★Step19 彼氏のとんだ災難

時刻は現在昼休み。


何時もの仲間と一緒に光江が作ってくれたお弁当を広げつつ、リンダは夏子に思い切ってそう尋ねて見ます。しかし、夏子の答えも曖昧で夏子にすら南は本音を言っていないのでは無いかと疑問が残りました。リンダは更に質問をを夏子にぶつけて見ます。


「ねぇ、南って、ホントは何に成りたいのかなぁ?」

「う、ん、多分、お医者さんだとは思うんだけど……ねぇ」 

「でも、南の態度から察するに、違うんじゃぁないかって気がするの」

「何か根拠が有るの?」


リンダは胸を張って答えます。


「女のカンよ!」


夏子はちょっと困表情でリンダを見詰めサンドイッチを一口齧ってからリンダに訪ねてみました。彼女が今一番疑問に思ってる大事な質問をです。


「その、カンにも何か心当たりが有るから感じる物だから些細な事でも根拠が有る筈よ。リンダは何か感じるの?」


リンダはおむすびを片手に視線を空中に泳がせながらこう答えました。


「何となくだけど、何か苦しんでる気がするのよねぇ。いっつも冷たくてごり押しが強い奴だけど、それが、たま~にふっと無くなるのよ」


夏子は、リンダの観察眼はやっぱり女の子だと思いました。夏子も南と付き合ううちに、そんな疑問を抱いていたのです。南は本心を包み隠して別の事をしたがってる。家族の期待と自分の夢にどう折り合いをつけるかで。そんな事を思っていると、リンダは夏子に突然訪ねます。


「立ち入った事だけど、夏子は、どうしてあんな奴と付き合ってるの。何やっても冷めてて、自己中心主義で意地悪で…」


それを聞いた夏子はにっこりと微笑みます。


「彼、まっすぐなのよ。目的を達成する為に必死なの。だから周りに少し配慮が足りなくなって、誤解されるんだと思う」


リンダはふうんと鼻で答えます。


「正直者なのよ、嘘がつけないからああ言う態度に出るんでしょうね。そして多分これは一生治らない」


夏子の性格が直らないと言う発言を受けてリンダは思いました。そうはい言っても南、その性格は絶対直した方が良い……と。


♪♪♪


「へっくしょん」


理科実験室で南が大きなくしゃみをしました。


「どうした?」


佐藤、鈴木、田中組が南に視線を送りますが、その視線は決して温かい物では有りません。なにしろ南は恋敵なのですから。もしも風邪だとしたら、むしろ喜ばしい事です。なにしろ三人の憧れの的であるリンダを独占する男な上に全校憧れの的である夏子をもその手の中に有る訳ですから、病に倒れてくれるのは三人にとって好都合、治ってくれと思うより悪化しろと心の底から思ったりする訳です。


ただ、意外な事に南は女子受けが悪い訳では無くて容姿は並みの上、付き合うには丁度良いと言う感じがするのです。それに、この進学校に有ってぬきんでた成績は憧れの対象にならない訳が有りません。要するに女子から見れば性格以外は良い男なのです。


南を含めた四人は、午後の科学の実験準備の真っ最中でした。今日の実験は微弱電流の液体中での伝わり方と言う比較的簡単な物でした。ビーカーと塩化ナトリウム、テスターと乾電池。必要な物を南はてきぱきとそろえて行き、例の三人組はそれに引っ張られてと言う感じで準備を進めて行きますが、あまり要領がよくありません。南は意外にもリーダーシップが有って、三人を纏めて準備を進めて行きました。


そんな中、佐藤が何を思ったのか、テスターにケーブルを接続して端子をコンセントに突っ込みました。それを見た南が彼に向かって訪ねます。


「何してる…」

「ん?テスターの動作確認」


そう言って佐藤は目盛りの動きを見ながら測定レンジを切り替えます。その時でした。


「何、余計ん事してるんだ。とっとと準備しないと授業に…」


そう怒鳴りそうになった刹那……

「んぎゃぁ!」


佐藤が突然悲鳴を上げます。同時に学校中の電源が全て落ちて焦げ臭いにおいが理科実験室に漂いました。昼間ですから真っ暗になる事は有りませんでしたが、突然の停電に気を取られて、周りを見るのを忘れて居ました。そして、我に返った田中が突然叫びます。


「うわぁ、さとお~」


そこには佐藤が気を失って倒れてました。テスターから煙が立ち上っています。機器の故障で内部がショートした様で、コンセントに刺さっているケーブルが焦げて煙を上げて居るのが見て取れました。南は佐藤に思わず駆け寄って彼をコンセントの近くから引き離すと、口元に手を当ててみました。


「呼吸してない…」


南の言葉に鈴木、田中の表情が凍り付きます。


「先生呼んで来い、救急車だ」


それを聞いて、鈴木が理科実験室から飛び出して、職員室に向かって駆け出しました。酷く乾いた沈黙が理科実験室を包みます。南は思います、なんとかしなければと……しかし、どうして良いか分かりません。このままの時間経過は最悪の状態に陥るのは目に見えています。ぎこちない時間、南は無意識のうちに、ぎゅっと唇を噛みました。

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