第586話
港町エルスル。マルテニカ連邦で最大級の港町であり、プレイヤーが来訪するのはまだまだ先となる人の往来の激しい町だ。
「初到達、キター!」
「アマネには負けるけど、こうして誰も来たことがない場所に先んじて行けるのってやっぱテンション上がるよな〜!」
ユーリとエルメは初めて来た港町に大興奮。オルンテスの時は召喚したついでみたいな感じだったけど、今回に関しては私と一緒に旅をした上での到達だから、その時とはまた違った達成感があるのだろう。
「取り敢えず、ユーリ達は町を探検してきていいよ。護衛はモードレッドとロビンに任せるからさ」
「じゃぁ、妹の面倒は私が見ておくわ。ゴリアテ達も買い物とか手伝ってよね」
「そりゃ勿論。美味い飯も酒も貰ってるわけだしな。こういう雑用だってやってやるよ」
ということで、ユーリ達は町を観光。私は依頼の品を納品するためにモードレッドとロビンの二人を連れて、目的の御屋敷へ向かう。
「そう言えば、港にすっごく大きな船が停まってるみたいなんですけど……」
「わかるかもしれないけど、アラプト行きの船だな。それも、王族用の大型船だ。婚礼の為にここに停泊させているんだろう」
港には貿易船やら何やらが沢山停まっているが、その中でも一際大きい船が今回アラプトに渡る王族用の船であるらしい。
護衛の船は見当たらないが、これは帝国に要らぬ刺激を与えないようにするためだとか。露骨に護衛を固めていると、要人が乗っているってすぐに分かってしまうからね。
「それにしても、すっごく賑やかですね」
「全部アマネのお陰だよ。ほら、アマネが色々な国を旅してさ。そこで色々な人と関わってきただろ? その影響で、他国との貿易が盛んになってるんだ」
マギストスもそうだが、私が反帝国同盟なんてものを作ったから、同盟国同士での交易や貿易が盛んになっている。
オルンテスもフランガも若干好景気にはなっているようだが、それも加盟国と比べると雲泥の差があるそうだ。
尚、蚊帳の外の帝国はいつも通り。自国内の財貨をバンバン外に出しているので、このまま慰謝料兼賠償金をがんがん稼げそうなんだとか。
「ところで、今回向かう場所って何処なんですか?」
「婚礼の式に於ける責任者の御屋敷だね。本人は隠居してるけど、今回の式にも参列する予定なんだってさ」
「……それって、相当偉い人では?」
「元偉い人だよ。今は……まぁそこそこに偉い人?」
まぁ、偉い人とは今まで割と出会ってきているし、変に緊張する必要はないか。
同盟の旗印をしているわけだし、今回も堂々と会談に臨むとしよう。後、もし許されるのならアラプト行きも同行させて貰えたらいいな……
ということで、エルスルの中でもかなり大きめの邸宅にて、最奥に設けられた客間に全員で案内された今現在。
「よく来てくれた! さ、ゆっくりしていってくれたまえ!」
「はい、ありがとうございます」
今、私達は客間の大きなソファーに座って、のんびりとマルテニカ産のコーヒーを御馳走になっている。
ちょっと離れた島で生産している貴重品で、ケーニカンスのものと並ぶ高級品だ。味も香りもとても素晴らしいので、これも出来ればお土産として貰いたい。
「さて、先ずは自己紹介から始めようか」
「では、私から。異界人のアマネと申します。歌姫として、世界各地を旅して参りました」
「アマネの護衛のモードレッドと申します」
「同じく、護衛のロビンフッドと申します。今回は案内役も兼ねておりました」
私達の挨拶を兼ねた自己紹介に、対面のソファーに座る三人も自己紹介で返してくれる。
「私はエイブラハム・リンカーン。マルテニカ連邦の現大統領を努めている」
「ジョージ・ワシントンだ。前大統領で、今回のマルテニカ連邦とアラプト王国の婚礼式に同行する予定だよ」
「そして、私がガイウス・ユリウス・カエサル。アラプト王国の女王に嫁ぐ王族だな」
うん、すっごくビッグネームな有名人が三人も揃って簡潔に自己紹介をしてくれた。
エイブラハム・リンカーン氏がマルテニカ連邦の現大統領で、ジョージ・ワシントン氏が前大統領。国家元首であるため、王様とか皇帝とかと同じ立ち位置と言っても過言ではない。
そして、ガイウス・ユリウス・カエサル様。マルテニカ連邦に未だ残る王家の人で、今回の主役とも言えるとっても偉い人だ。
尚、容姿に関してはエイブラハム・リンカーン氏は肖像画や石像とまんま瓜二つの顔をしている。
ジョージ・ワシントン氏は白い髭が立派な白髪のお爺さん。カエサル様は何故か坊主頭と見間違えるくらいの短髪で、ちょっとだけ見える髪色は金色のようだ。
「ホームズとカポネから話は聞いているよ。どうやら、随分と貴女には迷惑を掛けてしまったようだ」
「迷惑なんてとんでも御座いません。マルテニカ連邦は反帝国同盟の加盟国でもありますから、私が力を貸すのは当然のことです」
「それだ、アマネ氏! 私は、その反帝国同盟に正式に加盟したかったんだよ!」
「……マルテニカ連邦は、既に加盟国では?」
エイブラハム・リンカーン氏は興奮した様子で同盟に関して食い付いているが、マルテニカ連邦はもう既に加盟国の筈……
「確かに加盟自体はしているが、アマネ氏を介しての加盟では無い分、各国との連携に支障があってな……」
「あぁ、成る程。そういうことでしたか」
そこまで言ってもらって漸く合点がいった。そう言えば、マルテニカ連邦は加盟こそしているものの、友人帳という便利な連絡手段は有していなかった。
「これを機に、私はその同盟国の一人として共に歩むことをここに宣言させてもらおう!」
「歓迎します、リンカーン大統領。それと、御二方も私の友人としてよろしくお願いします」
リンカーン大統領の名前が友人帳に記されたので、その流れで二人にも話を振ってみる。
「おやおや、私から申し出るつもりが、先にそちらから言われてしまったか」
「私としても異論はないさ。父祖は帝国とその神に対し臓腑を焼くような恨みを抱いていたからね。私の代でその憎悪の連鎖を止められるのなら本望さ」
と、友人帳にワシントン前大統領とカエサル様の名前も記される。やったね、王族と大統領との伝手が増えたよ!
「それで、今回の依頼に対する報酬と加盟に於ける持参金代わりとして、アマネ氏にマルテニカ連邦全土の転移陣の使用許可を出させてもらう」
「それに加え、だ。フランガ王国に対し私達で便宜を図り、アマネ氏の拠点であるクランホームだったか。その周辺の土地の使用許可を出してもらうように頼んでおこう」
「ありがとうございます! 国境付近の土地とはいえ、土地の購入にそれなりの伝手が必要だったので助かります!」
クランホームの改築を行う際に周辺の土地の追加購入をしようとしたのだが、ユーリ達ではランク不足もあってかそこまで多くの土地を買えなかったらしい。
私が直接土地を買いに行っても良かったんだけど、その話を聞いたモードレッドがキャメロットからフランガに対して便宜を図るように『お願い』するよう頼んでおくと言っていたんだよね。
「マルテニカからの一声もあればフランガも二つ返事で便宜を図ってくれるでしょうね」
「ふふ、キャメロットに先を越されてしまったがな。とはいえ、こういうものは多くて困ることはない」
多過ぎて困ることは確かに早々ないからね。帝国に対する包囲網もこれでほぼ完成みたいな所あるし、決戦の時は案外近いかもなぁ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます