この頃流行りの二刀流

相応恣意

この頃流行りの二刀流

「最近、二刀流のお店が流行ってるって、知ってる?」


 週末の夜の穏やかな時間。

 洗い物をする手を止めることなく投げかけられた突然の遥からの問いかけに、俺は面食らった。


「二刀流……の店?」


 なんだろう、剣術指南でも流行っているのだろうか?


 俺の表情を見て何かを察したのか、違う違うと遥は首を横に振る。


「ほら、角の居酒屋さんが昼間にケーキ屋さんを始めたじゃん。ああいう風に、お昼と夜で全然違う業種のお店をやることを、最近では“二刀流”って言ったりするんだって」


 なるほど。スポーツでは時たま耳にするようになったが、今ではそういう使い方もするのか。


「随分と意味が広がったなぁ……で、それがどうしたんだ?」


 何故今、二刀流の話が出てくるのだろう?


 俺の問いかけに遥はニヤリと笑うと、洗い物をする手を止めた。


「いや、誰かさんと同じだなあと思って」


 言葉とともにソファに座る俺の横に、するりと滑り込んでくる。


「平日の昼間は良き父親として家族を守って……そして週末の夜はここに来る……昼と夜で全然別の顔で、それってまさに“二刀流”でしょ? 奥さんが知ったら、どんな顔するのかなぁ?」


 妖しく微笑む遥の言葉に、俺は全く返す言葉もない。


「……大丈夫だ、妻にはバレてない」


「そう? それならいいけど、女の勘はバカにしない方がいいよ?」


「……ここで、あまり妻の話をしないでくれ」


「ごめんごめん。それじゃあそろそろ夜の営業時間、再開する?」


 冗談めかした言葉に苦笑しながら、俺は彼の体をゆっくりと抱きしめた。


 週末の夜は、まだまだこれからだ。


                了

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