クソビッチ先輩

ひなみ

渡瀬君の受難

「あれぇ、知らなかった? あたし、どっちもイケちゃうんだよぉ」


 なにこれ。新手の拷問? なぜそれを俺に言うの。もしかして前世で悪行三昧ざんまいでもしちゃってたのかな。だったら全力で土下座して謝るんで許してください。


 正面から迫ってきた逢沢遥あいざわはるかは上級生だ。日に焼けた肌、金髪、濃い目のメイク、派手なネイルをほどこしたいわゆるギャルと呼ばれる女子生徒。

 こういった人種に対して理解がないわけではないが、それでも免疫もないしできたら関わり合いにはなりたくないと思っていた。


 そんな彼女にはニックネームがある。

 クソビッチ先輩。

 何でも男であれば見境なく迫ってくるのだと噂で聞いている。

 正直それが事実かどうかはどうでもよく、ただただこの手の人を避けるようにしてきた。


 なのだが数日前から、どうも目に留まってしまったらしく毎日のように狙われている。

 そして今日も俺は追い詰められていた。もちろん物理的に。


「そんなの知らないですし、いらない情報なんで大丈夫です」

「えー、ひどい……。でも今日はどっちでイッたか知りたくない?」


 この場合の『どっち』は二種類あるのではないか。

 一つは性的指向としての、つまり男も女もイケちゃう二刀流。

 二つ目は前的なあれと……。ええい、なぜ真面目に考えているんだ。


「あたし、今日はパンパンでイッちゃった」

「いや、そんなの聞いてないですって。ていうかそれセクハラじゃないんですか?」

「うぅん? 渡瀬わたらせ君のボケはわかりづらいなぁ。そんなじゃ女の子にモテないよ~?」

「余計なお世話です。――先輩、あれ何でしょうね?」

 彼方かなたを指差して注意を逸らす作戦は成功だ。壁ドン状態から抜け出すと全力ダッシュで逃走を図る。


「渡瀬君、おっそ!」

 激しく息を切らせていたところに、悠々と追いついた彼女は陽気に笑った。

「俺に構ってくるのは一体何が目的なんですか……」

「えっ……と、うん。まあ日常会話みたいな? ていうかこのくらいは誰とでもヤッてるんだから勘違いしないでね!」

 Oh , shitマジかよ、さすがはクソビッチ。言う事すべてがハリウッドレベルを軽々と越えてきている。やっぱり俺の手に負える相手ではない。


「じゃあこれだけ教えてよ。渡瀬君は朝からどっちでイッちゃうタイプ?」

「朝からはいきませんって。先輩は本当どうかしてますよ」

「え、もしかしてヌキなの!?」

 このビッチはもう手遅れなのかもしれない。

 そういうしているうちに予鈴のチャイムが鳴る。


「ではそういう事で」


***


「渡瀬君、朝食はパンかごはんかくらい教えてくれてもいいのになぁ」

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クソビッチ先輩 ひなみ @hinami_yut

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