★Step33 彼氏と彼女の出会いと…
天気は快晴。日差しは麗らかで教室に籠って勉強しているなんて言う事が勿体無い、そんな陽気の午後でした。
夏子は屋上のフェンスにもたれかかって、眼下の景色を眺めます。
風が一陣吹きぬけます。花の頃の爽やかな風です。でも、心が何となく寂しいのは南との仲がぎくしゃくしているからでしょうか。
分ってはいるのです、彼の性格の事も振舞いの事も。ぶっきらぼうで、不器用で、自己中心的な事は百も承知、その上で付き合っていた筈ですから、割り切れていた筈です。でも、今回は敵がいるのです。リンダと言う敵が。しかも彼女はその自覚が全くないから、夏子の事を心底心配してくれていて、嬉しい反面のねたみで、顔をまともに見る事が出来ない。そんな気分の午後でした。
♪♪♪
そんな気分の事も有るんだなと、南は夏子の席を見ます。空席の夏子の席…教師は、そんな事、お構いなしに授業を進めて行きます。進学校の冷たさでしょうか、聞く気の無い物は居なくても心配される事も無く、授業は粛々と進んで行きます。
しかし、席について居るから授業を聞いて居るかと言われれば、それは必ずしもそうでは有りません。南の頭の中は、夏子の事でいっぱいでした。
二人が付き合い始めたきっかけは、高校の入学式まで遡ります。
中学でも成績の良かった南は、この高校にトップの成績で合格しました。合格発表の時、貼り出された合格者の一覧を見て南は、当然の事だと、冷めた目でそれを見ました。
合格発表を見に来た人の群れの中には夏子の姿も有りました。彼女は合格者の一覧に自分の名前が有る事を確認して、泣き出さんばかりの表情で、その場に立ち尽くして居ました。
夏子の成績は、合格ラインぎりぎりだったのです。だから、一生懸命勉強もしたし、努力もしました。そして勝ち取った合格です。感慨も一仕切りでした。
その二人の視線が偶然にも交錯します。夏子は涙、南は醒めてと言う正反対の反応でした。
そして、入学式が有ってクラス分けが有って学校生活は始まりました。
夏子は直ぐに友達が出来ました。同じクラスの女子達ですが、南は孤立しています。でも、それを気にする事は有りません。中学の時もそうでしたので、高校生活も中学の延長線上に有り、何等気にする事もありません。逆に一人で居るのは、めんどうが無くて気分も楽でした。
学校が始まってすぐ、各自の実力評価の為のテストが行われました。その結果が廊下に張り出され、南がぶっちぎりでトップでした。その次が夏子です。
南は何も言わず、その結果を一瞥しただけで、教室に引き上げようとしましたが、夏子がちょっと躊躇いがちに、南に声をかけました。
「烏山君…凄いね、どうして?」
「ん、ああ。安定度は別に」
南は冒頓にそう答えました。その、ちょっと醒めた雰囲気に夏子は段々と魅かれて行きます。夏子にはその姿が、落ち着いた、冷静な行動に見えたのです。自分と正反対の性格。南の欠点で有った筈の部分を夏子は好きになってしまったのです。
しかし、今、それが嫌で溜まりません。優しくして欲しい、自分だけを見てて欲しい。そんな独占欲が心を支配しています。でも、南はそれに応えてくれません。自分が一生付き合う事に成るのは、この人では無い…南に対する夏子の気分は、すっかり醒めてしまったのです。
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