ようするに、UBW。

人間 越

ようするに、UBW。

「○○と××が出来る、っていうことにはそこはかとないロマンがあるよな」


 とある高校のとある教室の片隅にて。

 得二夜次楼えにやじろうは唐突にそんなことを言った。


「ああ、二刀――っなんだよ」


 相槌を打ったのは友人の入鹿名須いるがめいすだった。

 と言っても、言いかけた相槌は得二夜がすっと片腕を掴んだことで途切れたのだが。


「投手も出来て、打者も出来る」

「おお、野球だな。すげえよな、二と――なんだよ、さっきから」

「文章も書けるし、イラストも描ける」

「ああ、いるな。ラノベの作家さんとかに。まさに二t――優しく触んなっ」

「頭もいいし、スポーツも出来る」

「お、おう。身近だけどそれもだな。文武両、道ってやつだな」

「そうそう。すげえよな」

「文武両道はいいのか。基準が分からん」


 どうやらとある言葉は言っちゃいけないらしい。

 入鹿はそんな了解を感じ取った。


「けれども世の中にはもっとすごい奴がいるわけなんだよ。天は二物をとか言うけど、何物も貰ってるやつが」

「ああ、まあその分、一物も貰えない俺たちみたいなのがいるからな」


 得二夜の言葉尻に僻みのようなもの感じ、入鹿は卑屈な同調を見せる。


「ふんっ。俺たちとは片腹痛いねぇ。授かりし才能なんてきっかけ。世の中で認められる才能なんてのは地道な努力や継続の賜物なんだ。不公平に感じるのはお門違い。その魂胆から直しな」


 しかし返って来た言葉では入鹿が糾弾されてしまった。


「盛大に梯子を外された気分だよ」

「出たな、被害者意識」

「引っ張り出されんだよ。お前の仕掛けた言葉のトラップにな」

「何が言いたい?」

「こっちのセリフだよ。でなんだよ。二刀り――触んなっ! このノリもなんだよ。言わせないやつ」

「黙秘権を行使する」

「認める」

「ありがとう」

「で、じゃあ何が言いたいんだよ。世の中にはすげえ奴がいるなってだけの話か?」


 入鹿がそう聞くと得二夜は両掌を翳し、もったいぶって見せる。


「まさか、まさか。俺は超越したいんだよ」

「……何を」

「それは言えない。けど察して。お前なら出来るはずだ」

「分かったよ」

「正確に言えば、超越した存在を作りたいんだよ」

「お、おう」

「というか、俺がこれからいう存在は何なのか知りたい」

「ちょっと前提の把握を委ねたまま走り出さないでくれるか?」

「ああ、ごめん。ちょっと熱くなった」

「どこにスイッチがあるのか教えて? 制御するから」

「これから名がつくと思うと、こう、湧き上がってくるものが抑えられなくて」

「何がお前をそこまでさせるの……?」

「ああ、こう。ぐおおおって」

「おっけ。先に進もうか」


 得二夜の謎の熱量に気圧され、入鹿は先を急ぐことにした。


「例えば、高校生で小説家だとするだろ?」

「ああ、それはアレだな」

「これでイラストまで書けるとする。そしたら一本合わさって」

「三刀流、だな?」

「そう。だけれども、この人がイラストは描けないけど、小説で瑞々しい恋愛が書ける恋愛作家であり、一方で重厚な世界観のファンタジーも描けるファンタジー作家だとすると……」

「高校生と小説のアレで……三刀流?」

「なのかなあ?」


 歯切れ悪く言った入鹿と同じく、いやそれ以上に仮定を出した得二夜の方が歯切れの悪い顔だった。


「じゃあ、高校生×小説×イラストと高校生×恋愛小説×ファンタジー小説は同格ってことか?」

「……違うな」


 得二夜の上げた式には否を唱える。


「で、ちなみにその恋愛小説の主人公が男も女も恋愛対象として見れるバイだとしたら……」

「高校生×恋愛小説×ヘテロセクシャル×ホモセクシャル×ファンタジー小説……五刀流、だと?」

「しかもファンタジー小説の方も……」

「いやそれ以上は止めておこう。そっちの刀数増やしてもどうにもならん気がする」

「じゃあ、無視か? ストレートな思考回路ガバガバなガキというか、人ではない『キャラ』たちによる脳みそお花畑なラブコメ作家もそういう両性者の葛藤や愛の尊さを描く恋愛作家も等しい、と?」

「そうは言わんけど、え、ラブコメ作家に親でも殺された?」

「仮に、の話だよ」

「仮定にしては前者を貶める熱量がえげつなかったけど」

「それじゃあ、そこそこのラインを増やした方がいいのか。その一刀を鍛え上げるよりも」


「……うーん、違うんじゃね?」

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