第615話
さて、クラン対抗戦の内容をモードレッド達に共有したことで、クランホームの周りは非常に騒々しいことになっている。
『いいか! 粗末なもん作ろうとすんじゃねぇぞ!』
『手ぇ抜いたらこの家が荒らされることになるんだからな!』
信長公が呼び寄せた武将達が各場所の指揮を取り、現場の石積みから着々と城壁作りを始めているのだ。
元々彼らは攻城戦も籠城戦も経験しているような戦人なのだ。城壁作りともなれば、自らの経験からどういう構造や仕込みをしていれば防衛面で有利なのか理解した上で作ることが出来る。
それに甚五郎という名工が記した設計図まで用意されているのだ。未来図が分かっていれば、図面も何もない状態よりも格段に進めやすくなる。
『いやぁ、元気が良くていいねぇ』
「アンタは働かないの、慶次?」
『ま、俺はのんびりとやる方が性に合ってるんでね』
ヒビキにツッコまれている慶次。煙管を吹かせてのんびりしているが、まぁこの人こそ知る人ぞ知る前田慶次本人である。
今はかなりだらけてるように見えるが、これでも実は森の手入れを頑張ってくれている人なのだ。具体的に言うと、間伐とか配置換えとかだね。
『まぁ、こういうのは焦って作ると良くねぇからなぁ。程々に気を抜くのが一番いいだろ』
『左様、左様! 特に今回は他の異界人にも極力露見せぬように作らねばなりませんからなぁ!』
そう言って庭木の下で握り飯を食べるのは、曹操さんのところの夏侯淵さんと、北条家の成田長親さん。
この二人は慶次と気が合うのか、ウチに来ると何かと遊んでいる姿をよく見る。それも、日によってはモンスターの背中に乗って辺りを走り回ったりしている。
ただ、悪い人ではないのでアタちゃんやコカちゃんにも好かれているいい人達なんだよね。
『しっかしまぁ、ここまでサクサク城作りが進むとはなぁ。ホント、姫さんの人徳が為せる技ってもんだよな』
夏侯淵さんがそう言う通り、今現在物凄い勢いで城壁作りが進んでいる。これは資材と人員が揃っているというのもあるが、何よりマンパワーが凄まじい面々が混じっているというのもある。
何せ、城壁作りにはオークやオーガ、トロールなどのパワータイプな面子が参加しているのだ。重い石材も、彼らにとっては道端の小石とそう変わらない。
何なら城壁上で工事している仲間に対して、城壁の下から石材を上に投げてパスするという荒業までやってみせている。
『数が多いとは言え相手は異界人。ハッキリ言ってここまで固めた城を突破できるとは思えないねぇ』
『隣に例の国がいると考えれば、備えあって憂いはないでしょうなぁ』
一応、この城壁は隣国であるディルガス帝国が攻めてきた時のことも考慮して作られている。名目としてはクラン対抗戦の備えなので、文句を言われる筋合いもない。
ただ、こんな城壁が無くても大丈夫なんじゃないかという意見には肯定する。ぶっちゃけこんな固めなくてもよくない?
「ウゴゴゴ……か、身体ガガガ……」
『お、人形みたいな動きの妹さんが来たぞ』
『随分と扱かれておったからなぁ! ハッハッハ!』
あ、ユーリがガッタガタのロボットみたいな動きでこっちに近寄ってきた。剣豪の皆さんに思いっきり指導されていて、物凄い苦戦していたからなぁ。
確か、今いるのは薬丸兼陳さんと、車丹波こと車斯忠さん。それと丸目蔵人こと丸目長恵さんだったかな。あ、真壁氏幹って人もいるね。
ルテラ的にはなんかすっごい流派の人とかいるらしいけど、私はそこまで詳しくないので正直共感とか全然出来ない。
「宮本武蔵と佐々木小次郎の対決が始まっちゃって有耶無耶になっちゃったんだよね……」
「あー……因縁の対決ってやつね」
『そりゃ、騒がしくなっても仕方ねぇな』
どうやら、途中から剣豪同士の対決が始まっちゃって逃げ出してきたらしい。まぁ、ガチで戦う彼らに巻き込まれたら確実に死ねるから仕方無いね。
「落ち着いたら次は愛洲さんと片山さんに教わることになってる」
『愛洲移香斎殿と片山久安殿か。源信斎殿は?』
「あ、小笠原さんは先にやってもらったよ」
稽古がどうこうの話にはついていけないので、そっと庭から部屋の中へ場所を移す。移転先の地ならしをしているからまだ移動してはいないが、旧クランホームもそのまま残されることになっている。
ただ、このままだと拡張に少し支障があるから、今の建物自体を奥側。山の斜面寄りの場所に移転させるらしい。
「――だとすると、ここは……」
『こういう手も悪かねぇんじゃ……』
『……というのも、一考の余地は――』
「……まだやってるの?」
臨時で用意された会議室では、オデュッセウスを筆頭とした軍師組が地図を広げて作戦会議をしている。
なんか、ルテラが捕まった後にも龐統さんとか荀彧さんとか賈詡さんとか、戦国組だと山本勘助さんや島左近さん、小早川隆景さんなど、中々の面々が更に集まってきていた。
