第9話 ふたつの館跡

 6月13日はボクの首が鎌倉い届けられた日だそうです。

 ボクの首が流れ着いたと伝えられる場所に白旗神社があります。


 犬がくわえて行ったとか金色の亀が持って行ったとか、ちょっと神がかった感じで鎌倉から少し離れた場所に祀られているようです。


 そこで6月13日には鎮霊祭が行われているそうです。


 白旗神社ではボクが衣川で亡くなった命日の4月30日は特に何もしていなくて、鎌倉に首が届けられた6月13日が特別な日になっているようです。


 現代の感覚に慣れているボクにとって違和感を感じました。

 命日ではなく、鎌倉に首が届いた日が大事なんだと。 


 こんにちは。

 鎮められる霊として扱われている九郎義経です。


 おかげさまで怨霊にならずに元気です。

 たまに荒ぶりますが怖くないです。


 非力なかわいい一般人です。


 ようやく20話まで観終えました。

 20話のあのシーンは二度目なのに、また涙ぐんでしまいました。


 今回はドラマの内容は置いておきます。

 あのドラマは最後まで観ると、1分くらいで現在も行ける観光名所みたいな案内が出ます。


 わりと好きです。

 歴史というものが現在に続くものだということが実感できます。


 鎌倉殿で扱われている場所はボクも行ったことがあることが多いです。知ってる場所がテレビに出てくると「ここ行ったよ!」と言いたくなるのはどうしてでしょうね。


 20話は平泉が取り上げられていました。

 今も大好きな場所です。


 九郎ボクが終の棲家として選んだ場所です。ボロッボロになりながら、ようやく安住できたのが平泉しかありませんでした。


 当時の平泉の人からすれば「なんでお前が?」と言われてしまうのかもしれません。でも相変わらず人も土地も優しいです。


 平泉の駅に着いた瞬間、ふわ~っと暖かい気持ちに包まれて、

800年以上前に秀衡様に「お帰り」と言っていただいた時と同じような気持ちになります。忠衡くんも頼衡くんもありがとう。


 ボクがよく行くのは平泉駅の周辺。中尊寺の周辺です。

 毛越寺とか柳之御所とか高館義経堂には何度も行きました。


 高館から観える景色は田んぼがあって北上川が見えて山が連なって、特に大好きです。現在は道路が近くを通るようになり、けっこう騒がしくなっていましたけれど、それでもやっぱり好きな景色です。


 これを眺めて暮らせたらいいなあって。

 すぐに飽きるんですけどね。


 毎日ある景色って、そういう感じでいい気がします。

 緑が豊かで風がさやさやと葉を揺する感じとか。


 ここで穏やかな最後の時を過ごしたんだろうなって。

 それが、ボクにとっての高館です。


 中尊寺はいまだに秀衡様がいらっしゃって、平泉を守っているような感じがします。そういう気配を感じます。ドラマでも秀衡様がいらっしゃった感じ、すっごくよくわかります。


 現地に行くと、そういう雰囲気があります。


 たまに、旅に出て「何もない(面白くない)場所だった」と感想を言う方がいらっしゃいますが、そこの気配を読んでそれを偲ぶのがだいご味なのです。

 それを語りだすと止まらないのでやめときます。


 毛越寺も大好きです。お庭がいい。昔は泊まることができて、朝は座禅を組んだり観光客がいないお庭をお散歩できました。


 そして「死んだ場所っぽい」ところが出てました。

 義経の住居は衣川の北にあったらしいです。現在はその辺りに接待館という遺跡があるらしいです。


 ここは、行こうとしたことはありますが行けませんでした。

 おそらく、中尊寺(というよりも柳之御所)からそれほど離れていないはずです。


 でも平泉駅から行くと、観光用の地図がありませんでした。

 平泉なので、平泉町内の観光名所がメインに描かれています。


 それでもその平泉の地図の端っこギリギリに、衣川という文字があって、そこに行こうとしました。地図を片手に、自転車を借りて高館に寄って中尊寺に寄りました。


 それから衣川と書かれている場所に行こうとしていました。

 でも、ペダルが重いんです。こいでもこいでも進まないんです。


 平に見えるけど、地味に坂道だったのかもしれません。

 ホントにこいでもこいでも進まない。


 向かい風なのかとも思いましたが、それほど風は感じませんでした。

 それなのに、こいでもこいでも進まない。


 夢でも見ているかのようでした。

 足が思ったように動かない、あの感じが現実で起きました。


 さっきネットで住所を調べてアプリに入れて中尊寺からそれほど離れていないことを知って(チャリで6分くらい。思っていた以上に近かったです)、やや上り坂になっていることも確認できました(アプリは便利です)。


