第109話
とりあえず電話を待っていればいいのかって、僕はスマホを枕元に置いてベッドに横になった。
横になった瞬間、頭も身体もぐるんぐるんなって、思わず目を閉じた。
最近熱を出してもここまで上がることはなかっただけに、ものすごくツラい。
メンタルが落ちているというのもツラい要因のひとつなのかもしれない。
目を閉じてぐるんぐるんするのを耐えてじっとしている間に、いつの間にか、僕はすうっと意識を眠りに落とした。
「明くん、光くんが来てるよ?」
実くんの声が聞こえた気がした。
「ごめんね、光くん。せっかく来てくれたのに、明くん熱があって………今寝てるみたい。しかもボクもう仕事に行かないと………」
「ちょっとだけ様子を見に部屋入ってもいいですか?」
「うんそれは構わないよ。ありがとう。あと10分ぐらいしたら出るから、それまででいい?」
「はい。ありがとうございます」
実くんが誰かと話している。
誰かって………この声は光くん。
さっき電話を切って、電話するって言っていたはずなのに、うちに来てる?
光くんの家からうちまで、そんな短時間で来られたっけ?
それとも僕がそんな長い時間寝ていたのか。
「明くん、おじゃましまーす」
小さくこんこんってノックの音。小さい光くんの声。
こんなにも分かるのに、僕の瞼はぴくりとも動かない。開かない。瞼だけじゃなく身体も動かない。声も出ない。
金縛りって、多分こんな感じ。
「天ちゃん」
光くんがそこで何故か天ちゃんさんを呼んだ。
ふわり。
夏は冴ちゃんの部屋兼居間のエアコンがほぼ24時間28度設定でフル稼働しているから、換気のとき以外窓は閉まっているはず。
なのに、どこからか風。
その風と同時に、何故か僕の身体がどんどんと楽になっていっているような気がした。
気のせい?
少し寝たから?
「ありがと、天ちゃん。ありがと、いっちゃん。ありがと、きーちゃん」
また聞こえた光くんの声。
天ちゃん、は、天ちゃんさん。
でも、いっちゃんときーちゃんって?何故、今ここでありがとう?
ぐるり。
僕の意識が一回転して、僕は目を開けることもできないまま、またすうっと眠りに落ちた。
「明くん、熱どう?」
「………え?」
光くんの声がすぐ側で聞こえて、僕はばちっと目を覚ました。
………いつの間にか寝ていた。
「あれ?光くん?」
「うん。心配で来ちゃった。電話鳴らしたんだけど、明くん出なかったから」
「え?あ、ご、ごめんねっ………」
「ううん、大丈夫。それより明くん、熱はどう?今日はやっぱり無理そう?」
「………うん、いつもより高かったから………って、あれ?」
「どうしたの?」
そう、ここ最近のいつもより、今日は高かった。
だから無理って思っていたのに。
身体が軽い。頭も軽い。重くない。痛くない。どこも不快じゃない。
僕はがばっと起き上がって、枕元に置いておいた体温計で熱をはかった。
変にどきどきしていた。
だってどこも何ともないから。
でも何で?何故?いつもならこれは1週間ぐらい寝込むパターンのはず、だよね?
熱をはかり終わるまでのほんの1分ぐらいが、すごく長く感じた。
そしてピピピピッ………という電子音。
それを合図に、体温計を見たら。
「明くん、どう?」
「………ウソ」
「明くん?」
「35.8度。………平熱になってる」
「………よかった」
「え?」
「ううん、何でもない。熱がないなら行けるかな?」
「実くんに聞いてくるっ」
ウソみたいな本当の話。
朝熱があるって大泣きしてからほんの1時間ぐらいで、薬も飲んでいないのに平熱。
僕は勢い良くベッドからおりて、実くん‼︎って実くんをいつもより大きい声で呼んだ。
何か夢のようなものを見ていたような気がしたけれど、それが何だったかは、思い出せなかった。
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