「ホント、ここって人材って意味だと困りはしねぇよな。それに、物資面でも資金面でも並大抵のクランとは比較にならないしな」
「その殆どがアマネさん頼りなんですけどね〜」
「ん。でも、賑やかで楽しいから良き!」
未だにルテラは解放されていないみたいだけど、まぁこれを機に軍略でも学んでくれたらいいんじゃないかな。
それよりも、リビングでのんびりしているエルメと恋華と弓月が少し不思議な感じ。普段なら、色々と作業だったり何処かに行ってたりしててもおかしくないと思っていたんだけど……
「ふふ。クラン対抗戦の影響で、ちょこちょことこちらにもお誘いのメッセージが届くようになりましたからね〜」
「アタシらはそれの抑えで残ってるのさ。未だに翼の騎士団も花鳥風月もお誘いメールを送ってくるからな」
「ん。今は動かないのが吉」
「あー、そういうことかぁ……」
どうやら、このクラン対抗戦の勝率を上げる為に何処のクランも仲間集めに必死なようだ。
フリーのプレイヤーなら一時的でもと加入をお願いしているらしいし、相手がクランでも同盟を組もうと持ち掛けているんだとか。
現状で小規模クランが翼の騎士団や花鳥風月のような大規模クランと対決する、という構図になりつつあるという。
「まぁ、ホントにヤベェ所がここってわかってない辺り、ウチのクランってその程度の認知度なんだよな」
「その代わり、露見したら連日プレイヤーが押し掛けてくるとんでもクランに早変わりですけどね〜」
それはそうだ。世界中のモンスターとか偉人とかが集まってくるクランとか、普通は放置なんてしない。
私も正直運営の意図が分かりかねているんだけど、データ系の子達を特定する為に泳がされてるとかそんな感じなんだろうか……?
「そう言えば、今日はモードレッドがいないんですね〜?」
「うん。なんか、キャメロットでここの防衛の為に騎士を派遣しようって話になっててね。それ関係で今いないんだよ」
「……なんかすっげぇ話が出てきたな」
グィネヴィア様、今回のクラン対抗戦の話を聞いて即座に円卓の騎士の派遣を提言したそうだ。
モードレッドはその提言の補助をする為に、態々キャメロットに帰国して円卓会議と呼ばれている上位の騎士のみで行われる会議に参加中。
ただまぁ、私はアルビオン城攻略の為に主要な騎士達とは知己の間柄になっているので、多分会議とかしなくても勝手に来るような気がする。
「ゴリアテは新しい剣の為にノルドに戻ってるね。ヒルディが新しい剣を作ることにはなってるから、暫くは向こうにいるんじゃない?」
「あー、そういやアラプトで剣をぶっ壊したんだっけ? 神とやり合うってすっげぇ無茶をやったよな」
「ん。やっぱりレベルが違う」
ノルドに一時帰国中のゴリアテは、仮の武器を背負いつつ現地の傭兵達に声を掛けて、対抗戦に参加しないかと勧誘もしているらしい。
ノルドの傭兵達にとって、戦場は一つの遊び場でもあるそうなので、今回のクラン対抗戦も少し気になるそうだ。
「ロビンはマルテニカで依頼してる裏工作関係の諸々で、龍馬はアラプトの方で使節団と一緒に会談中かな。ルジェはジル・ド・レの暴走を止めに行ってる」
「ジル・ド・レってヤベェ奴じゃね……?」
ロビンと龍馬は兎も角、ジル・ド・レの対処をしているルジェは今一番苦労している。
というのも、各地の黒魔術や呪術に興味を示して実際にそれらに触れたジル・ド・レは、恐ろしいことに特級とも呼べる禁足地に旅立ってしまったのだ。
まぁ、その禁足地というのもドリームランドっていう名前の場所なんだけどね。ルジェも一応知ってはいるから、御目付役として連れ回されているらしい。
「一応、ルジェもその手の類の術を覚えて帰ってくるって言ってたし、そこまで問題はないと思うよ」
「この世界、クトゥルフ系の神もいるのかよ……」
っと、そんな話をしていたら大分時間が過ぎてしまっていた。実は、ケーニカンスのライオネル王に頼みたいことがあると言われて呼ばれていたのだ。
それまでの時間潰しとして城壁の建設を眺めていたわけだけど、流石にそろそろここを出てライオネル王に会いに行った方がいい。
「お、アマネ。なんだ、今からどっかお出掛けかい?」
「ちょっとケーニカンスまで。大規模な土木工事は任せますね」
「おぅ、任せてくれ! それと、城壁作りにも一枚噛ませてもらうからな!」
私が外に出ると、丁度湖作りをしていたフルングニルがこちらに向かって手を振ってくれた。
多分、ここまで順調に改築が進んでいるのは、フルングニルというマンパワーに溢れている巨人が参加しているからだと思う。
私は後の事をフルングニルにも頼んで、ケーニカンスへと転移した。
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