第106話

「試合中にも身につけられるものって言ったら、ネックレスかブレスレットかアンクレットだね」



 実くんはカタカタとキーボードを打ちながらそう言った。



 ネックレスかブレスレットかアンクレット。



 つまり、首か手首か足首かということ。



「………」



 そこにつけられるようなものを、果たして僕に作ることができるのか。



 編み物は長年やっているから図面を見ればすぐにできる。

 でも、編み物以外のことは、やったことがないだけに。



「そうだなあ。チェーン的なものにパワーストーンをつけるとか。今回は時間があんまりないから、凝ったのは今後ゆっくりにして、すぐにできそうなもの、なんてどう?」



 僕の無言から何かを読み取ったらしい実くんが、うーんって言いながら画面を見て、またキーボードをカタカタ。



「………多分だけど、道着から見えたらダメだよね?」

「あー、そうだね。ってことはネックレスはダメで、アンクレットもダメか」

「でもそうなるとブレスレットもダメじゃない?」

「ブレスレットはほら、手に何かはめるでしょ?剣道って。だからギリいけるかなあ。でもそうか、面を被るからネックレスもいける?」

「………あ」



 そうか、剣道には防具があるんだ。



 ちょっと待ってって、実くんは何かを打って、そして僕にノートパソコンを見せてくれた。



 それは、剣道の試合の動画だった。



「ごめんね、残念ながら宗くんじゃないんだけど」

「………う、うん」



 一瞬宗くん?って思っただけに、実くんの言葉が恥ずかしい。



 遠目の撮影だからあんまりしっかりは見えないけれど、確かに首と手首なら防具で隠れる。



 ただ、首だと面を取ってときにすぐに見えてしまうかもしれない。



「道場からの出場だから、どこまで厳しいか、だよね。規定としていっさいダメっていう確率も大」

「………だよね」

「そうだ。大会規定を見ればいいんだ」

「そんなの見れるの?」

「多分ね。どの大会かは調べれば分かるし、大会が分かれば規定が載ってるかも。載ってなかったら、別の大会の規定をいくつか見てみればいい」



 てきぱきと言いながら、ノートパソコンをまた自分の方に向けてカタカタと指を滑らせる実くんに、やっぱり実くんはすごいなって、思った。






 検索をした結果、アクセサリー系をつけてはいけないという規定は見つからなかった。



 でも、先生によっては外せと言われるとか、アクセサリーなんてとんでもないとか、そういう意見が多くあった。



「………宗くんが剣道のときにつけたくないって思ってるかもしれないから、残念だけど今回は身につけるものはやめておく」



 それが、検索結果からの僕の結論だった。

 少しの違和感で試合に集中できなかったらと思うと、つけてなんてとてもじゃないけれど言えない。



「じゃあ、冴ちゃん作戦は?」

「冴ちゃん作戦?」

「つけるかつけないかは宗くんの判断に任せて、明くんは身につけられるものと、その外袋を作る」

「………あ、そっか」

「そうしよ?そしたら明くんの身につけていて欲しいって気持ちも、宗くんの気持ちも両方大事にできる」

「うん、そうする」



 そしてその後も僕は実くんとふたりでパソコンとにらめっこをして、パワーストーンをつけたブレスレットと、お守り袋を作ることにした。



 うまくできるかな。



 どきどきした。



 渡せるかな。



 どきどきした。



 受け取ってくれるかな。



 僕はすごく、すごくどきどきしていた。

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