第778話
どうも、最初にやるべきことを終えてしまって、正直どのタイミングでライブを始めようか悩んでいるアマネです。
いや、なんかこう、さ。あっという間に乱戦になって押し込んでるから、私が歌って横槍になっちゃマズイよな〜……って。
「ところで、プレイヤー生き残ってる?」
「もう大半は死んでるね。多分、生きてるのってここに残ってる私達くらいじゃない?」
意気揚々と突撃していったプレイヤーの大半は、あっという間に乱戦に巻き込まれて全滅し、残っているのは後衛や支援系のプレイヤーばかり。
それに関しても流れ弾を受けて散っているらしく、他の兵士達や英霊と比べて戦死するスピードが半端ないようだ。
まぁ、レベル不足だし装備品も質は兎も角性能が足りていない。そもそも、魔王軍との戦争なんて普通だったら物語終盤で起きるような出来事だ。
そんな状態でまだまだ実力不足のプレイヤーが参戦したところで、プレイヤーに関してはほぼ負けイベントと同義。
ただ、それでもお祭り騒ぎという意味では結構楽しんでいた……というか現在進行形で楽しんでいるらしく、掲示板はかなり盛り上がっているそうだ。
「というか、掲示板の書き込みなんてよく覗けたね? こういうのって、普通は終わるまで見れないものなんじゃないの?」
「ん。データ組にこっそり頼んで見れるようにしてもらった。観戦組は向こうの軍の人と一緒にお祭り状態だってさ」
どうやら、討ち取った魔王軍と討ち取られたプレイヤーや自軍の兵士達と共に、戦場で武勇を知らしめている英雄や英霊を観て楽しんでいるらしい。
この戦場だとそれなりに名の知れた武将や騎士などもうっかり討たれたりしているそうで、偶にそういった有名な人が来ると物凄くざわつくそうだ。
「ホント、何処ぞのソシャゲに引けを取らない豪華さよね。仮にこれが無双系だとしても、操作できるキャラが多過ぎて叩かれそうなくらいよ」
モンスターや兵士達や魔王軍が、派手な攻撃を食らったのか物凄い勢いで空に散らばる。爆発音も聞こえるし、一部の魔法使いが見境無しになってるのも遠目からだが見えている。
そして、その魔法使い達もまた、戦場を縦横無尽に駆け回る自軍の英霊達に襲われて数を減らしていることも。
「流石は歴戦の武士、って言うべきかな」
「俵藤太や那須与一がいるんだから流石も何も無いでしょうに……」
まぁ、ヒビキの言う事にも一理ある。流石も何も、彼らはそれが本職なのだから出来て当然な部分も過分に含んでいる。
帝国との戦争の時には海戦で、船の上にいる帝国兵を片端から射抜き、更には空を飛んでいる天使さえ撃ち落としていたと聞いているしね。
小次郎こと平将門も、槍や刀を振り回すと周りの魔王軍の体が次々とバラバラに斬り裂かれていくし、酒呑や大嶽丸に関しては一太刀で五人以上の魔王軍を両断してしまっている。
そしてそれと似たようなことを武士や武将達は容易に行っているのだから、スメラミコトの武士ってホントに強いよねぇ。
「あ、不死隊が突撃した。ヒュダルネスさんも結構無茶するなぁ……」
「でも、腕前は流石の一言よね。あっという間に後衛の魔法使い達に食い込んでいるわ」
黄銅や木の兜に、尖った帽子にヒョウやライオンの毛皮など、統一性の無い彼らは淡々と前に突き進み、魔王軍の兵士を槍で突き倒しながらどんどん奥深くへと突き進んでいく。
多分、魔王軍側から見たら無表情の兵士達が大勢突撃してきているようになっているのだろう。弓持ちは弓で援護しているし、魔王軍の……鬼人が多いから多分悪鬼軍が物凄い勢いで突き崩されていく姿が見える。
不死隊を率いるのはヒュダルネスという将軍で、オンオフの切り替えがしっかりしている人だった。
普段は慶次達と遊んだり酒を飲んだりするのも好いている人だが、こういった戦場となると一転して眼光鋭い将軍となり、数多の兵士を率いる剛の者に転じるのだ。
「死霊軍は同じアンデッド系の子達が頑張ってるみたいだねぇ」
「アーヴェインが鍛えた兵士達だもの。尤も、当の本人は彼処で楽しそうに剣を振るっているみたいだけど」
死霊軍のアンデッドとは、主にアーヴェインが率いるアンデッド軍が正面切って戦っている。
ヘルのところのノーライフキングも混じっているようだが、アーヴェインの威風の方が強いのか彼も含めてあっという間に麾下に加わっていた。
そんな彼らの王となっているアーヴェインだが、実は今凄い激闘を繰り広げている。
「死霊軍の将軍、って感じかな?」
「そうね。わざわざアンデッドの竜まで出してきてるんだから、将軍クラスじゃないと出来ないでしょ」
