ストレス社会の被害者の一人である『山並美冬』。友人から誘われた『ブラインド・デート』に気まぐれで参加すると、顔の良い青年『杉原尚史』と知り合う。しかしその出逢いをキッカケに、美冬の預かり知らぬ場所で謎の陰謀が張り巡らされ、そして美冬自身も危機に直面し、ついには死人まで出る事態に――。
社会人女性の恋愛モノやお仕事モノかと思いきや、かなりシリアスなテーマが内包された、非常に続きが気になるサスペンス作品でした。
しかし重苦しいシリアス一辺倒かと思いきやそうではなく、美冬の独白や杉原が時おり見せる『隙』、個性的な登場人物達のおかけで、読みにくさは特に感じませんでした。文章や作品全体の硬軟のバランスが、実に絶妙だったと思います。
ただ、物語が大きく動き始めるまでに20話近くを要しているので、人によっては「展開が遅い」と感じる可能性もあります。
もちろん最初から謎が解明されたり、イキナリ事件を起こすわけにもいきません。しかし物語全体としての方向性や目的が、序盤のうちは見えてこなかったのが難点かなと。
なので『組織』の実情や目的は明かせずとも、たとえば美冬の目的意識を冒頭からハッキリ示せば、「何か起こりそうで何も起きないな」という印象は薄れたかもしれません。
望まぬ異動で不満ばかりを抱えるのではなく、最初から「この部署で働きたかった」とか、あるいは「転職するため動いている」などという要素を前面に押し出せば、物語が大きく動き始まる前でも、より多くの読者を惹き付けられたんじゃないかなと感じました。
とはいえ『彼ら』の存在は当初から断片的に語られ、そもそも本当に『組織』なのか? 三つ巴の陰謀なのか? 美冬はこれからどうなってしまうのか? と、気になる部分ばかりなのは事実です。今後の展開に注目な作品だと思います。