第83話
宗くんの家は、『つばた小児科』って看板のある、かつては白かったのか、元々なのか、グレーっぽい1階が病院、2階が住むところの2階建ての建物だった。
少し離れたところに駐車場があって、そこに新しい病院兼家……つまり、僕も一緒に住む予定の建物が………建つ、らしい。
そんなに離れていないのに、宗くんの家は僕たちの家とは違う市。隣の市。
宗くんの保育園転園が何かこれに関係しているのか。
すいすいと僕を乗せたまま、病院の裏手に回って宗くんは自転車をとめた。
病院に来ているのだろう。後ろに子ども用の椅子が取り付けられている自転車が5台ぐらいとまっていた。
駐車場にも車がいっぱいだった。
辰さんの病院は、忙しい病院なのかもしれない。
でも、それはすごく分かる気がする。
にこにこと穏やかに話してくれる辰さんが先生なら。
「明、こっち」
自転車をおりてきょろきょろする僕を宗くんが呼んだ。
初めて入る宗くんの家は、意外と片付いていて意外だった。
………なんて、失礼なことを密かに思った。
ここに今暮らしているのは辰さんと宗くんのふたりのはず。政さんはひとり暮らしだから。
料理ができない辰さんと、ご飯をこぼさず食べるところを見たことがない宗くん。
正直、もう少し散らかっているところを想像していた。
「こっち」
「あ、う、うん。お邪魔します」
玄関を入った端っこに、きちんと靴を揃えて脱いでいく宗くんもまた、意外に思った。
普段から揃えているんだって。
うちに来たときも、確かいつも揃えられていたような気がする。
あれは実くんが揃えているのではないのか。宗くんがきちんと揃えているのか。
意外な発見に、何故か僕はどきどきしていた。
最初に連れて行かれたのは洗面所で、僕は宗くんの後に手洗いうがいをした。させてもらった。
タオルはタオル掛けにかかっているタオルとは別の、洗濯したものを渡してくれた。
やっぱり意外に片付いていて、洗濯もきちんとされていて、意外だった。
「明」
やっぱりここでもきょろきょろする僕を宗くんが呼んで、こっちって言ったついでなのか、僕は宗くんにぐいっと手を引っ張られた。
どきん。
今日そうなるのは、もう何回目だろう。
この手を繋ぐ意味は。
神社では、転ぶかもしれないって気遣いから?って考えられなくもなかった。
そこまで鈍臭いとは自分で思っていないだけで、相当鈍臭く見えるような気もするから。あと、暑さに参って倒れるのを心配して、とか。
でもここは家の中で、手を繋ぐ必要性は………。
手を引かれての移動中。
きゅるるるるるるる………
宗くんのお腹が、今日も元気に鳴り響いた。
そうだ。
リビングに連れて来られて分かったことがあった。
この家。辰さんと宗くんが暮らすこの家に、生活感はそれなりあっても、何か足りないような、どこか寂しいような気がしていた。その理由がリビングに来て分かった。
この家は、生活感しかないんだ。
ここはまさに、暮らしているだけの家。
うちに多少ある飾り系のものが、宗くんの家にはない。それが物足りなさ、寂しさを生んでいる。
男だけの生活だから仕方ないのかもしれないけれど、本当に、必要な機能だけがついた必要なものしかないという感じ。
うちにも多くあるわけではない。
ただ、実くんが時々花を買ってきて飾ったり、クリスマスなどのイベントによっては、実くんが奮発して買ったオーダーメイドの大きめのリースが飾られたりしている。
他にも、実くんが大好きな器作家さんと同じお店に売っているらしい小さなガラスの置き物やサンキャッチャーも。
決して多くはないけれど。
そういうのが、この家には。
「明の弁当食いたい」
宗くんの一言に、僕はいいよって宗くんがテーブルに置いてくれたリュックから、お弁当が入った保冷バッグを出した。
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