第6話 出願
出願の締め切りまであと数日。親との議論がどうであれ、出願はしなければならない。今以上に時間を費やしても、恐らく状況は好転しないと予想された。また、もし締め切りに遅れれば、その時点で脱落。しかし好転しないからといって母親に何も言わずに出したらどうなるか。その場合の被害がどのようになるかは想定できなかった。甚大であるということだけは予測できた。もし限界まで待って決着がつかなければ、自分の志望校に出す。それまでは出願は待つ。そう決定した。
やがて期限が来た。状況には何の進展も無い。風呂から出て、事前に決めていた通り、志願票に記入をしようとした。すると、募集要項が見当たらないことに気付いた。先程までは机にあったことを確認している。
状況から推測すると、母親が何らかの事情を知っている可能性が高い。そこで母親に尋ねた。知らない、という簡素な返事が返ってきた。暁夫は家のあらゆる所を探した。だが見つからない。母親の仕事のスペエスも、了承を得て探した。ここも見つからなかった。
志願票は、明日の、遅くとも昼までには出願しなければ間に合わない可能性がある。もし見つからなかった場合にはどうするか。そのことを考えなければならない。今から書類を取り寄せても間に合わないことは確実だった。知人に余りをもらえないか、とも考えた。しかし、知人の中で彼の志望する大学の募集要項を持つ可能性のある者はいなかったはずだ。
そこまで考えた時、母親の声がした。東工大ならある、と言ったのである。東工大だけは予備を入手していたのだという。
この時点で、暁夫が取れる行動は二つあった。一つは、後期は出さないというもの。もう一つは、東工大に出すというものだった。母親の意に添わなくて済むという点で言えば前者の方に考慮の余地があった。しかし進路とは感情でなく論理で処理するものだ。彼はそう考えていた。前者を選べば、玄大に落ちた場合、受け皿はない。では後者はどうか。母親の謀略に従うということが誠に不本意ではあるが、もし玄大に落ちた時のことを考慮すれば、――例え殆ど不可能ではあるにしても――東工大に受かる可能性のある、後者の方がましな選択であろう。彼はそう判断した。
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