第2話
「あれ~~? 受付に男がいるけどどういうことだ~~? そう見えて女の子だったりするの? スカート履いている?」
翌朝。
受付カウンターにファウストが座って待ち構えていると、茶色の髪に同色の瞳、プラチナメイルを身に着けた剣士が姿を見せた。開口一番、煽り。
「このひとが聖剣士ジルベルトです」
ファウストの隣に座ったアンナが、こそっと耳打ちをする。前日散々しつこく誘われたと聞いていたファウストは「今日は休んでいてくださっていいですよ」と言っていたが、「いくらなんでもファウストさんは新人だし、今日くらいは隣に」とアンナが食い下がったため、二人で対応にあたる形になった。
「正真正銘男です。ジルベルトさんは女性とじゃなきゃ会話が出来ないんですか?」
にこにこと笑みを浮かべたまま、ファウストが応じた。
途端、ジルベルトは弾かれたように笑い出した。
「おいおい、なめたこと言ってくれるな。なんだお前。誰に向かって口を聞いている?」
「Bランク聖剣士のジルベルトさんです。昨日仰々しく受けていったっていう、Cランクのワーウルフ討伐依頼、進捗いかがですか?」
ジルベルトの煽りに対し、まったく取り合うことなくファウストは要件を口にした。ジルベルトは一瞬鼻白んだ様子があったものの、眼光を鋭くしてファウストを見つめ、ひとまず聞かれたことには返事をしてきた。
「それなんだけどよ。西の森で出現するって聞いたけど、行っても全然エンカウントしなかったぜ。その依頼、少し前のだって言ってたけど、誰か倒しちまったんじゃねえの?」
「そうですか。つまり未達ということですね」
「ばっかお前、ひとの話聞いていたか!? いねーんだって、モンスターが。いねーもんは退治できねーだろ」
「本当に西の森に行ったんですか? どこかで時間を潰して、今日もギルドに顔を出して、そういう『いなかったけど、エンカウントしなかっただけかな。俺にこの依頼片付けてもらわないと困るよな? 期限近いし』なんてアンナさんに難癖つけて、あわよくばデートの約束でもふっかけるつもりだったんじゃないですか」
「はあ!?」
ジルベルトの剣幕に怯むこと無く言い切った後、ファウストは「あ~そういえば、なんですけど」と言いながら足元に置いていた道具箱から数本の牙を取り出す。
「
立板に水の如く。
言われるがままだったジルベルトは、口をぱくぱくさせてから、ようやく「なんだとぉ!」と勢い込んでカウンターに両手を叩きつけた。
「そんなこと言って、最近じゃCランク以上の依頼ほとんど手つかずになってたじゃねえか! 俺が受けなきゃ誰が受けるんだよ!!」
どん、とファウストはカウンターに紙の束を置いた。
すべて依頼終了のスタンプ押印済みの書類。
邪気のない笑みをジルベルトに向けて、側壁を手で示す。通常、そこは依頼が貼り出されている掲示板を兼ねているが、この日はほとんど何も貼られていなかった。
「朝の貼り出し業務をさぼったわけじゃなくて、一時的に依頼のほぼすべてが
「……A……飛竜」
つばを飲み込んで、威勢を失ったジルベルトは黙り込む。そこに、笑顔でファウストがダメ押し。
「鱗の回収なので殺す必要もないですし、パーティーを組んでなくてもいけるんじゃないですか。飛竜、近くで見ると結構可愛いですよ?」
ガタッとジルベルトが席を立つ。
ファウストは落ち着き払った態度ながら、不意に不敵な笑みを閃かせてジルベルトに鋭い眼光を向けた。
「依頼、受けていかないんですか?」
「うるせえな!! さっきからぺらぺらと!! また来るよ、今日はもういい!!」
言うなり、ジルベルトは背を向けて戸口に向かい、さっさと出て行ってしまった。
「わ~……、すごい、仕事の話だけだった。私のときはかなり向こうのペースで、仕事の話なんか全然させてもらえないのに。やっぱり女じゃだめなのかなぁ……」
感心というよりは呆然とした様子でアンナが呟く。それを耳にして、ファウストは「いえいえ」と苦笑して言った。
「だめなのはさっきの奴の心構えであって、アンナさんをはじめとした受付の皆さんではないですよ。こうして少しずつ『わからせて』いるうちに、心ある冒険者が増えることを願います。ところで、受付として俺は今日初の新人でしたけど、仕事、こんな感じでどうですか?」
最後の問いかけは、興味津々にそばまで寄ってきていた猫耳眼鏡の先輩、ヘレナに向けて。
ファウストに微笑みかけられたヘレナは、なぜか頬を染めつつ「ご、合格!」と上ずった声で答えた。
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