第629話

 ドスン、ドスンという地響きが幾度となく何度も何度も鳴り続ける。それに伴う振動も、多分相当ヤバいことになっている。


「なんでこんなに乗り心地はいいんだ……?」


 さて、今現在私達はピョンピョン飛び跳ねる巨大カボチャの上に乗って次のエリアに向かって突き進んでいた。


 このカボチャなんだけど、名前はギガンプキンというモンスターらしく、どうやらあの戦いの時に誰かの体にくっついていたカボチャの種が発芽して成長したものであるようだ。


 カボチャの種自体は普通のものだと思うので、多分ティアマト神の栄養豊富な水を吸収したことで、すくすくと大きく育ってしまったんだと思われる。


 そんなギガンプキン、大きさで言えば多分ギネス記録を余裕で超えるサイズ。何しろ、高さが大体2階建てのアパートくらいはあるのだ。


 その重量もとんでもない重さで、ピョンピョン飛び跳ねて着地する度に地面が揺れていることから、ヤバ過ぎる重量の一端が垣間見えている。


 多分『押し潰す巨頭』という二つ名も悪さしていそうな予感。いや、確かにこの重量のカボチャに飛び掛かられたら大体の相手はぺしゃんこになるだろうけどね。


「あ、ここから多分違う場所ですね」


「湿地帯か……まぁ、溢れ出た水の行き場がそれ程無いからな」


 城壁の前はクレーターやら何やらで水の行き場があったから良かったが、ここはそんな戦闘痕のない平野部なので、かなり広い湿原に変化してしまっていた。


 ただ、元々ここも荒野だったらしく、葦のような草が生い茂る湿原はある意味土地の回復が成されたと言ってもいいようだ。


「アマネ、何事かとどんどん集まってきてるぞ」


「まぁ、これだけ音を立てていたらそうなるよね……」


 さて、この湿原に来たはいいが、早々に周りのモンスター達が集まり始めていた。理由は言わずとも分かるだろうが、この連続して発生している地響きだ。


 ギガンプキンの移動でドシンドシンと揺れているわけだから、気になった子達がどんどん集まってきたんだよね。


「あー……ここらで降りるのって」


「今一つだな。湿原になっている以上、下手したらズボッと足が沈むぞ」


 ギガンプキンは体が大きいので浮力もそこそこ強いようなのだが、私だと多分草に隠れた深みにハマりかねないらしい。


 となると、このままギガンプキンの上で他の子達と顔を合わせるしか無いだろう。なんか見下してる感じになりそうで申し訳無いなぁ。


「それにしても、体の大きい子が結構多いですね」


「まぁ、大きい体は魔大陸で使える武器の一つでもあるからな」


 こっちをジッと見てくる大きなハシビロコウを見ながら、ふとそんなことを考える。寒い地域の生き物は体が大きくなりやすいとは聞いているけど、ここは明らかに寒さとは関係無いだろうしなぁ。


 と、そんなことはさておいて、こっちをジッと見ているそのハシビロコウはグリムバードというモンスターで、その目は所謂魔眼と呼ばれているような力があるらしい。


 仮に言い表すとするのなら『萎縮の魔眼』といったところだろうか。その鋭い眼光で睨まれると体が竦んで動けなくなるという。


 そうして動けなくなった獲物にゆっくりと近付き、その大きな嘴でサクリと首を切り落とす。相手が人型だと潰すような形になりそうだけど、まぁその時は横薙ぎに嘴を振るんじゃないかな?


 そんなグリムバードは大体3mくらいはあるようなのだが、それよりも圧倒的に大きなラクダもこちらに向かって顔を向けていた。


 そのラクダの名前はマウンテンキャメル。背中のコブが火山のようになっている、20mはありそうな巨大ラクダだ。


 大きなコブが一つのヒトコブ種と中くらいのコブが二つのフタコブ種がいるらしく、基本的にはヒトコブ種とフタコブ種でそれぞれの群れになることが多い。


 ただ、その戦闘能力は何方も非常に高い。というのも、背中のコブは見せ掛けのものではなく、実際に火山弾を放つことが出来るのだ。


 しかも火山弾と言っても小さい石が飛んでいくのではなく、炎に包まれた岩石がまるで迫撃砲のように敵に向かって降り注ぐという。


 一発一発の威力は弱い訳が無いし、群れていることが多いので群れ全体にリンクして一斉に発射でもされてしまえば、襲い掛かった敵は跡形も無く火山弾の爆撃によって木っ端微塵にされてしまうだろう。


