★Step28 くすぶるこころ

頭痛が収まらないのは、有る意味救いだと夏子は思いました。南の事を忘れようと無理矢理呑んだビールは夏子を二日酔いと言う初めての経験をもたらしました。夏子はベッドの上で一人膝を抱えて朝から殆ど動かずに過ごしていました。なんだか皆、どうでもよいと言う感情で一杯に成り気力も萎えて、このまま部屋に引きこもってしまうのではないかと思う位、全ての事が億劫でした。


「夏子、居るの?」


彼女の母親の声が聞こえましたが返事をする事は有りませんでした。


「お友達が来てるから、入って貰うわよ、良いわね」


夏子は『お友達』と言う言葉にちょっと期待しました。ひょっとしたら、南が来てくれたのでは無いのかと。


「こんにちは…」


しかし、ドアを開けて入って来たのはリンダでした。期待を裏切られた夏子は、リンダには悪いとは思いましたが、小さく為息をつきました。


「なあに、どうしたの?」


分っては居るのですが、夏子はリンダにちょっと冷たく当たってしまいます。南の行動は『留学生に対する優しさ』意外の何物でもない事を、分っては居るのですが、それを素直に表す事が出来なくなっていました。


今、聞きたいのは南の優しい言葉です。それ以外の物は、鬱陶しいだけでした。それが両親の言葉や、リンダの言葉であったとしても。そして夏子はリンダと視線を会わせようとはしません。


「あの、どうしたの、今日…」


リンダは、腫れ物に触る様に夏子にそう尋ねました。


「ん、別に、どうともしないわよ。ちょっと気分が悪かっただけ。明日は学校行くから大丈夫、心配しないで」


夏子はそう言いましたが、相変わらず、リンダとは眼を会わせようとしません。夏子も、こんな態度をとってはイケないと思っているのですが、どうも素直になれません。南の態度がはっきりしないのが、一番の原因ですが、イライラの矛先がリンダに向いてしまいます。


「そ、そう…」


リンダも夏子に会いに来ては見た物の、昨日の事も有って、何を話して良いのか分りません。顔を見れば、何か言えるかとも思ったのですが、それ程上手くいく物でも有りませんでした。


「ホントに、大丈夫だから、気にしないで。明日は学校に行くから…必ず…」


 しかし、夏子はそう言いましたが、心は沈みます。南に会いたい、声が聞きたい。夢たい奴だけど自分には優しかった。不器用な奴。でも、不器用なだけじゃあ…夏子の思考は止まらなかった。全てを忘れてしまいたかったのに…そして、来ると言っていたのに夏子は相変わらず学校に現れなかった。担任の話によれば、風邪で寝込んで居ると言う事だが、この前の感じだと、それは多分うそだとリンダは思っていた。そして、彼女の家をもう一度訪ねて見ようと思いました。

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