第19話

「えーっ、谷良内やらうち君、彩芽あやめさんと同じグループになるの? じゃあ私も彩芽さんと同じグループがいい」


 あれ? 話数をまたいだってのに、俺の頭上はまだ騒がしいままなの?


 仕方ない。あずさちゃんには悪いが、この騒音を切り離させてもらおう。


「梓ちゃん、すごく人気があるんだね。これだと別々のグループのほうがよさそうだよ。俺は仲のいい男子とグループを作るから、梓ちゃんも仲のいい女子グループを作るようにしない?」


「え、う、うん、うーん、うん。分かった……」


 梓ちゃんが肩を落として自分の席に戻っていった。

 彼女が去ると、それを取り巻く男どもが去り、その流れで女子たちも解散した。

 どちらの種族も等しく肩を落としている。梓ちゃんにかけた虫除けスプレーは効果テキメンだったようで、谷良内にもスプレー効果が及んだようだ。

 いまは放課後。生徒たちは順次、下校の途についていた。


 ああ、せいせいした。


「あ、隼人はやと君」


 その呼び声は谷良内だった。

 俺を呼ぶ声が男の場合、菊市はだいたい反応しない。菊市は俺に背を向けて下校のための荷造りを始めた。


「何?」


 彩芽さんと彼を切り離した恨み言でもぶつけてくるつもりだろうか?

 爽やかイケメンのくせに、根に持つタイプか?


「隼人君は男子だけのグループを作りたいんだよね? じゃあ、ぜひとも僕を同じグループに入れてくれないか?」


「え、べつにいいけど、なんで?」


 しまった! うっかり理由なんていてしまった。これはあまりにも失礼だ。

 俺と同じグループになっても、もう梓ちゃんと同じグループにはなれないのに。そんなことを考えていたら、うっかり理由を訊いてしまった。

 谷良内と俺はそんなに話す間柄ではないので、彼の誘いをちょっと不思議に思ったのだ。


「あ、いや、その……」


「んん?」


 もしかして谷良内は友達がいないのか? いや、そんなことはないだろう。

 彼は女子からの人気が高いために男子の敵は多い。しかし彼の性格は一般的に人から好まれるもので、男子でも彼に好意的に接する者は多い。少なくとも俺よりは友達の多い奴だ。


「いや……なんでもない。いまのは気にしないでくれ」


「ああ、そう……」


 そもそもグループなんてものを作るとしても、それはだいぶ先の話だ。

 だいいち、グループを自分たちで決められるかどうかも分からない。いまのうちからグループのメンバーを考えるのはナンセンスというか、無駄なことだと思う。


「隼人、帰ろうぜー」


「おう」

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