アーヴェインが戦っているのは、巨大な大鎌を構えたローブを纏うスケルトン。この場合ならリッチ、というべきだろうか。
ローブの下には金属鎧を身に着けているらしく、アーヴェインの鎧と相まって術者ではなく戦士として、杖にもなる大鎌を振り回していた。
そして、そんな彼が乗っていたアンデッドの竜。言うなればキングドラゴンゾンビ、みたいな名前が付きそうなドラゴンのアンデッドは、アーヴェインのスカルデストロイヤーと噛みつき噛みつかれの激闘を繰り広げている。
最初の激突の際に大きく押し飛ばしたことで周りへの被害は最初と比べて減っているが、時折地面を叩いたり弾いたりして、流れ弾が死霊軍の兵士達を木っ端微塵に吹き飛ばしている。
「向こうは怪獣大決戦。こっちは巨人達の戦い。ホントにカオスになってきたわねぇ……」
「ヒビキ。ゴリアテの中にいるからカオスって単語出すと若干ややこしくなりそう」
「あぁ……それはまぁ、そうね」
死霊軍の方ではそのような戦いになっているが、悪鬼軍では色黒の巨人達とこちらの巨人達とで、周りへの被害は完全に度外視した激戦が繰り広げられている。
スルトやユミル、リトーなど、巨人の猛者は一騎当千の働きで魔王軍の巨人達を薙ぎ倒していて、形勢はこちらが優位。
ただ、それ以上に元気になったアベルとカインの戦いが兎に角派手だ。
障壁を踏み台にして、空を蹴りながら魔王軍の巨人達に躍りかかるアベルとカイン。一度近くに寄れば、後は殴る蹴るの暴力の後に投げ飛ばして、また次の巨人に襲い掛かる。
その身体能力は凄まじいの一言で、比較的重装備の巨人達はまともに捉えることも出来ずに掴まれて、そのまま武器として投げられて倒れていく。
今も、背後から迫っていた巨人にアベルが回し蹴りを叩き込み、カインは腕を掴んで背負い投げ、巨人を叩き潰す鈍器にしてしまっている。
「空は空で凄いしなぁ……」
「本場の悪魔が大暴れしてるものね」
荒れまくっているのは地上だけではなく、その上空もとんでもない戦いが繰り広げられていた。
というのも、どうやら魔王軍の中の悪魔軍は飛行可能な者が多いようで、空戦に関してはその悪魔軍が主力になっているようなのだ。
そして悪魔軍を名乗る以上、何処ぞの馬の骨とも分からないとソロモン王に付き従う悪魔達がかなり血気盛んになっている。
その結果どうなっているのかと言えば、サタンを筆頭とした荒くれ者の悪魔達による蹂躙劇が始まっており、魔王軍の竜騎士も含めてとんでもない量の魔法や物理攻撃が彼らの命を刈り取っていた。
しかも、その中ではグレガリオことアバドンも密かに活動しているらしく、ちょくちょく首を斬られる等して突然死する竜騎士が散見された。
「グレガリオ……今はアバドンか。アバドンもすっごく強くなったよねぇ……」
「今までも相当だったのに、更に強くなるとかホントにヤバい堕天使よね。というか、何で死の神と融合して武装に変化させるなんて発想になったのか聞きたいくらいだわ」
アバドンは戦争の時にチェルノボグと融合して、ゼウスに強力な一発を打ち込んだ大戦果を挙げていた。
その後、重傷こそ負ったもののチェルノボグが盾となったことでどうにか生存。聖教国でひっそりと合流するまでに、チェルノボグとの融合状態を安定させる修行も行っていたらしい。
結果、今のアバドンの姿は純黒の甲殻鎧に金の双瞳という最終形態に変化した。尚、主武装に大小様々な串や杭が追加されたそうだ。
その串や杭は基本的に投擲用で、刺さるとその傷から蝕むように対象の体が崩壊し息絶えるという、ハッキリ言って物騒の塊みたいな武器だ。
ちなみに崩壊すると痕跡が残らないので、暗殺に使えば行方不明者の多発不可避の危険な武器でもある。
「……どのタイミングでライブするのかしら?」
「ユーリ達のアップが終わってからだね。ガイスターでもいいけど、それだと皆の練習にならないし」
ライブの奏者はユーリ達が志願した。流石に魔王軍相手にどうこうできるとは思っておらず、突っ込んでも死ぬだけだと判断した上でそれを私に言ってきたのだ。
まぁ、私としてもユーリ達の腕を見てみたいって部分もあるし、いざとなればヒビキにもフォローを入れてもらうつもりだから、なにかあっても多分問題は無いだろう。
――――唯一あるとすれば、ライブより先に終戦に至るんじゃないかってところかな?
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