【KAC20221】二女流で男は生きる

ゆみねこ

工藤金紐の人生

 俺の名前は工藤金紐かねひも、ヒモライフを楽しみ尽くす、ヒモ界のエリートと言っても良い。

 何故なら俺は二刀流。OLとキャバ嬢、昼と夜の女の金を吸って生きる社会のゴミ。


 けど、社会のゴミで何が悪い。周りの評価など気にしていては、どんな分野でもエリートになんてなれないのだよ。

 そう。俺は神に選ばれし、ヒモになる為に生まれてきた超有能ヒモなのだよ。それは名前も証明してくれている。


──注・金紐の親は決してヒモになってほしくて付けたわけじゃない。


 俺にかかればヒモとして生きるのなんてちょちょいで出来る。例えばな──っと、これは実際に見せた方が早いな。

 今から俺のヒモライフの一端をお見せしようじゃあないか。



$$$$$$$



 現在時刻は朝方の十時。今はキャバ嬢のエミちゃんの時間だ。

 エミちゃんとはそのままキャバレーで出会った素敵な女の子だ。裏表のない性格で、この業界ではかなり珍しい部類の人間だと思う。


 俺はそんなエミちゃんに惚れた。だから──俺のヒモライフを支えてもらおうと思った。

 女は男を支える。いいや、違うね。男が女に縋り付く、それが正しい本来あるべき姿なのだよ。それにな──御託はいいからさっさとしろって? たく、仕方がないな。


 この時間帯のエミちゃんは眠気マックスの弱々状態。こういう時が一番やりやすい。


「エミちゃん、エミちゃん」

「なあ〜に?」

「ふやふやエミちゃんは今日も可愛いねぇ」


 こういう時の俺は決まってこうだ。可愛いと言ってから、猫の様に撫で回す。

 女の管理はスキンシップが重要だ。


「ふふ、ありがと〜う」

「エミちゃん、何かしてほしい事とかない?」


 金を貰う時は焦ってはいけない。突発的な金の要求や、財布から勝手に抜くなんて以ての外だ。

 しっかりと慎重に見極めながら、地雷を引っこ抜いて進む。ヒモだって、地雷処理くらいするんだぜ。


「え〜、どうしようかな。じゃあ、いっぱい愛して♪」

「エミちゃんが望むならいくらでも。じゃあ、ヤろうか」


 俺は全身を隈なく使って、要求通りエミちゃんを愛す。手を使って、舌を使って、口を使って少しずつ焦らしながら愛していく。

 今日のエミちゃんは安全日。仕上げはナカに俺の愛情を注ぎ込んであげる。


「ちょっと〜、いっぱい出し過ぎ♪」

「エミちゃんは好きだろ? いっぱい注がれるの」

「さっすが金ちゃん。よく分かってる〜」


 ヒモたる者、その辺の調整も出来ねばならない。案外、難しいんだぞ。

 多すぎてもダメ、少なすぎてもダメ。まあ、俺はこの技術を二人目の女で生み出したのだが。ちなみにエミちゃんは九人目。


 そんなこんなで眠気マックスな上に、行為の疲れでお眠りになった。

 しっかりとその前にお金は入手した。


 さて、パチンコでも行くか。



$$$$$$$



 さて、時刻は午前一時。今はエミちゃんは出勤中。だから、OLのカヨちゃんのターンだ。

 カヨちゃんはギャルの血が若干残っていて、言うことはしっかり言うタイプ。今日だって──


「アンタ、良い加減働いたら」


 こんな事を言うんですわ。このヒモ界のエリートに向かって。

 まあ、こういう時の作戦も立てているのがエリートなんだが。


「大丈夫さ。いずれしっかりと働く。それまではカヨちゃんのサポートをさせて」

「ふん、いつまでそんな事を言ってるんだか」

「カヨちゃん、今日も大変な事があったでしょ、顔がそう言っている。何があったか、話を聞かせて」


 当然、顔で何があったかは判別出来ない。しかし、仕事に悩みは付き物だ。

 ふんわりと聞く事で、何かしら思い当たる節にぶつかる。占いとかと同じ方法だ。


「そうなんだよ。実はさ──」


 そして、愚痴を聞く事で俺の仕事についての話から意識をズラす。

 ここもポイント。絶対に反論しない、とにかく聞きまくる。よく言う様に女は同意を求めるってやつだ。


「そうだったんだね。カヨちゃんはよく頑張った。他が認めなくても、俺が認めるよ」

「うん……!」


 自分だけは貴方を認めている。この辺の言葉もかなり強い。相手の依存性を高めて、自分から離れられない様にする。

 永久の支柱になる。それがヒモの人生にとっての命題だ。


「しゃあないな。話を聞いてもらったし、今日は大盤振る舞いしたる」

「別に話を聞くぐらい、どうって事ないよ。俺はカヨちゃんが好きだから支えたいんだし」

「金紐アンタ……。はい、あげる」

「あ、ありがとう」

 

