第672話
新館を出て城壁の方へ歩くと、途中で物凄い炸裂音と男連中の喝采が聞こえてくる。多分、まだ哀れなカカシがその身を爆散させているのだろう。
旧館の中を通り、恋華が欠かさず世話をしている花々が綺麗に咲き乱れる庭から入口の方へ進むと、ここにも微妙な改築が行われていることに気付く。
「ねぇ、もしかして向こうの端の扉って、森に繋がってる感じ?」
「そうだよ! 森側は城壁を伸ばさなくてもモンスター達が彷徨いてるから、防衛面の問題は無いしね!」
城壁が伸びているのは西側の森の端っこから東側の山の斜面辺りまでで、森を抜ければ本丸までの防備は旧館の庭に繋がる木の扉のみとなる。
知らない人が見たら不用心だと言われそうだが、恐竜やら猛獣やら魔獣やらが彷徨く西の森の中を抜けられるプレイヤーがいるなら、逆に見てみたい気しかしてこない。
特に今は山に造成した巨大な湖のお陰で、水量が増えた森の中の川や池でも水棲系の子達が活発に活動出来るようになったのだ。森の植物の一部もモンスターだし、突撃したらそのまま森の中で誰も彼もモンスター達のご飯にされて終わるだけだ。
「それにしても、二つも作ったんだね……」
「凄いよね。信長さんが言うには、後ろの壁には弓兵を並べて、前の壁には鉄砲隊を構えさせるんだって」
クランホームを囲む城壁は二つあって、第一城壁が主な戦場になるように作られている。第二城壁も勿論城壁として機能するが、そもそもそこまで抜けられる気がしない。
ここを守る城壁は正面方向に向かって狭間が設けられており、そこからは火縄銃による射撃も可能。櫓や城壁上には防衛用のバリスタや大砲も設置してあって、更には弓兵を並べて射撃も出来る。
特にこの拠点は山側から麓に向かって風が吹いているので、矢の射程距離はかなり伸びているそうだ。何なら城壁裏に並んで山なりに射つだけでも、広い平原を矢だらけにすることも可能。
更に第一城壁の門は上に楼閣があり、第二城壁には櫓門。長方形の枡形は開けていて、内側に入り込まれたとしても殲滅できるキルゾーンとなっている。
特に櫓門へ向かうには一度奥まで突き進み、そこから左右の石製タイルが敷き詰められた斜面を駆け上がって、それからまた奥の櫓門へ駆け抜ける……そんな面倒臭い構造になっているのだ。
破城鎚を使おうにも櫓門の前までの道がそのような構造なので、運び込んだ破城鎚が逆に兵士の進む道を塞ぐ障害物にもなる。
何よりヤバいのは、枡形虎口と呼ばれているだけあって側面から矢弾による射撃も襲い掛かってくるし、第二城壁の裏側にも似たような構造の虎口が設けられているのだ。入り込んだらまず生きては帰れないこと間違いなしだろう。
「
「効果強いからさ。しかも、拠点にいると範囲めちゃくちゃ広がるみたいなんだよね」
城壁裏の
拠点から少し離れた場所で検証したところ、クランホームの範囲から少なくとも隣のエリアの境目まで広がっていると確認出来たらしい。
「え、それはヤバくない?」
「かなりヤバいけど、イベントの時はそこまで広くはならないと思う。攻めてくる人達は範囲に収められるくらいにはなるだろうけどね」
まぁ、味方になることを想定されていないモンスターも多そうだし、強過ぎる子もめちゃくちゃ多いんだろう。特にアイドル系の子達は数がどんどん増えているからね。
『おや、アマネ殿! 皆のお陰で、実に堅牢な城壁が完成しましたぞ!』
『高虎が拘りに拘り抜いて作ったからな。俺達が攻め手だったとしても簡単に抜けないように、何度も何度も試験をしたぞ』
「高虎さん、清正さん、お疲れ様です!」
城壁作りを楽しんでいた藤堂高虎と加藤清正の二人も、態々この城を作るために大勢の武将に攻め手を頼んでいたらしい。
人手もあるし材料もそういった試験が出来るくらいの余裕があった。だからこそ、ここまでの侵入者絶対滅すべしな城壁が完成しているのだ。
「因みに突破出来た人はいたんですか?」
『島津のバケモン共は第二城壁の虎口まで越えてきたな。というか、島津家を筆頭とした鷹羽周辺の武家連中はかなり突破出来てたぞ』
「……それは、何とも評価し難いですね」
島津家の人達、暇な時は森の中でモンスター相手に刀一本で殺し合いしたりするからなぁ。しかも、一対多数を希望するくらいだし。
流石に大半のボスクラスの子達は勝てるみたいだけど、相性やレベル次第で負ける子もいるみたいだから、ホントにバーサーカーが多過ぎるよね。
『因みにだが、例の対抗戦で態々白兵戦も希望していてな。東門の防衛は島津家の独壇場になりそうだ』
