【KAC20221】ゴミ拾いクランのリーダーは今日も幸せです。

宮野アキ

俺は今日も幸せを求める

「お願いします!!このままだとお姉ちゃんが、大変な事になっちゃいます!!」


 そう言って、身長が大人の腰程の大きさしかない女の子が、受付のカウンターの向こうに居る冒険者ギルドの受付嬢。額に親指程の大きさの緑色の宝石が眉間に存在する宝石人種クリスタルウィルの受付嬢が困った顔で女の子を見ていた。


「……えっと、エリスちゃんだったわね。気持ちは分かるけど、お金を払えない人から依頼を受ける訳にはいかないのよ。それは分かるわよね」

「でも――」

「ごめんねエリスちゃん。私達も慈善事業じゃなくって、仕事でやってるのよ。どんなに困っていてもお金がなければ依頼を受ける事は出来ないわ」


 受付嬢の言葉にエリスと呼ばれた女の子は涙目になって俯いて居ると、エリスの頭にいきなりポンと軽く頭に何かが乗せられた。


 エリスは驚いて顔を上げるとそこには目を閉じているのかと思える程、細い目の黒髪の男性がエリスの頭に手を乗せていた。


 いきなり知らない男性に頭を置かれ困惑してよく見てみると、男の腰には長い刀と短い刀の二本を腰のベルトに差していた。


 そんな男性に受付嬢が眉間にしわを寄せて話しかける。


「レルンさん、またですか。毎回、首を突っ込まれては困ります」

「そういう訳にはいかないよ、クララさん。困っている子が居たら助けないと思うのが人の性分でしょう」

「レルンさんの言っている事も分からない訳ではありませんが……それでもそこのエリスちゃんは今回の依頼の大抵依頼額の500オルを支払えないのです。それではギルドとしては依頼を受ける事は出来ません」

「なるほど……えっと、エリスちゃん。今いくら持っているの?」

「……今は150オルしかありません」

「ふむ、なるほど」


 150オルはだいたい街の安い屋台で2〜3品の食べ物を買えばすぐに無くなる程の少ない量のお金。

 そんな夕食代にも足らないお金ではギルドの依頼など出せない……けど――


「なら、その150オルで俺がエリスちゃんのその依頼うちのクラン【六対の翼】のリーダー。レルン・アイストロがその仕事を受けるよ」

「え!?嘘、本当ですか!!でも、本当に150オルしか出せませんよ?」

「大丈夫。それだけあれば十分だよ」


 レルンがそう安請け合いをしているとクララが眉間の宝石を赤く光らせて渋い顔をする。


「レルンさん、そう簡単に依頼を受けられては困ります。それに毎回言っていますが、ギルドを通さずに依頼を受けた場合、何か事故や事件が起きた時にギルドは一切関与しませんよ。それでも構いませんか?」