 カヨちゃんは無理矢理、お金を渡してきた。ここまで計算通り。

 カヨちゃんは割と人からの愛を感じられずに生きてきたから、単純な好意をぶつけるのが一番効く。


「そろそろ俺、風呂入ってくる」

「いってら」


 いつもは一緒に入っているが、今日はアノ日だから俺は避けた。

 その辺知っておくのも、ヒモ道において重要な事だ。


「行ってくる〜」


 俺は着替えを持つと風呂に向かった。


「はあ。アイツの事、どうしてここまで好きになっちゃったのかな?」

『──プルプルプル』

「ん? 電話?」



$$$$$$$



 今日はパチンコで大勝ち。軍資金が何倍にもなって帰ってきた。偶には高級な食べ物でも買って帰るかと思い、お高めな寿司屋に寄って、少し食べてから詰め合わせを購入。

 カヨちゃんへのお見上げを入手した。──因みに今回の軍資金はエミちゃんが用意してくれたものだ。


「ふん、ふん、ふふ〜ん」


 今まで類を見ないほどの大勝ち。俺は超絶気分が上がっていた。

 何故なら俺は紐のエリートではあるが、ギャンブルのエリートではないのだから。


 マンションに着くと、鍵を開けて扉を開け放った。

 この時間はまだ、カヨちゃんは仕事の時間だ。カヨちゃんが来るまでの間、何をして時間を潰そうかと考えていたが──


「おかえり」


 何故だかよく分からないが、先に帰ってきていた。

 もしかして、俺の大勝ちを予感して早く帰ってきたのだろうか。全くもう! カヨちゃんは寿司が好きなんだから。


「ただいま。カヨちゃん、お寿司食べる?」

「──いや、今そんな気分じゃないんだわ」


 おっと、俺とした事が寿司に釣られてきたのだから、てっきりテンション高めだと思っていたが、外してしまった様だ。

 それなら──


「仕事の悩み? なんでも聞くよ。なんてたって、カヨちゃんは俺の一番だからね」

「……まあ、そんなトコ。取り敢えず、中に入って」

「ああ、うん」


 大分機嫌が悪いな。上司だか部下だか知らんが、話を聞くこちらの身にもなってくれよ。


「寝室に入って」

「えっ……分かった。カヨちゃんが望むのなら」


 カヨちゃんは夜の営みは好んでいないが……まあいい。

 違和感は感じるが、相当ストレスを溜め込んでしまっているのだろう。俺のテクで発散させてあげる。


「寝て」

「俺が?」

「早く!」


 俺を寝かせると、手枷と足枷を嵌めてきた。俺は攻められるのは好きじゃないんだが……。

 うーん? これは様子がおかしすぎる。本当にどうしたのだろうか?


──そう思った時だった。


 カヨちゃんが部屋の鍵を閉めると同時に、ベット後ろのクローゼットが開いた。


「エミちゃん……?」


 クローゼットに中から、ここにはいるはずのないエミちゃんがこんにちは。

 普段の様子からは考えもつかないほど、その表情が歪んでいて超怖い。


「さて、説明してもらえる?」


 凍てつく様な冷たい声。心臓が早鐘を打ち、逃げろ! 逃げろ! と訴えてくる。

 しかし、枷が邪魔で俺は身動きが取れない。


──俺はこの時初めて命の危機、と言うものを感じた。


「あの……これは……」

「──エミさん。これ」

「ありがとう」


 カヨちゃんが急に出て行ったと思ったら、包丁を二振り持って戻ってきた。その片方をエミちゃんに渡した。


「やっぱ良いや、何も言わなくて。こっちで状況は掴んでるから」

「やっ……やめ……」


 馬乗りになって包丁をこちらに向けてくる二人。その目からは正気が感じられない。


「カヨさん、お先にどうぞ」

「では、お言葉に甘えて──」

「──ギャアア、血、血ガァアアア」


 痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイ。

 腹が裂かれて、生命の源が溢れる……止まらない。痛い。


「私も遠慮なく」


 心臓を裂ける様に優しい手つきで、されど勢いは凶暴に。ザックザックと差し込まれていく。


「ぁぁぁ……もうやめて……くだ、さい。お願いします……」

「ヤダよ。許さないって決めたから」

「さつ……人の罪がああああ」

「社会のゴミが一匹処分された所で誰も気にしない!」


 そこからは二人は無言だった。

 目を抉られ、耳を削がれて、腕を落とされた。


 助けてと言っても誰にも聞こえない。やめてと言っても聞いてもらえない。

 俺はそんなに酷い事をしていたのだろうか……──


──工藤金紐は今日この日、二振りの刃物によって命を刈り取られた。

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