 そんなマウンテンキャメルを余裕で仕留めて餌にしてしまうのが、カルカロディノスという30m程の巨大なカルカロドントサウルスだ。


 下手な竜種より頑強な鱗に覆われた体は、マウンテンキャメルの火山弾の直撃を受けてもほぼほぼノーダメージで、何なら竜のブレスさえ受け止めてみせることが出来るんだとか。


 ただ、何より恐ろしいのはその口。鋭く尖った牙が生え揃った顎はギロチンと言い表すのが相応しいくらいで、噛み付けば硬い鱗に覆われていたとしても容易にバツンと噛み千切る姿が簡単に想像出来る。


 テラノバイトと何方が強いんだろうかとも思ったが、仮にやったら大怪獣バトルになってしまうのでやめておこう。


「向こうの亜竜種も中々の巨体だな」


 そう言うキングゥの視線の先にいるのは、アパトダイノスという名前のアパトサウルスの群れ。


 カルカロディノスよりも倍以上大きな彼らはその巨体に見合ったタフネスの持ち主で、基本的には温厚な種類の亜竜種となる。


 というか、この世界だと恐竜系は亜竜の部類に入るらしいね。まぁ、恐竜に対して「アレはドラゴンだ」って言われても違和感が強そうだから別にいいけど。


 話を戻して、アパトダイノスの攻撃方法は巨体を活かした両足のストンピングと、長い尻尾を鞭のように振り回す鞭打攻撃の二種類を基本としている。


 特に鞭打の威力は途轍もなく、直撃すれば大抵の相手はゴルフボールのように放物線を描いて吹き飛ばされることになる。


「味方になってくれると心強いでしょうね」


「惜しむらくは、尾の攻撃が集団戦にそこまで向いていないことだろうか。いや、ストンピングで牽制してくれるだけでも充分だな」


 キングゥは攻撃方法の一つである鞭打攻撃が味方を巻き込むものだからと残念がっていたが、ストンピングで相手を尻込みさせるだけでも充分だとすぐにその残念という考えを撤回していた。


 さて、そんなキングゥはさておくとして、今度は空から滑空するように始祖鳥のような恐竜がこちらに向かって飛んできている姿が見えた。


 その恐竜の名前はウィンドラプターと言い、恐らくモデルとしてユタラプトルという恐竜が元になっているような見た目をしている。


 羽毛でビッシリと覆われた両腕を翼として使い、風に乗ってグライダーのように飛行して獲物に集団で群がっていく。


 個々の大きさは成人男性程なので、魔大陸では比較的小柄な部類に入るだろう。尤も、そんなウィンドラプターの群れは百匹以上の群れを作るのだが。


 滑空するピラニアと考えると、ウィンドラプターの脅威度というか危険性が理解出来るだろうか?


「お、あれはグラトニースライムか。ウォルク近郊では雨季くらいでないと滅多に見られないのだけどな」


 グラトニースライムというのは、黒灰色で透明度の低いスライムで、名前の通り何でもかんでも取り込んだものは消化してしまう暴食のスライムだ。


 本来なら乾燥しているウォルクでは滅多に見つかるモンスターではなく、今までは雨季の僅かな間に姿を見せるかどうかといったレベルでしか目撃情報がない。


 ただ、今回は雨季も何も大量の水辺が広範囲に出現したことにより、グラトニースライムが活動出来るだけの湿気や水気を得ることが出来たようだ。


 よく周りを見てみると、グラトニースライムらしき球体がちょっと底が深い場所でプカプカ浮かんでいる姿も確認できた。それと、ここのボスの姿も。


「キングゥ、ボスが来たよ」


「あれは……マンティス系のモンスターか」


 水面をアメンボのように滑走しながらこちらに接近してくる巨大なカマキリ。そのモンスターこそ、この新たに生まれた湿原のボスである。


 名前はアクエルティスで、二つ名として『水太刀の襲撃者』という名を冠するかなり強いボスであるようだ。


 水面を高速で滑走して敵に接近し、その鋭い鎌で獲物を辻斬りのように斬り裂いていく。


 急ブレーキや急カーブも自由自在で、真っ直ぐ正面に突き進んでいたと思ったら、途中で獲物を中心として円を書くような横移動も可能としている。


 何よりその鎌は水に濡らすことで水の斬撃を飛ばすことが出来て、近距離だけでなく遠距離の攻撃も放つことが出来るのだ。


「普通に戦うとなったら厄介な相手だな。ただ、剣の修行には悪く無さそうだ」


 尚、アクエルティスは後々剣士系の人達のクラスチェンジの為に、一種の試練として挑まれるボスとしてそれなりに名が広まることになる。


 まぁ、ブレードマンティスに並ぶ攻略不可能のボスとして、なんだけどね。

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