邪神と女神様と僕

マクスウェルの仔猫

第1話 邪神と女神様と僕

「宇佐、お主はかれこれ数時間、いつまでそうやってグダグダしておるのじゃ!」


 女神様が真っ赤な顔をして両手をブンブン振っている。

 そんな事言われても。


「だって、願いをひとつ叶えてくれるんですよね?だったら邪神討伐に必要な願いでもいいというなら今使うか悩むじゃないですか。うーん…でもでも日本に戻った後にお金持ちとかいうのもありきたりだけど捨てがたいなぁ」


 あ、邪神を倒したはいいけど瀕死とか相討ちとかもダメだよね。危ない危ない。


「あとこの剣、日本の刀みたいなデザインにならないですか?女神様のお力で…鬼丸国綱!鬼丸国綱お願いします!」


 僕の要望を聞いた女神様は、絶句した後にヘナヘナと膝をついた。


「剣の見栄えはどうでもいいじゃろうが!…今度こそ、と吟味に吟味を重ねて呼び出したというに…召喚とは癖のあるやつしか呼べんのか?!」


 失敬な。…そうだ!


「刀は小烏丸を第二候補にしてもらってもいいですか!」


 あれ、聞いてないよ女神様。



「う…ぐすっ。1000年前に呼び出した者は、『我はそんな不可思議な刀など要らぬ!信ずる物は、我が剣とこの鍛え上げた肉体のみ!』とか言って、とか言って敗れよるし、3000年前は『武器は懲り懲りである。男なら、拳で分かり合おうぞ!』と酔いしれて出てったはいいが、邪神の眷族に付き従う魔物の群れの子に踏まれて出落ち」


 女神様は、耐えきれない!という風に涙をポロリと。


「えっぐ…神器を託せる人の子達はもういない。これで最後と祈りを込めて呼んだ者はコレ。前の女神様が力尽きて、女神に選ばれてからずっとずっと頑張ってきたけど、何処かの世界からやってきた邪神の因子は取り除けないどころか神属はいつしか私ひとり。世界は崩壊寸前。もう無理…無理ぃ。う、わあああああぁん」


 あ、うん。状況がすっごく、今わかりました。


 そして女神様の口調も途中から変わって、今は子供の様に泣いている。

 見た目は中学生位の女の子を泣かしてる罪悪感がハンパない。どうしよう。


 でも女神様、頑張ってきたんだね、ひとりで。


 畏れ多いが、泣く子供をあやす様にそっと頭を撫でてみる。


「ひぅ?!」


 二人して一瞬固まったが、避けたり動いたりしないので、そのまま、ゆっくりと撫で続けた。撫で撫で。


 泣き止んできたかな?と、手を止めるとまた泣き声が大きくなるので、女神様が落ち着くまで気持ちを込めて頭を撫でていた。


 ●


「えっぐ…すん」

「ほら、鼻かんで。ちーん」

「こ、子供じゃないもん!…ちーん」


 いや、女神様。口調まで変わって、子供と一緒だからね?スーパーで買った箱ティッシュが大活躍だ。


 誰が買い物帰りに召喚されるとか想像するか。

 お母さん、ナイス買い物指示。あと4箱あるからって…そっか。ごめん、ティシュは持って帰れないかも、だね。


 ほっとけないじゃん?


 僕は、女神様に告げた。


「え?」

「邪神、この武器があれば倒せるんでしょ?武神の因子を持つ人間が使えば」


 まさか、そのせいで格闘技見たり、戦国時代が好きだったりする訳じゃないよね僕。


 あれ?女神様なんでまた泣きそうなの?

 情が湧いた感じ?

 でも、倒さないとこの世界からいつか君は泣くことさえできずに消えちゃうんでしょ?


「もしダメだったら、お供物は吉祥寺名物の羊羹でおねがいします。始発じゃないと売り切れるよ?ちなみに食べ物です!」

「…ばか。…その剣、邪神の活動を止めるギリギリしか神気を込めてないの。全てを割り振ると世界の回復ができないから…」


 それは、キツイね。

 倒す前提じゃないんだ。封印?


「剣、貸して。神気もっと込めるから」

「どうやって?」

「勝てないなら、頭を撫でてくれた宇佐と一緒がいい…。私の生命力を代用にし(ビシッ!!)いったーい!!!すっごく痛い!なんでぇ?!」


 デコピンの刑だ。当たり前でしょ。


「今、スッゴい勇気出して言ったのにぃ!!」


 女神様はチョロインと判明しました。

 そんなラノベ展開…ん?


 オデコを押さえて涙目になっている女神様を見つつ、何かいいアイデアはないかと考える。主に、マンガ、アニメ、ラノベで。


 神気(エネルギー/魔力)タリナイ…オレ…ホジュウシタイ…イッパイツカイタイ…剣にある神気でダメージを与えつつ…相手の攻撃を避けて、受けて…受けて?


 あ。


 ●


「ぬわー!!」


 こんな大声を出すのは先月のカラオケ以来かもしれない。

 しかも、出しっぱなしである。

 ガラガラ声になるのは確定だ。


 僕は邪神と、その眷族の攻撃を食らいつつ、滅多やたらに両手に持った刀を振り回している。

 周りは敵しかいないのだから、楽である。


 刀(女神様がスマホの画像とにらめっこして、頑張って剣を鬼丸国綱と小烏丸風に変えてくれた)から状態でスタートしたから初めは大変だった。


 だが今は、眷族を倒す度に聞こえていたレベルアップのお知らせも、今は全く聞こえなくなっている。

 いいね!最高〜レベルアップ!


