明日、彼が死ぬまでの6時間

黒上ショウ

第1話

「俺さ、明日死んじゃうんだ」

私の幼馴染の蒼木絢斗は、照れくさそうに笑いながら、突然そんなことを言った。

だけど、彼が冗談を言っているのではなく、事実を伝えようとしていることが私にはわかった。

困っている時ほど明るく笑うのが、子供の頃からの絢斗の癖だからだ。

「何かの病気……なの?」

「俺は元気だよ。でも、お前にも言えなかった秘密がある」

「秘密って何よ」

私に教えてくれなかったのが悲しくて、少し不機嫌な言い方になってしまったかもしれない。

「実は俺、夜中に吸血鬼と戦ってるんだ」

「……うん」

私は相槌を打って、話の続きを促すしかできなかった。

「吸血鬼の王を倒すには、特殊な剣で心臓と脳を串刺しにして、王の全身に俺の血を流し込むしか方法がないんだ」

彼は地面を見つめて、自分自身で確認するようにつぶやいた。すると同時に、彼の両手から虹のように輝く光が伸びて、二本の細い刀の形として私の目に映った。

これが彼の言っている、特殊な剣なのだろうか。

私は、心臓が一瞬止まったように、口も身体も動かせなくなってしまった。

彼の両手から光のようなものが消え、私はようやく何かを言おうとした。

しかし、無言の反応を拒絶として彼は受け止めたのか、

「ごめんな、いきなり馬鹿みたいな話を聞かせちゃって。親にも同じことを伝えたんだけど、『ゲームなんかやめて受験勉強をちゃんとやれ』って言われてさ。誰かに愚痴りたくなったのかもしれない」

と言って、明るい笑顔を浮かべながら、私に背中を向けようとした。

私は思わず彼に駆け寄り、その両手を強く握り締めていた。

「もっと聞かせてよ、その愚痴」

絢斗は振り返って、私の顔を見た。ようやく目が合ったような気がする。

「吸血鬼との戦いは明日で、今日は時間あるんでしょ?」

「それはそうだけど……って、俺の話を信じてくれるのか?」

絢斗は戸惑う表情をして、私と目を合わせたり逸らしたりした。

私の手を軽く握り返しているのは無意識で、自分では気付いていないようだ。

「アンタが嘘をつくのが苦手なわかりやすい性格なのは、幼馴染の私が一番知ってるんだから」

私は繋いでいた手を放して、背中から抱きしめた。

絢斗は私に抱きしめられるまま数分考えこんでいたが、吸血鬼とのこれまでの戦いについて、少しずつ私に話してくれた。

絢斗の特殊能力という光の刀は普通の人間には見えないらしいが、私が見えたことは黙っておくことにした。

真面目な絢斗とは違って、私はけっこう嘘つきさんなのだ。

幼馴染の勘で、この話が終わったら絢斗がどこかへ行ってしまうのを私は察していた。

話を聞きながら、スマホでそっと時間を確認する。

時刻は17時32分。明日になるまで6時間と少し。

それまでに考えなければ。

絢斗を助ける方法、吸血鬼をやっつける方法、そして告白の言葉を少々。

恋する幼馴染の一日は、忙しいのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

明日、彼が死ぬまでの6時間 黒上ショウ @kurokami_sho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