団体交渉

@tsrtsr

要望書

「担当者がテレワーク中で不在のため要望書は受け取れません」

 変な音を出しながら、思わず吹き出してしまった。数秒ニヒルな笑いに包まれた後、虚しさと腹の底から怒りに包まれた。そして、自分の股間が固くなってきた事に戸惑った。

「俺たち下の人間はギュウギュウ詰めで働かせて、自分たちはテレワークかよ!」

 他部署の誰かが叫んだ。ストライキ仲間ではあるが、初対面だし名前も知らない奴。的を射たツッコミだ。コールセンターには芸人や声優、舞台俳優が多いので、もしかしたら本職の芸人なのかもしれない。

 そんなことより、芸人崩れが言った「下の人間」というワード。そうか、俺はこんなゴミ溜めで一緒に「下の人間」として見下されているのか。そう考えると悔しくて、どんどん自分の股間が固くなってきた。そこそこの大学に入ったんだけどな。あの時、目指した大人には決してなれやしなかった。なんでクソ寒い中、こんな惨めな思いをしなければならないのか。惨めだ、悔しい。乳首をいじりたくなったので、脇を搔いているフリをして、親指の付け根で刺激した。

 労働組合の人がひどい剣幕で、受付の人に取り次ぐよう大声で主張している。考えたら、受付の人も「下の人間」だ。何の権限もなく、きっとただ「追い返せ」とかだけ言われて板挟みなんだろう。そんな仕事、世の中に存在しなくていい。ブルシットジョブってやつだ。受付の彼女も一緒にストライキに参加すれば良いのに。あぁでも、メインの主張は「全社員テレワーク導入」だから、もし本当に実現なんてしたら、受付の人たちは職を失うのか。「下の人間」てやつらは本当に使い捨ての駒なんだな。なんで、俺はこんな目にあってるんだろう。怒りで、激しく隆起する。もう、ちょっと耐えられないな。

「すいません、ちょっとトイレ行きますね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る