28.その後


 初の最期を目の当たりした者はみなしゅんとしていた。

 静かに涙を流す者もいた。

 ……救国の英雄が、ちっぽけで勇敢な娘が、死んでしまった。

 マガ神様は鎮まった、と今際の際に言い残して。

 ……それで、本当にマガ神様は去ったのだろうか?

 彼女を疑いたくはないが、確証が持てない。

 答えが分からずもやもやしたまま、一行は厳かに初を抱えて、悲壮な気持ちで新留村の墓地へと赴いた。

 それぞれがお金を出し合って、簡素なお葬式を出した。この子には身寄りがないのは分かりきっていることだったからだ。

 血液が全て抜かれて、しわしわのからからになった初の体は、火葬にされ、お骨は新留村の墓地に埋葬された。

 一行は初の冥福を一生懸命に祈ってから、名残惜しくも各々の町に帰った。

 翌日。気持ちのいい晴れた朝が来る。人々は朝刊を手に取った。

 怪死事件の報道は、載っていなかった。

 やった、と喜ぶ者もあれば、良かった、と安堵する者もあった。

 マガ神様は本当に鎮まったのだ。

 朝刊の記事には、新留村でお祭りを見てきた新聞記者による記事が、大きく掲載されていた。

 名も知れない少女が、自分を身代わりにして、マガ神様を鎮めたという。

 この話は英雄譚として語り継がれ、新留村には少女の銅像が建てられた。それは、歪んだ手足と病変した顔を持ちながらも、凛々しく手を差し伸べて踊りを導く姿をかたどったものだった。

 その後もずうっと、花咲國で奇怪な殺人事件が起こることはなくなった。本当に綺麗さっぱりなくなった。人為的なものを除けば、怪死事件はぱたりと止んだ。

 その上、花咲國は、豊作の年が多くなった。米も小麦も綿花もよく採れた。あんまり多く採れるので、輸出が捗った。人口も増えた。工業力も大幅に上がった。まさしくいいことづくめである。

 新留村の復興は、少しずつ進んだ。住人がほとんど亡くなったので、最初は不吉な村として忌避されてきたが、やがては新しい住人たちが移住してきた。

 越してきた人々は、古くからのわずかな住人から、笛や踊りを教わって、毎月朔日に盛大にお祭りを開いた。

 祭壇は再建され、いっそう豪華な仕様になった。毎月出店が立ち並び、飴や饅頭やおもちゃや軽食などが売られるようになった。村は村人や観光客でわいわいと賑わい、活気のある場所となった。

 そしてやっぱり、一番盛り上がるのは、笛と踊りだった。

 こうしていつしか新留村のお祭りは、花咲國を代表する行事となっていた。


 もちろん、亡くなった多くの人の死が忘れられることはなかった。前皇帝が戦車を派遣した日、すなわち新留村が壊滅状態に陥った日には、国中で黙祷が行われた。

 それは国家による殺人と、神による殺人の、双方の犠牲者への追悼だった。

 そして国内の平和への祈願でもあった。


 お陰様で、花咲國は今もまあまあ平穏である。

 よいことだ。


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