花咲國の禍事

白里りこ

第1章 風習

1.神と人と


 むかしむかし、花咲國はなさかこく新留村にいとめむらで。

 人が怪死する事件が後を絶たなかった。

 死体は必ず、人の形を保っていない状態で発見される。

 水に沈んで、ぶくぶくと歪に膨れた状態だったり。

 頭が上から強い力で踏み潰されたかのように、骨がバキバキに折れて、全身が奇妙に縮んでいたり。

 あらゆる関節があり得ない方向に曲がっていて、顔が真後ろを向いていたり。

 内臓が内側から爆発したかのように腹に穴が空き、全身の皮膚がべろべろに剥がれていたり。

 訪れた祈祷師は、これはマガ神様の祟りだと言った。

 最初の怪死事件は人がやったものだ。そのせいで神がお怒りになった。マガ神様がお目覚めになってしまった。

 最初の事件の犯人は既にマガ神様に殺された。だがマガ神様の災いが止まることはないだろう。

 マガ神様を追い払い、人々を守るニギ神様を呼び戻すには、特別な儀式が必要だ。

 絶えず、笛の音と舞いを捧げる必要がある。

 こうして新留村には、毎月お祭りが開催されるという風習ができた。

 それからは怪死事件はぴたりとやみ、村はニギ神様のお恵みを受けて、実り豊かな土地になっていった。

 むかしむかしの話。

 時は過ぎる。

 それでも風習は廃れることなく続いている。

 ニギ神様に留まってもらえるように。

 マガ神様を呼び出さないように。


 ……そうしてきたのに。

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