2-3 : 揺れゆく気配
◆ ◇ ◆
――同日、同刻。
所変わって。
大地の土色と空の青色の二色だけに塗り潰された、荒野の真っ
乾いた風が砂粒を巻き上げてパチパチと擦れ合う音と、照りつける太陽が天を渡ってゆく気配以外に変化のない、まるで時間が止まってしまったような世界。
そんな空虚で
風の
そして耳を
揺れる
三対六輪の車輪が蒸気を噴き上げ力強く回転し、巨体を前へ前へと押しだしてゆく。
荒野には
その進路上、空と大地が交わる荒野の果てに、まだ見ぬ目的地をしかし明確に見いだして。
とりわけ大きな岩塊を跳ね飛ばして宙に浮いた巨体が、ズズンと大地を揺らした。
「おっと。……それにしても、全く……何もない場所だよ、本当に」
巨大な〈霊石〉を真っ赤に燃やし、絶えず蒸気を噴き上げて猛進する鉄の猛獣。
その腹の中で、そんな独り言が
「ロロロ!? お気をつけを! 今のは危なかったですぞ?!」
その横で独り言を発したのとは別の声が、
「こんな所で横転などさせましたらどうなさいますので!? 小生らではひっくり起こせませんぞ!? もう少し安全運転を心がけていただきたい!」
「ん? そうかい? そんなに危なかったかな……あれぐらいなら大丈夫だと思ったんだけど」
一方は慌てふためき、もう一方は随分と落ち着いている二人組。
二人の語調には熱湯と氷ほどにも温度差がある。
「ロロロォ……全く、あなたというお人は。仕事となると
熱湯のほうの声が、ぽっぽと語気を強めた。
「検出座標は〈鉱脈都市レスロー〉を指しているのでありましょう? 陸の孤島ではありませぬか。どこにも逃げられなどしませぬよ」
「だからだよ、ヤーギル」
前方を凝視したまま、氷のほうの声が応えた。
「君の言うとおり、逃げられる心配はない。けれどもそれは、関係のない住人たちにも逃げ場がないということだ」
複数のギアを介して
「大きな被害が出る前に、迅速な対応を取らないといけない」
黒真珠のような瞳が二つ、照りつける太陽にギンと光る。
「そのために私たち――〈解体屋〉があるんだ」
強い意志を代弁するように、蒸気駆動式大型六輪トレーラーが、荒野に爆音を
◆ ◇ ◆
――二日後。
〈鉱脈都市レスロー〉居住区、〈汽笛台〉。
ボンッ。
間抜けな爆発音が倉庫を揺らした。充満する蒸気の中に、物影が浮かび上がる。
逆さまになった木箱から、ヌンッと脚が二本生えた。
「……くっそ……また失敗か……」
サイハの住み
働き口を探していたヨシューを手引きするついでに、
住み込み先が決まってからも、なぜかサイハにつきまとおうとするリゼットだったが、リゼットがメナリィの食事に食らいついている
土地勘のないリゼットが、迷路のように入り組んだ鉱脈都市の路地を抜けて〈汽笛台〉に戻ってくるのは不可能。
サイハは再び、一人の時間を取り戻すことに成功していた。
そこまでは成功していたのだが……それからは失敗続きであった。
目の前の機械構造体を〝ボンッ〟とやらかしたのは、この四日間で既に三度目。
蒸気機関の調整は一向に
ドンドンドン!
直されたばかりの扉が激しく
「サイハぁ! ええ加減にせい! 今の衝撃で
「知らねぇよそんなこと!」
サイハのほうもついカッとなって声を荒らげる。扉を挟んでの応酬。
「こんのっ……タダ住まいの厄介もんがぁ!」
「
「そんなわけわからん機械いじりで、〈
「悪かったなっ!! オレだって吹っ飛ばしたくてやってんじゃねぇよ! あぁもう気が散るからほっといてくれ!! ……ほっといてくれよ……」
ふいに、サイハの声が気落ちした。
扉越しにその変化に気づいた
「……。……のう、サイハ。何をそんな生き急いどんだお前」
「……オレは、ただ……〝こいつ〟をまともに動くようにしたいだけだ」
サイハが、
荒らげていた息はとっくに落ち着いていたが、声が震えるのだけはどうしても収まらなくて。
「……。サイハ……お前、もしかして十年前のことまだ……」
「……っ!」
「っうるせぇ!! 行っちまえよ! 汽笛屋がオレに構うなって言ってんだろ!! 次は本当に発破かけてやろうか!?」
「……サイハ……。…………」
ふらつく足取りで室内を横切り、サイハがバフリとベッドに身を投げる。
「……夢見て
ボロボロのフレームを
「約束をよぉ……
寝不足の身体が鉛のように重い。
脳裏に誰かの声が繰り返し再生される。
〝ロマン〟という言葉の意味が、あの地下で見た銀の輝きと固く結びついたまま離れなかった。
そんな無数の思考が四方八方から飛来して、沈んだ気持ちをめちゃめちゃに
「……あいつのせいだ……リゼット……」
完全な八つ当たりとわかっていながら、悪態を吐かずにはいられなかった。
「あの女のせいで、何か調子狂っちまった……」
ふと、サイハが何とはなしに散らかった室内に目をやった。
そこに、あの銀色は見当たらなかった。
「……そういや
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