囚われのセレーナ
第1話 兵機革団B18分隊所属
ある日の夕方ごろだっただろうか。
突然日常が壊された。
気がついたら目の前に海が現れたり、山が丸まる一座生えたりした。
それが自然現象による災害なのか、数十年前に突然姿を現した光装師が起こした人災なのかはわからない。
そんな天変地異による被害が最も大きかった都市から数十キロほど離れた場所にある田舎の森の中に、混乱に乗じて強盗や誘拐を行う組織が拠点を置いているという連絡があった。
「おい――ガキ結構いい――ぜ?どうするよ」
「俺の術なら――――こともできるぜ。木に縛りつけた――も何かやだろ。やるか?」
背が成人男性の肩ほどまである茂みに囲まれた野原から、1人の少女を中心に切り株に座る男たちの会話が途切れ途切れに聞こえる。
これはきっと最近はやりの人身取引だろう。いや、売り払う前に一度使うということは今回は臓器売買に使われるのかもしれない。
どちらにしても、気味の悪い話だ。
災害が起こってからというもの、このような事件が後を絶たない。
私は、そんな屑どもを撲滅するためにこの組織に入った。
今日も仕事としてここに来ている。
すぐ近くにいる見張りをまずは片づけるべきだろう。
「……?今何か物音がしなかったか?誰か見てこい」
男たちが見回りに来る。これは失態だ。見張りの男を殺したはいいものの、崩れ落ちる死体の体を支え切ることができず音を立ててしまった。
なんとか近くにあった巨木の裏に身を隠したが、すぐそこまで男が見回りに来ている。
もしかしたら敵の術ですでに居場所が割れているかもしれない。仕方がない。
このままの受け身の状態では戦いが向こうのペースに支配される。
あまり得策ではないかもしれないが、姿を見せるべきか。
「見つけた……って女?おいおい、自ら身体売りに来たのか?それともなんだ、もしかしてお前。一人で俺らを倒そうとしてんのか?まさかな」
私を見つけた(正確には私から姿を現したところを発見した)大柄の男が仲間を集めてこちらを狙う。
皆、短剣を片手に睨みつけてくる。光の反射の仕方や刀身の霞のかかり方を一目見ただけでわかる、安物であることに加え、手入れをろくにしていない。
変に心配をして損した。
敵が雑魚と知ればこちらも丁寧に戦う必要もないだろう。
「いつまで突っ立っているつもりだ、女。何もしないまま殺されるつもりか?ふっ、まあいい。最期の言葉くらいは聞いてやろう」
「ならありがたく。自己紹介でもさせてもさせてもらおう。私は兵機革団B18分隊所属、名をセレーナ・ヴィクトリアと言う。好きに殺しに来てもらって構わないが、先に言っておく。死にたくないならさっさと逃げろ。ま、どちらにしろ殺すがな」
「図に乗るなよ。この人数の差を見てわからないのか?どんなにお前が強くてもこの世はな、質より量なんだよ」
その言葉と共にぞろぞろと短剣を装備した男たちが茂みの中から現れる。あからさまな殺意だ。
敵の集団の先頭に立ったのは見るからに屈強な男だ。
「俺の名前はゲイド。女を傷つけるのは心が痛むが……すまない。悪く思うなよ」
優しさも持っているようだ。
それでも敵は敵。逃がすわけにはいかない。
こちらが攻撃を開始するより前に、ゲイドが手のひらから光弾を空に打ち上げる。
それがこの男の能力なのだろう。単純な術だが、だからこそ危険だ。
この光弾を合図に男たちが私から距離を開けて囲み込む。
こいつらは本当に私を殺せると思っているのだろう。
それにしても流石に数が多い。今回は被害者の少女までいると聞いている。
できる限り早く切り抜けたいところだ。
体力には自信がある。さっそくあの技を使ってもいいかもしれない。
そんなことを考えているうちに敵はすぐそこまで来ている。
攻撃をかわしながら足で地面を蹴り、空に飛びあがる。
男たちはこちらに釘付けだ。そうやってじっとしていてくれ。と願う。
――おじいちゃん。どうか、裁きに助力とお赦しを――
私が体の正面に構えた両手剣に力を籠めると、白銀の光沢を見せる刀身が蒼く輝いていく。
「来世では罪を生まないことだ。じゃあな」
そう言い放ち、ゆっくりと剣を振り下ろす。
光の筋は地面をつたい敵を貫いていく。一度光に飲まれればもう誰も抗えない。
ここまで成功すれば後はひとりひとり片づけていくだけだ。
光にとらわれた男を見ながら私は着地する。
どうやら彼らは身動きを取るどころか声すら出すことができないようだ。
もちろん、この有様は私の能力によるものだ。
この蒼い光に触れたものは私が解除するまで行動を取ることができない。光が体を侵食しているといってもいいだろう。
「結局、威勢がいいだけの雑魚か。もっと骨のあるやつらだと思って……」
違和感だ。たしかにこいつらはひとまとめに捕らえられたが、何かが足りない。
彼がいない。ついさっき先頭に立っていた男が。
背後から何かが動く気配を感じる。
ゲイドだ。
「なかなか手ごわい能力持ちのようだな。だが、こちらも光装師だということを忘れるな」
不覚にも背後を取られた私は彼の攻撃をなんとか腕で受けるしかなかった。
「くっ……やってくれる。こいつらと一緒にやられてくれれば楽なのに」
直接打撃をくらうのはあまり慣れていない。衝撃が後から腕に響き動くことができない。
なんとか茂みの中へ逃げ込んだが、このままではゲイドの攻撃を受け続けるだけだろう。今回は簡単な任務だと甘く見ていた。
〔こちらヴィクトリア。すまないが増援を求める。報告より強いのがいる。頼めるか〕
〔もちろんです。セレーナさん。アルク君とローンさんを向かわせます。何とか粘ってくださいね!〕
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