、ドク。俺なんかちびっちまいそうだぜ」


ウォーレンが目を細める。


「まだ、油断は禁物だからね。ベッドで安静にしてくれないと困るよ、ピギー」


「解ったよ、ドク」


大人しくピギーはベッドに横になりテレビを観たりピザやサンドイッチなどを食べながらウォーレンの指図に黙って従っていた。

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