第643話
デイノスクスに寄り掛かって少し眠ると、起きた時には空の日が少し傾き掛けていた。
「ちょっと寝過ぎたかな?」
日暮れまではまだ少しあるだろうが、出来ればもう一つくらい近くのエリアとか島とかを探索しておきたいところ。いや、探索っていうか観光の方が正しいんだけどね。
この近くに丁度いい場所があればいいんだけど、デイノスクスに聞いたら教えてくれたりしないだろうか?
「ねぇ、この近くにさ…………」
ということで、島の端っこにある岩礁地帯の洞窟までやってきました。
いやぁ、まさか聞いてみたら本当に丁度いい場所があるよって言われるとは思わなかった。しかも本当に距離的にも丁度いいし。
時間的には一時間未満、多分四十分前後くらいじゃないだろうか。デイノスクスがいた湖からそれくらいの距離だから、ここはかなり近い方だと言える。
「どんな洞窟かは聞いてないけど、多分何とかなるでしょ、うん」
完全に行き当たりばったりの極みだけど、これが私の基本スタイルになっちゃってるし、もう変えようが無ければ変える気も無い。
なので、湿気で少し滑る黒い岩の洞窟の中へ、転ばないようにゆっくりと足を踏み出しながら奥へと進み始める。
入口付近は潮風などの影響もあったのか大分しっとりとしていたが、少し奥に進めばすぐに滑りにくい乾いた岩肌に変わっていた。
そして、水の流れる音と共に壁にある天然の吐水口が窪みに水を蓄える。滲み出ている水は、見たところ海水ではなく淡水、若しくは純水のようだ。
ただ、その水が足元を滑らせる程の湿気を出しているわけでは無い様子。出てくる水も少量だし、ある程度空気に湿気を混ぜているだけなのかもしれない。
「……あ、そういう事? だったら、確かに湿気が無いと生活するのが大変だよね」
というか、出てきた子の姿を見たらこの天然の加湿器の意味が理解出来たよ。
私の前に出てきたのは、ヘビのような鱗と皮で出来た表皮で覆われた、縦長の瞳の眼球だ。名前はサーペントアイというらしい。
フワフワと浮いているその目は、時折その瞼らしき部分でパチパチと瞬きをしながら、ジーッと私のことを見つめている。
さて、このサーペントアイだが、なんと魔眼とも呼べるスキルが使える遠距離型のモンスターであるらしい。
その魔眼は言い表すなら『麻痺の蛇眼』と呼べるような代物で、見つめられた相手は蛇に睨まれた蛙のように体が痺れてしまう。
特に目と目が合うと成功率が非常に高くなるらしく、うっかり目を合わせるとほぼ確実に全身が痺れて動けなくなるそうだ。
言わなくても分かるだろうが、弱点はその眼球。風属性や地属性で目潰しをしたり、砂粒を飛ばしたりすれば物凄い継続ダメージと共に身動きが取れなくなるらしい。
「あ、やっぱり他のバリエーションもあるんだね」
そんなサーペントアイを見ていると、他のタイプの眼球達がフワフワと浮きながらこちらに集まり始めていた。
私の手に表皮……というか、毛皮を擦り付けるのはキャットアイ。三毛やら黒やら、様々な猫の柄の表皮で覆われた眼球だ。
この子が使うのは『捕捉の魔眼』と呼べるような代物。ヒビキみたいな隠密とか隠形みたいなスキルを無効化して、見られている間はそれらのスキルが発動出来なくなるという効果になる。
耐性やステータスの差が高い程、魔眼というものは成功率が上下するらしいが、目が合うとほぼ確実に一発アウトなのは変わらないらしい。
しかし、猫の毛並みなのでホワホワしててとても気持ちがいい。喉があったら多分ゴロゴロと、洞窟の中に独特な音が響いていたと思う。
そして、そのキャットアイに混じっているのがタイガーアイ。しましま模様の毛並みは、名前から分かる通りトラのものである。
このタイガーアイは『萎縮の魔眼』と呼べるような魔眼が使える。効果は、相手を睨みつけることで足を竦ませ動けなくさせる……という、一見してサーペントアイと被っている代物。
ただ、サーペントアイは麻痺なので麻痺に効く薬や魔法で治すことが出来るのだが、タイガーアイの場合は恐怖、つまり精神的なものに効く回復魔法でないと治すことが出来ない。
