さぶらうものよ

あぷちろ

盛者必衰


 時代は戦国初期。足利将軍家の権威は失墜し、数多の武将どもが鬨の声をあげた。混迷を極めるこの日の本の国で、ある野盗の男たちは街道沿いにある穴倉で獲物がかかるのを虎視眈々と狙っていた。

「応、英一ひでかず

「どうした? 美二みつじ

ねぐらとしている不衛生窮まりない場所で、兄弟らしき二人は身なりにそぐわない刀を側に、寝そべっていた。

「思ったんだけど、こうやって刀をよ、」

 あまりにも暇を持て余した野盗の一人がおもむろに刀を握る。

「両手に持てば最強じゃね?」

 美二の勝ち誇ったようなドヤ顔に英一は雷に打たれたかのような表情をみせる。

「おうおう、ちょっと軽く振ってみろよ」

 空中に藁巻きが浮かんでいるように、狙いをつけて刀を振る。

「こっちを防がれても、こっちは当たる!」

 英一は賞賛の拍手を美二に送った。

「最強か」

「だろお?」

 調子にのった英一は四方八方に刀をぶん回す。時折洞窟の壁に当たっては火花を散らす。

 その立ち振る舞いは演舞のようだ。

「天才的だな」

「今の俺はIntelligencに満ちている」

 ちょうどそのとき、穴倉の外から牛車が籠を牽く音が聞こえた。

 二人は耳をそばだたせて外の様子を探る。

「どこぞの貴人サマじゃねえ?」

 美二は刀の切先を勿体ぶったように洞窟の先に向けて英一に問うた。

「襲う? 襲わない?」

「襲ーーう!」

 二人はヒャッハーと穴倉を飛び出す。街道の半ばには数人の侍に守られた牛車が一つ。確かにこれは貴人が乗っているものに違いない。

そして二人は襲撃者にあるまじき礼儀正しさで名乗りを挙げるのだ。

「やあ、やあ、我こそは……ちょマテよぉ! 名乗りの最中は無敵時間……アバーー!」

 こうして馬鹿な野盗二人は身の丈に合わない悪行を為そうとし、よくある無縁仏の一つと成り果てたのだった。



 おごるるもの は ひさしからず。にとう をふるうとて てきず のみ。 

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