極端なあなたと凡庸なわたし

和登

極端なあなたと凡庸なわたし

あと少しか、もう決めないと


徒歩圏内にあるデパートメントには平日でも多種多様の人々が来ている。その施設同士を繋ぐ連絡通路の端でうなっているのが私だ。


痒いところに手が届かない品揃えを渋い顔で眺め終え、気になったものを思い返す。う、う、うーん


それにしても、こんなにもぶらぶらできたのは久しぶりだ。家庭を持ってからでは初めてのことじゃないだろうか?独り身の時はあんなに暇を持て余していたのに。だがしかしどちらかといえば家にいたい私より、いつも飛び回っていた彼女が出かけた方が良かったのではないだろうか?


彼女は活動的で、いつだって極端だ。学生の頃からそうだ。


当時はリョウトウだとか二刀流だとか言われていて、いつも変わったことをしていると噂されていた。


学業もできれば運動神経もよいのだがやることが突き抜けていたのだ。陸上部のエーススプリンターかと思いきや10000m走にも出ていたり、文化祭では漫画を公開しながらバンド発表もしていたりした。漫画は恥ずかしくなるくらいの純愛で、歌声はふだんより低音で胸に響いた。


それらも今はやっていないから、プレゼントのテーマには相応しくないだろう。


同級生たちはそんな彼女を尊敬しつつも敬遠というかいつしか遠巻きに見るようになっていた。すごいぞ、またなにかやっているぞ、と。


文化祭の帰り道に聞いた覚えがある。どうしてそこまでできるのかと、私は模擬店をなんとかやりきるのに精一杯だったのにと。

すると「なにか一つのことをやろうとするとね、どこかぐわーって突き詰めたくなるんだよね。そうすると次は全然違うことぐわーっとやりたくなるの。それがちょうどいいって気分なんだ」と彼女は言った。つまりはやる気にあふれているのだ。


そんなキラキラした彼女と話していると自身の凡庸さが際立つのを感じたが、それ以上に刺激的だった。私がちょうどいいと思っていた領域の外を彼女はちょうどよく飛び回っていた。


そんな彼女は今、子供と一緒に家にいる。


出かける前に彼女は「今は食べ物を突き詰めてるの。甘党と辛党ってあるでしょ?甘さも辛さもいろんなのがあるんだよ。帰ったら一緒に食べて、ね」と、果物やスパイスが載っている本たちを交互にめくりながら言っていた。


思い出すと腹が鳴ってくる。どんな料理が待っているのか楽しみな以上、食べ物も余計だろう。であれば私にはこれくらいしか思いつかない…。



家に帰るとスパイシーな匂いが出迎えてくれたがとっても静か。リビングにはいると彼女と子供が一緒に昼寝をしていた。散らばっているぬいぐるみたちが、過酷な育児現場を想像させる。


机にはぐるぐるとクレヨンで彩色された手紙があった。


手紙にはこう書いてあった

「いつも思い立ったら突っ走る私に、いつもいーっつも一緒にいてくれてありがとう。ぐわーってしている時にしっかりと落ち着いていてくれるあなたがとっても素敵で大好きです。結婚一周年おめでとう。これからもよろしくね」


手紙を胸にしまい、机の上に買ってきた花を飾った私は深呼吸して声をかけた。

ただいま、一緒にごはんを食べようか

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極端なあなたと凡庸なわたし 和登 @ironmarto

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