第3話 カクシン
三人は再び生徒会室に戻ってきてそれぞれ椅子に座った。
ここに戻ってくる最中にも、音楽室に向かっていた時のような喧騒が聞こえ、それほどまでに時間が掛かってないことに気付く。
窓から見える空の色もまだ赤みがかってはいない。そういえば今日は6限目がなかったことを思い出した。だから余計に時間の進みがゆったりと感じるのかもしれない。最近ではあまり感じたことのない一瞬である。
「もうよかったのか?」
おそらくまだ頭の中がはてなだらけであろう古田は心配そうに尋ねた。おそらく半田に対してのことだろう。こいつ頭は良いけどお人好しすぎる部分もある。
「充分だろ」
まあ生徒会室に籠っていた時よりかは断然進展した。いうほど籠っていたわけではないが。てかあの部長、後半泣きそうだったし可哀想じゃん。後輩の女子に詰められて委縮するって…。半田がMならむしろ良かったのか。やったじゃん半田!おめでとう半田!
「あまりいじめてやるなよ」
そう軽口を叩くと鋭い目つきで桜木は俺を威嚇するようにした。すみません。俺はMじゃなかったみたいです。
「まああの部長何か隠してる感じもしたけれど、それに関しては確信はないし、これ以上は無駄みたいね」
「結局誰がやったかは分からなかったな」
「いや、誰がやったかは大体わかっただろ」
「え?」と二人同時に俺を見た。古田はともかく桜木も分かってなかったのか。
「じゃあ誰だというの?」
と悔しそうに桜木は俺に詰め寄ってくる。だから俺はMじゃないってば。
「でもまだ分かってないことが……」
そう言おうとしたところでカラカラと生徒会室の扉が開かれた。どこかで見たことのある女子生徒が廊下を見渡しながら「少しいいですか」と入ってきた。
「どうしたの?町田さん」
と、その女子生徒の苗字であろう言葉を発した古田はそのまま自分の席を立ち、彼女を座るように促した。彼女は素直にちょこんと椅子に座り、周りをきょろきょろと見ている。見たことある気がするといったが、ちょっと人懐っこい野良猫に似ていただけかも。
「さっき私たちがお邪魔するまで空き教室にいた方よね?」
だから既視感があったのか。全然猫とかじゃなかった。でもまた桜木の時のように同じクラスとかだったら、失礼を働くところだった。野良猫も十分失礼かもしれないが。まあ猫なら大丈夫でしょう。可愛いし。桜木は虎とかに似てる。
古田の顔の広さは元からだが、だけれども桜木はよく覚えていたなと感心する。やっぱり俺が桜木を知らなかったのは失礼じゃなくむしろ自然で、桜木がおかしいのではないだろうか。
そう一人で納得していると、
「逢坂。もしかして町田さんを覚えてないのか?」
古田は「なんでだ?」と言わんばかりの表情を見せ、俺に確認した。
町田?こいつのお株を奪うようで申し訳ないが頭の中はハテナである。
「さすがに俺は桜木…さんのように記憶力が良くないからな」
「桜木でいいわよ」
そこまで俺に記憶力があることに期待していなかったであろう桜木は呟いた。
「いや、じゃなくて。町田さん俺たちと同じ中学だったから」
Ohジーザス。桜木の時よりもこれは圧倒的失礼の可能性あり。
呆れて微苦笑のような嘲笑するかのような表情をした桜木を見るに弁解の余地なし。軽蔑の視線あり。しかしすかさずフォローを挟む。
「それはごめん。話を戻すけど、ベストフレンドの町田さんはどうしてここに?」
束の間の時が過ぎ去る。宇宙ってこんな空間なのだろうか。素直に謝れたとこまでは良かったが流石に蛇足が過ぎたか。コミュニケーション×っと。
「冗談はさておいて」
それ俺の台詞!と思ったが流石にこれ以上は余計な口を挟むとビックバンしかねないので黙っておく。桜木が続ける。
「ここに来たのは、サックスの件なのでしょう?」
そう聞かれた関は、コクコクと頷き、やがて重厚な扉を開くかのように重そうに口を開いた。
「実は早紀ちゃん。神田早紀は、部活内でいじめられていたんです」
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