加藤清正の言った通り、ここには東側にも同じような構造の門を作っていて、しかもこちらは石垣に細工をして騎馬隊が第二、第一の虎口を駆け抜けて騎兵突撃が出来るようにしている。
ただ、その騎兵突撃も島津家が出張るとなると無用と切り捨てられる可能性が無くもない気が……
「因みに、突撃を希望している方は?」
『島津家だからな。島津姓である島津豊久殿や島津歳久殿、島津家久殿に島津義弘殿。それと、家中の山田有栄殿に平田増宗殿』
『木脇佑秀殿と川上忠実殿もだな。肝付兼護殿は嫡男の兼幸殿と攻めると言っていた。あぁ、後醍院宗重殿と鎌田政近殿もおったか』
多分、ルテラに聞いたら卒倒する面子なんだろうなぁ。私は歴史に詳しくないので、なんか凄く強い人としかわからないけれど。
『後は織田の鬼武蔵殿も希望しておったし、妹御に稽古をつけておった剣豪連中は皆突撃を希望してたな』
「多分、東側は射撃少なめで主に突撃隊の人達が蹂躙するような形になりそうなんだよね~」
まぁ、城壁の守りは堅牢だとわかったので、対抗戦もクランホームが荒らされることはないと安心しておくことにしよう。プレイヤーへの被害は考えないものとする。
「あ、もしかして旧館の地下も改築されたのかな」
「え? お姉、彼処もなんか改築してたっけ?」
実はユーリ達には伝えていなかったけど、倉庫を移動させるという話が出た時点でこっそりと私のリクエストを甚五郎と、補佐としてガラティアに伝えていたのだ。
何をやらかしたのか気になっているのか、ユーリの足が旧館に向かって駆け足くらいの速さで動き始めている。
「えっと、地下の倉庫を改築したんだよね?」
「そうだね。ほら、新しい倉庫とかが出来たら旧館の生産施設と倉庫が不要になるじゃん?」
ということで、ユーリを連れてゆっくりと旧館の地下へ階段を下りていく。エレベーターとかも付けられるけど、流石に拠点に合わないのでやめておいた。
まぁ、地下に作ったものも合ってるかどうかと言われたら、合ってないってハッキリ言えるくらいにはミスマッチな代物なんだけどね。
「……お姉、ここって何の施設?」
ちょっと暗めの地下に来て早々、幾つかある部屋についてユーリが私に聞いてくる。まぁ、初見だとコレが何なのかわからないと思ったよ。
「えっとね。右手前の部屋がレコーディングスタジオで、左手前がカラオケルーム。右奥が編集とかMIXが出来る部屋で、左奥がバンド用の防音室だね」
「……なんかすっごくツッコミに困るラインナップが追加されてたんだけど!?」
ツッコミに困るって……あ、私が音楽関係で使うってわかってるから何とも言い難いのか。てっきり『なんてもの作ったのお姉!?』とか言われるかと思ってたよ。
取り敢えず簡潔にまとめると、右手前のレコーディングスタジオは歌だったり声劇だったり、まぁ色々な用途で使える防音効果のある部屋だ。何か収録とかする時はここを使う。
で、左手前のカラオケルームは歌の練習用に作ってもらった部屋で、収録楽曲は邦楽や洋楽だけでなく、この世界の歌も幾つか収録している。
右奥の所謂編集部屋は、ユーリに説明した通り楽曲制作やMIX等を行う為に作った部屋。こっちでもそういった事が出来たら便利だと思ったから用意してもらったんだよね。
最後に左奥の防音室。こちらは主に楽器の練習とかセッションとかで使えるようにした部屋で、備え付けの楽器も数多く設置してある。
部屋の中に誰かがいるかどうかは長方形の強化ガラス製の窓で確認出来て、防音効果は内外の音を完全に別々とする。外で暴れてる音も中では無音だし、その逆もまた然りだ。
「これでユーリ達もバンドの練習出来るでしょ?」
「正式に所属してるわけじゃないんだけどなぁ……」
ユーリって、私に似たのか私の影響を受けたのか、何だかんだ音楽活動がメインだからね。運動部の助っ人もしてるけど、クランの面々で楽しくバンドやってる方が楽しいらしい。
一応、家の事情があるって理由で軽音楽部に所属してるわけじゃないんだけど、私の英才教育の賜物か顧問の先生や音楽の先生にお墨付きを受けて気に入られてるくらいには好まれている。
「こっちでも自由に演奏出来たら楽しいでしょ?」
「まぁ、お姉と一緒に出来るなら悪くないかな……」
そう言って、ちょっと恥ずかしそうに顔を背けるユーリ。ホントに可愛い仕草覚えちゃってまぁ……
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