 ありがちな召喚ボーナスは、即死回避と自動回復をつけてもらった。


(最初は『宇佐、レベルアップしました』だったが、すぐに『宇佐、う、宇佐レ、ううう、宇佐宇佐』とかラップ調になっていたのが面白かった)


 レベルアップでのスキル割り振りは見ている暇がないので、女神様にお任せしている。痛いの飛んでけ〜は先に選んでね!と言っといて良かった。


 グオオ!


 咆哮と共に、衝撃がきた。

 来たーラスボス!

 ビルぐらいデカい三つ首の狼、こっわ!

 でもめっちゃ神気貯まった!邪神様ごちそうさまです!


 あるマンガにあった「循環」を参考にして、

 僕は二刀を手にしている。


 右手の鬼丸国綱レプリカ。

 小刀から変換された神気を攻撃力として放出する。


 左手の小烏丸レプリカ。

 これがヤバい。


 大刀で放出した神気、与えたダメージ、相手の攻撃によるダメージ、衝撃、魔力などを全て神気として変換吸収、大刀への補充、防御。


 神様謹製なので、耐久力は折り紙付きである。

 …フラグじゃない事を祈ろう。


 眷族は全て倒した。

 目の前には邪神。

 封印が第一目標で、次点が撃破。

 レベルアップと転生ボーナスのおかげで、身体は絶好調。刀のおかげで、心も絶好調、ウッキウキ!

 気分は剣聖…!


 ガアアアアッ!

 邪神が一際大きな咆哮を上げた。

 めちゃめちゃ怒ってる?

 そりゃ、あれだけいた眷族がもういないし、僕はピンピンしてるしね。


 でも、君も同じ事してきたんだよね?


 僕もし、この事もキチンと背負うから。ん?そうだったって何だろ?ダメダメ、集中集中。


 まずは、神気を少し多めに大刀に込めて、小手調べついでに牽制と削りかな。


「喰らえ!光を纏…ゲフンゲフン、もとい!うりゃー!」


 雰囲気で構えた香ばしい構えと叫びそうになったナニカを必死に堪え、しっかりと刀を振る。


 いつの間にか出ていた、飛ぶ斬撃だ。

 おおー!でっかい斬撃飛んでったー!


 いいねいいね行け行(ギャァァァ…!!!)…うっそ!

 邪神真っ二つだよ!


 …死んだふりかもしれない。

 いや、復活変形もあるな。間違いないね。

 テクテクテクテク。つんつん。

 つんつ『"邪神の天敵" "邪神喰らい"の称号を宇佐が獲得しました』…、左様ですかそうですか。

 人聞き悪っ。


 ●


「宇佐、宇佐!」


 神界に戻ってきた僕は、女神様に両腕でガッチリと上着の裾を掴まれた。伸びる伸びるー。


 僕も期待に答えられて嬉しいので、笑顔で応える。


「女神様、邪神はこれでしばらく復活しない感じ?」

「…エレナ」


 ん?邪神ってエレナって名前だったの?


「…」

「女神様?」

「…」


 ま、まさか?


「エレナ様?」

「…」

「…エレナ」

「もう邪神は復活しないの!宇佐、宇佐、宇佐!ありがとう!」


 いえいえ、こちらこそテンプレありがとうございます。


 ちょっろ。まぁ、それはさておいて。


「この世界は、これからどうなっていくの?」

「神器から抜いた分と、私に残った力で再生していけば、邪神はもういないし、もちろん時間はかかるだろうけど…きっといつかまた豊かな世界になっていくと思う、じゃなくてしてみせる!」


 エレナの、花が咲いたような笑顔が眩しい。良かった。

 と、突如エレナの雰囲気が変わった。


「宇佐。この世界を司る女神として、心から貴方に感謝を。道半ばで倒れ伏した命、また懸命に生きとし生ける命を代表して、貴方に捧げます。ありがとう…!」


 言葉の代わりに、頭を下げる。

 結果として役に立てて良かったけど、僕じゃなくてもできたと思うから。

 頭を上げて、ただ笑った。


 そして、エレナの雰囲気が、また変わった。


「宇佐、あの…あのね。私、宇佐を元の世界に返してもホントはまた会いたい。一緒にいたい。頭を撫でてもらいたいの。でも…」


 エレナはそこで言葉を区切り、今にも涙を零しそうだ。

 僕もこの頑張り屋さんで泣き虫の女神様、エレナとは二度と会えないんだな、と感傷的になる。


 異世界の女神様と、人間だもんね。寿命もそうだし、何もかも違う存在だ。


「宇佐を送り返した後に、世界の回復に力を充てたら、再び召喚する為の神気は1000年…数百年は…。宇佐、宇佐、宇佐…!お別れしたくないよ」


 泣きながらしがみついてきたエレナの頭を、そっと撫でる。


 召喚するくらいなら、世界の回復に充ててほしい。

 そうじゃないと、邪神を倒したという結果が無駄になる。


 エレナもそれはわかっているのだろう。

 神気だって、スマホを充電するみたいにすぐに貯まる訳じゃないよね。


 ん?

 神気?神器?


 僕は、ちょいちょいと、エレナの頬をつつく。

 顔を上げたエレナは、僕を見て顔を赤くした後、フルフルと涙に濡れた瞼を落とし、顎を上げた。


 いやいや、違うから!


「神気、要りますか?」

「え?」


 僕は、腰にある二刀を交互に抜き取り、差し出した。

 後から聞いたら、この世界を何回か再生してもお釣りが来るレベルの神気があったらしい。


 忘れてたんだよ、いたたたー。暴力ハンターイ。

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