「構わないよ。いつもの事だしね」


レルンがそう言うとクララはため息をついて額を押さえる。


「また安い依頼を受けて。そんなゴミみたいな依頼ばかり受けるから、ゴミ拾いクランなんて呼ばれるんですよ」

「別に構わないよ。それでこの子が笑顔になってくれるならね」


 そう言って、レルンはあらためてエリスの顔を見て笑い掛ける。


「それじゃあ依頼の話しをあっちで聞かせてくれるかな?」


レルンはそう言うと部屋の奥の方にある席を指差す。


「はい、わかりました」


 レルン達は冒険者ギルドの部屋の奥にある席に座ると早速エリスの話しを聞いた。

 エリスの話しを要約するとエリスの姉、メリルは夜の酒場でウェイトレスをしていた。

 だが、数週間前から異様に絡んで来るお客がおり、そのお客に絡まれてから家に帰る途中、誰かに後を付けられている気がしていたらしい。

 そして、今日いつも帰って来るはずの時間になっても姉は帰って来なかった。

 どうすればいいのか分からず冒険者ギルドに依頼しに来たらしい。


「それでメリルさんはどの辺にいるか分かるかい?」

「はい。…………お姉ちゃんはそのお客さんはスラム街に出入している人だって言ってました」

「なるほど……そうか」


 スラム街。

 それはこの街の北西にあり、意味治外法権と化している場所でそこには下手に衛兵は行けず、もしスラム街で人殺しがあったとしても見て見ぬふりをされる程危険な場所だった。

  けど――


「よし分かった。今すぐ俺が迎えに行こう」

「お兄ちゃん、本当ですか!!」

「あぁ、本当だとも。エリスちゃんはここで待っていて」


そう言ってレルンは立ち上がり、出口に向かおうとした時――


「レルンさんちょっと待ってください」


受付嬢のクララに呼び止められた。


「どうしたんだクララ?」

「話しは聞こえてきました。スラム街に行くんですか?」

「そうだよ。スラム街にあの子のお姉さんが居るみたいだしね。ちょっと行って来るよ」

「気を付けて下さい。今、スラム街には首都で暴れていたゴロツキが来ているという噂があります。今回の件と関係が――」

「大丈夫、何とかなるよ。それじゃあ行って来るよ」


レルンはそう言って手を振りながら冒険者ギルドを出て行った。



◇  ◆  ◇



「さて……スラム街に来たが」


 レルンは今スラム街の入口に立っていた。

 スラム街の建物は周りの建物に比べてボロボロで、建て増しが基本なのか。それぞれの階層で使われている建材が違い、色とりどりの建物となっていた。


そして今レルンは考え無しでここに来てしまった為に、どうやって探そうかと考えていた。


「仕方がないか……疲れるからあまりしたくはないけれど」


 そう言うとレルンの額が突然横に亀裂が入り、開く。

 そして、その中から大きな目玉が顔を出す。


 そう、レルンは普通の人と違い、額に第三の目と呼ばれる特殊な目を持つ魔眼族ランミュゲと呼ばれる種族だった。

 そしてその魔眼族ランミュゲの特徴は第三の目を持っているだけではなく、その目には普通見えない物――魔力の波動などが見えた。


「…………あっちか」


レルンは第三の目で辺りを見渡してエリスと似た波動を見つけて、目を閉じて目的の場所に向かった。


……………


………


……


「この建物の中か……かなり人数が居るな」


レルンは定期的に第三の目を開きながらエリスの姉、メリルの魔力の波動を追ってここまで来た。

その場所は建て増しするのが基本のスラム街の建物にしては珍しく、平屋の家だった。


「見るからにこの辺りの権力者の家って事か。でも……」


レルンは腰に差している二本刀を握り――


「依頼主の幸せの為に、人肌脱ぎますか!」


 第三の目を開いて抜刀すると平屋に向かって突撃して、扉を切り、破壊する。


「襲撃だ!野郎ども反撃しろ!!」


 家に突撃したレルンは周りを冷静に確認する。部屋の中には十数の男達と部屋の奥には大将らしき大男おり、そしてその膝の上にはエリスよりも数㎝大きな女の子がいた。


(……あの小さいのがエリスちゃんのお姉さん?魔力の波動は似てるからそうだろうけど――)

 エリスの姉、メリルの姿に困惑していたが敵はそんなの待ってはくれなかった。

敵だと思われる男達がそれぞれ剣や棍棒などの武器を持ってレルンに攻撃を仕掛けて来る。


「――甘い」


だが、レルンは武器を持った男達に囲まれて一斉に攻撃を仕掛けられても冷静に対処し、敵を順番に切り伏せて行く。


その動きはまるで演武でも舞っているかの淀みなく、美しく。

男達の血しぶきでさえ舞いの演出の様に見えてしまうほどだった。


そんな思わず見惚れてしまうほどの演武も大男意外を切り伏せて終わった。


そしてレルンが大男の膝の上に居るメリルを傷付けずにどう大男を切り伏せるかを考えているとパチパチと大男が拍手していた。


「素晴らしい、まるで演武の様だった。……それで、貴様は何しに来たのだ?まさか演武を見せに来たわけではあるまい」

「……お前の膝の上に居るメリルを助けに来た」

「なるほど、やはりそうか。俺の妻を奪いに来たか」


大男はそう言うとメリルを膝の上から降ろして立ち上がり、メリルを椅子に座らせ――


「メリルちゃん大人しく待っててくだちゃいね。これからメリルちゃんのカッコイイ旦那様が、こわ~い人を退治するからね~」


突然赤ちゃん言葉でメリルに話し掛ける。


「…………」

「…………」


レルンは呆然とその姿をみて、メリルは死んだ魚の目で大男を見ていた。


「ふぅ~、じゃあ殺ろうじゃないか小僧」


そう言うと大男から殺気が溢れ出し、上着がはじけ飛ぶ。

そして、その大男の左右の肩甲骨から腕が生えて来た。


「――!!」

「おや?まさか多腕種グラタロンを見た事が無いのかね?では見せてあげよう多腕種グラタロンの力を!!」


そう言うと大男はその巨体に似合わない速度で攻撃を仕掛けて来た。


「ほらほらどうした!?」

「……力押しでは俺には勝てないよ」

「何を――」


そう言おうとした瞬間大男の四本の腕が消えた。


「――ハァ!?」


大男が呆然としていると大男の後ろでドサリ、と重い音が四回鳴る。


「バカ……な」


全てを察した大男はそのままショックで気を失い倒れる。

そして、レルンは他に敵が居ない事を確認するとメリルの所に近付き、手を伸ばす。


「帰ろう。妹のエリスちゃんが待ってるよ」


レルンがそう言うとメリルは無言で、どこか怯えた顔でレルンの手を取り、ギルドへと帰っていった。


◇  ◆  ◇


「お姉ちゃん!!」

「エリス!!」

「……幸せそうだね」


冒険者ギルド。

そこでは今、小さな女の子の姉妹が再会を喜び抱き合う幸せそうな姿をレルンは微笑ましく眺めていた。

そこにギルドの受付嬢のクララがやって来てため息を付く。


「幸せそうだね。じゃありませんよ!こんなお金にならない仕事ばかりしてたら身を亡ぼしますよ!」

「あはは、説教は勘弁してよ……それに」


レルンは改めて姉妹の方を見る。姉妹は抱き合うのを止めてこちらを振り返り頭を下げていた。

それにレルンは手を振り、笑顔で答える。


「俺にとっては他人の幸せがご飯みたいなものなんだよ」

「はぁ、また変な事言って」

「あはは、まぁいいじゃないか……うん?」


レルンの視線の先には困り果てた女性が立ち竦んでいた。

そんな女性に、レルンは笑顔で声を掛ける。


「お嬢さん、どうしました?良かったら俺が貴女の悩みを解決しようか?」


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