場合によっては気合一つで解除することも出来るが、もしコレが達人同士の戦いだったとしたら、一瞬でも足を竦ませられるとそれだけで決着が着いてしまうことも考えられる。
「味方になると頼もしいだろうねぇ……」
尚、何方の目も人のものというよりネコ科の生き物の目をしている。まぁ、キャットとタイガーだから当然といえば当然なんだけどね。
「で、これはなんて言ったらいいんだろう」
問題なのはその後に出てきた黒い表皮に覆われている眼球。名前はナイトメアアイとなっていて、表皮の材質が全くわからない。
一応、触らせてもらった感触はゴムっぽい感じかな? ちょっとスベスベしてるけど、エナメルって程でもない感じ。
まぁ、材質云々は別にいいか。ナイトメアアイが使うのは『悪夢の魔眼』という代物。目と目が合うとほぼ確実に相手は睡眠状態になる。
そして、眠っている相手を見つめることで悪夢を見せ、HPとMPをガリガリと削る。尚、目が合わなくても眠気という形で相手の動きを鈍らせることが出来るそうだ。
相変わらず材質は謎のままだけど、手触りはそんなに悪くないので気にしなくてもいい気がしている。
それと、そんなナイトメアアイに紛れているまた別の材質の眼球。ルナティックアイという数の少ないレアな子もいた。
このルナティックアイはラメ入りの黒っぽい紫色の表皮に覆われていて、手触りはベロアっぽい。
何というか、触っていて飽きない感じだ。本人の魔眼はかなりヤバい代物だから、ギャップが凄いけど。
……あ、ルナティックアイの魔眼は『狂気の魔眼』というもので、見つめた相手に狂化の状態異常を付与する。相手をバーサーカーに変えるから、前衛がやられたら大変なことになるね。
「っとと、ここが一番奥かな?」
百を超えるバスケットボールサイズの眼球達に囲まれながら奥へ進んでいると、とても広く天井の高い空洞の中に、イソギンチャクのような触手をうねらせる黒い何かが佇んでいた。
一見して巨大な黒い大木のようにも見えるが……途中で、その幹に見える部分が横に裂け、パッチリとした目を露出させたことでコレが植物ではないと分かる。
「あー、君がここの主なんだね」
ここの主の名前は『千里見通す邪眼』サウザンドゲイザー。側面の触手を上下にまとめて束ねていたから大木のように見えたようだ。
漆黒の表皮から生える触手は増えたり減ったりしていることから、出す数は本人の意志で好きに調節することが出来るらしい。
ただ、一番特徴的なのはその触手の先端に丸い眼球が付いていることだろう。
この眼球は全て魔眼であり、種類も何種類かあるようだ。というか、ここで出会った眼球な子達の魔眼は全て使える。
何なら、その先端部を自切することでアイ系のモンスターを生み出すことが出来るんだとか。
また、他の魔眼や邪眼などを受けることで、それに対応した魔眼とアイ系のモンスターを生み出せるようになるらしい。魔眼系のスキルが効かないからこそ、そういった芸当も出来るということだろう。
「魔眼かぁ……メドゥーサさんとか、バロールさんとかの魔眼を受けたら、それに対応した子が生まれちゃうのかな」
そうなると色々とヤバい気がする。メドゥーサの眼はありとあらゆる生き物を石化させる魔眼だし、バロールの魔眼は『恐怖の魔眼』と呼ばれているヤバい魔眼なのだ。
バロールの眼は睨みつけた相手を死に至らしめる魔眼で、死なずとも相手は死の恐怖で身を竦ませることになるらしい。
となると、二人の魔眼を受けたらこのサウザンドゲイザーは石化と即死効果がある魔眼が使えるようになって、更にその力を使えるアイ系のモンスターも生み出せるようになる。
「……うん。絶対に勝てないボスになるからやめておこうか」
一瞬でも強化してもらおうかなって思ったのが間違いだった。やったら攻略不可になるから、そこはやめておかないとヤバい。
……そんな残念そうな目で見ないでくれないかな?
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