 それにしては、自転車が進みませんでした。

 自転車の後ろの二人乗りできる(してはいけませんが)ところに重い物が乗っているか、もしくはそこをぎゅう~っと後ろに引っ張られているかのような感じで進みません。


 チャリを止め、後ろを見ても何もいません。誰かが引っ張っていて、ボクが振り返ったからどこかに隠れたのかと思っても、周囲は田んぼで隠れる場所もなく、誰もいない道でした。


 歩行者はいなくて

 車も通りませんでした。


 昼間なのに

 太陽が陰りました。


 昼間なのに

 もやがかかったようで


 見えている景色が薄茶になり

 暗くなった気がしました。


 恐怖で進めなくなりました。


 ホントに怖かったです。

 その道を行くのはやめ、反対方向に進みました。


 そちらに進むと、楽に行けました。

 そっちは道が下っていたのかもしれません。


 向きを変えた途端、

雲の間から光が差し込んできました。


 でも油断はできません。

 それならと引き返せば、せっかく差し込んできた陽の光がまた遮られるでしょう。


 そっちに行くのは諦め、しばらく自転車をこいでいると、遺跡を発掘している場所に来ました。そこで発掘をしていた人に道を聞いたら、その方は衣川のガイドさんでした。


 ガイドさんも平泉のガイドさんと衣川のガイドさんで違うらしいです(今はどうだか知りませんが)。

「当時は衣川の方が平泉よりも栄えていて、こっちにあった寺の方が中尊寺よりも大きかった」そうです。発掘してそれらのことがわかってきたとのこと。


 ただ、鎌倉方が攻めてきた時に、大きかった衣川にあったお寺が廃れてしまったと聞きました。鎌倉方は、奥州藤原氏の痕跡をほとんどなくしてしまったそうです。


 奥州藤原氏に近かった人たちは、見つからないようにと名前を変えたらしいです。だから、生き残ったお姫様などもいたようですが、『藤原』とは名乗らなかったと聞きました。


 死んだ後のことだったので、ボクは知りませんでした。

 ……ごめんです。ボクの予測が間違っていました。


 泰衡くんは悪くないです。

 菅田くんも言ってたけど「ボクの首で平泉が助かるなら」って思っていました。


 それは置いときます。


 えっと、ボクが亡くなったのは、たぶん接待館遺跡の方向です。高館の辺りから移動して、そっちの方で亡くなったんじゃないのかな? 川を越えた覚えがあるので。水が流れている感じがする場所です。


 それで、ドラマの観光案内の映像の終わりに主な観光地への行き方があって、高館は平泉駅から徒歩20分と書いてありました。ボクも平泉駅から歩いて行ったことがあるので、それくらいだったと思います。


 でも接待館遺跡へ行くには、前沢駅で降りて徒歩1時間15分だそうです。前沢駅は平泉駅の隣の駅です。

 ……他に行き方はないわけ?


 たぶん、当時のボクは高館から接待館に向かって走って行ったと思います。

 アプリだと高館から接待館は2~3㎞くらいで徒歩でも30分程度で行けるみたいです。


 あの時、3㎞走ったのか……。

 大変だった……。


 平泉駅からなら、高館を通って中尊寺を通って接待館遺跡に行けると思います。現在のボクなら歩かずにレンタサイクルしますけど。


 でも今度、前沢駅に行ってみようかな。






 テレビの映像を観ていて思いましたが、この接待館遺跡、どうして遺跡として残っているのでしょうか。長者ヶ原廃寺跡とか接待館遺跡とかどうして『跡』なのでしょうか。


 ちゃんとした地図を持たずに行ったせいだとは思いますが、平泉から衣川方向に向かうと迷子になりました。空気がやや変わって、行こうと思っているところに行けなくなりました。


 ボクの勘違いかもしれません。

 でも、自転車が進まなかったのはどうしてなんでしょうね。


 理由はわかりませんが

 怖かったです。



 1時間15分歩くのは嫌だけど、接待館遺跡にボクが行くには前沢駅からでなければ行けないのかもしれません。


 たまたまそういう時空の時に行っちゃっただけかもしれないし、ただのボクの勘違いかもしれません。





 平泉はあんなに栄えていた場所だったのに

跡地がそのまま残っているなんて。


 人が集まる場所なら、遺跡の上に街ができるはずなんです。

 建物を建て替えて、人が住んでいるはずなんです。


 でも平泉にはそれがありません。

『夏草や兵どもが夢の跡』でした。


 さてさて、それはどうしてなのか。


 平泉は建物が立派で、とても豊な場所でした。

 人が多くて、栄えていて。品のある素敵な場所でした。


 でも、当時の雰囲気は、現在も残っているような……


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