第12話 プロローグ

世の中は金でできていて人は金に支配されている。

金を持たぬ者ほどその束縛は大きくなる。

いつからだろう、いつかこのしがらみから解放されたいと心の底から願っていた。

これは1つの願いを叶える物語、それがYoutube テロリズムだ。


――2ヶ月前、本部。

コンクリートに包まれた部屋で秋山と矢芝は話していた。

「ふぁ〜寝っむ!秋山さん、仮眠室行っていいですか?」

ダサいサングラスをかけた男、矢芝理樹は俺に聞いてくる。

「タバコ休憩か?駄目に決まってんだろ。まだ依頼1つも解決してないだろ」

「ちっ……あ、少年部に一通入りましたよ」

俺はうっきうきで依頼を見る矢芝を見て少しひいてしまう。

「…登録者52万のYoutuber白雪ファミリーのチャンネル削除とそのチャンネルで登場する子供担当の白雪佑斗の殺害……か」

見る限りかなりハイレベルな依頼だ。

登録者が多いタイプのYoutuberは単に住所特定しても効果が現れにくい。

別の形で精神的ダメージを与えないと殺すのはおろかチャンネル削除すらできないだろう。

「秋山さん、手こずるなら変わりましょうか?」

「……俺がやる。お前に下手な手柄を取らせて幹部の座を渡したく無いからな」

俺はそう言ってパソコンを開く。

「はいはい、分かりましたよ。僕はタバコ休憩するので」

矢芝はそう言いエレベーターに乗った。


――3日後。

「……」

まずい、顔出しチャンネルと甘く見ていたが撮影場所が分散しているせいでまるで住所が掴めない。

気分を変えて食べ物でも買うか。

そう思い俺は近所のスーパーに入る。

ガヤガヤガヤガヤ……

……相変わらずここは人口密度が高い。

「なぁ、白雪の動画って見たことある?」

誰かがこれから消すチャンネルの話しをしている。

「あるある、だって旦那さんの編集が面白いからね」

特に有益な情報は……

まて、この子供今なんて言った?


白雪って…まさか身近な人物なのか!?


「それだ」

俺は考えをまとめるために一旦外に出る。

何となくだが計画ができた。

まず白雪佑斗の中学校特定とそれに身近な人物の操作に取り組む。

そして信用している人物が裏切ることで精神状態を不安定にさせる。

……だがこの作戦には欠点が幾つかある。

1つ、YouTubeに関係する人物の有無。

2つ、身近な人物をどう操作するか。

「……俺にはこれが限界か」

俺は1人で解決するのは無謀と判断して本部に戻った。


「なるほど〜秋山さん冴えてますね」

矢芝はごまをするように俺をおだてる。

「だが正直、この作戦は不安定さが多いんだ」

秋山の言葉に矢芝は笑顔で返す。

「なら僕はげぼ…作業員達とその作戦の修正をしてきますよ。あとは任せてください」

矢芝、こいつ表面上はいいやつなんだよな。

あくまで表面上は。

「……任せた」

矢芝は出ていく前に秋山に言った。

「秋山さん、また人が死にますね」

「……」

俺は何も答えなかった。

リストラされたあの日から、他人を気遣うことが難しくなっていたんだ。

そんな事考える暇はないんだ。

「ではまた今度〜」

矢芝は手を振って俺に別れの挨拶を告げた。

――約2ヶ月後。

「例の中学生刺殺事件、あのサイトとの関連性はありますか?先輩」

1人の若い警官は30代後半の刑事に問いかける。

「彼の母親の動機は住所特定による精神状態の悪化だ。彼がYoutuberをしていた履歴もあるから可能性は高いと思う」

刑事はそう返した後に缶コーヒーを開ける。

「でも結局、手がかりはまるで掴めず…ですか」

後輩のため息を聞いて刑事は笑う。

「時間はまだある。確実に成し遂げよう」

刑事は右の拳を握りしめて言った。


「Youtube テロリストの抹消を!」


――中学生編、完――

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